最悪の連鎖
僕の勇者の経験とはあまりいい思い出はなかった。
いつも何かと荷物持ちをやらされたり、敵からの攻撃の盾役を必然としてさせられていた。
理由はごく単純だ。
僕は決して死なないからである。
それでも痛みはあるし苦しみだって味わう。
不死身の肉体再生という神から授かったスキルがあってもその人形のように扱う同級生に腹立たしい気持ちが毎度のことで募っていた。
だけど、僕はスキルこそ稀だったけれどそれを活かす力量がなくただ他人に言われるがまま従うのが自分の勇者としての存在意義だとどこかで掛け違うかのように思い込んでしまった。
同級生に逆らえる気力もなく、彼らのいいように弄ばれた。
だけど、そのことが今は間違いだったとわかった。
それをわからせてくれたのは今瀕死の重傷を負ったヒトリさん。
「もうすぐです!」
過去の勇者経験で散々に荷車を引いて人力車のようにされていた経験が役に立つ。
村まであと少しで到着だ。
目先に見える村の灯。
村の灯は提灯か何かだと思った。
「なんだよこれ……」
だが、それは絶望のベルを鳴らす荒ぶる炎。
夜の闇にはその炎の凄まじい勢いが暗闇に相まって恐怖にみえた。
村人たちが必死に魔法で鎮火作業をしていた。
中には泣きじゃくる子供までいる。
あまりにもひどい現状を見ると人としての情が沸き上がる。
この村の惨状を見捨てるなどできない。
過去の勇者の経験の癖からか困った人は助けないといけないと身体が勝手に動いた。
「ヒトリさん、待っていてください!」
荷車に怪我したヒトリさんだけを残して、僕は村人たちの手伝いを始めた。
まずは火をどうにかしないと民家や人へさらなる被害を及ぼしかねないと判断する。
水魔法の知識はあったので詠唱をし、手を掲げた。
「ウォーターレイン!」
村全体に急激な雨雲が浮き上がり雨を降らす。
次第に村全体の日はあっという間に鎮火したが、焦げ臭さは消えない。
同時に村の悲惨な焼けた後さえも消えはせず人の心に陰鬱な気分を残した。
焼けた後の村を眺めて涙を流す村人の中から一人の老人が歩み寄ってくる。
「これはあなた様が……」
村の代表のように出てきた老人を一目見て、僕は老人がこの村の村長だとなんとなく察することはできた。
村長らしき人物の問いに嘘で返す意味はないので素直に返答をする。
「えっと、まあ」
「あなた様のその格好よもや……勇者様ですか?」
周囲の村人たちが明るさと奇跡の人を目の当たりにしたかのような縋る目を向けてくる。
羨望の眼差しを向けられても僕には焼けた村を復興する力など持ち合わせてはおらず困ってしまう。
だから、まずはここに来た目的から話を切り出す。
「待って! 僕はただこの村の人をここまで送りに来ただけなんだ! そしたら、村の状況を見て鎮火の助っ人をしただけで……」
「そうでしたか……」
「そうなんです。ごめんない。それで、今その人が大けがをしていてだからこの村で治療を頼みたく――」
だが、僕はそれ以上の言葉が出ない。
周囲の状況を見て頭が冷静になったからだ。
今この村は火災に巻き込まれていたばりで、村事態にも被害は甚大で多くの人が治療を求めている。
医療器具さえ焼けて足りない可能性もあった。
その中で治療を求めるなど図々しく、無茶な望みである。
「申し訳ございません。この村の治療士である女性は連れ去られさらには医療道具さえもなく……この村では……。ちなみにその怪我をしたという村人とは?」
「ああ! まっててください! 今荷車を――」
「荷車!? よもや、ヒトリ・ラーフですか!?」
「えっと、下の名前までは聞いておりませんがヒトリって名前で間違いはないです」
「なんてことだ……。そういうことですか」
何かわけを理解したような顔をする。
「とりあえず、ヒトリさんを連れてきますね!」
僕は慌てて荷車に向かった。
僕はヒトリさんに近づく。
一瞬で気づいてしまう。
荷車の中で冷たくもう彼が息絶えていることに。
「うそだ! 嘘だぁああああああああ!」
絶望した。
彼を救うために来たというのに行いは手遅れとなってしまったのだ。
僕の絶叫は焼けた村をも表すような悲痛な叫びにもなっていた。