司祭の思惑
内容を教えてもらうということで僕は別の部屋に連行をされていた。
とある一室の部屋に案内をされる。
そこには数人ばかりの可愛い亜人女性がいた。
この司祭の側室だろうかと思わせるような妖艶な衣装に着飾った女性たち。
司祭はその部屋にいた女性たちを追い出すと奥の玉座とも思わせるような椅子に腰かけた。
「さて、単刀直入に言うとだね我々はクーデターを計画しているのだよ」
やはりというべきだろうか。
なんとなくそのような予感はしていた。
司祭のような男のふるまいや妙にこの地下室のような空間でひっそりと暮らしているような生活背景を思わせる雰囲気。
周囲の者たちは彼らに従って行動をしている。
何よりも彼らには明らかに例の神聖皇国イルシアの魔法の首輪があるのに魔法が発動していない状況。
それらを観察していて僕はある種ここは秘密の神聖皇国イルシアの内部に不満を抱く勢力のコミュニティだと思っていた。
「数年前に魔王が死亡してからというものあらゆる国が体制を激変させ、多くの国では王による独裁政権も始まったところも多くある。この国もその一つであり、昔は平和的な多民族国家として成り立っていたこの国も今ではその平和さは見る影すらない」
司祭は昔の平和を憂うように過去の歴史を語り始めた。
「階級制度というよくわからない体制を作り種族差別を激化させたのだ。さらには階級のために取り入れる闘技場制度などで民衆の娯楽を作って他国からの貴族を買収する始末。この国の平和さはもう廃れたといえる」
「確かに僕もこの国に入ってそれを見ました。酷いものだというのは理解しています。でも、クーデターを起こしたところで何かが変わるんですか?」
僕は極力戦争を回避したい気持ちを抱いているので戦わない策案を問うた。
しかし、彼がその問いに示した返しは憎悪の眼差し。
「見たのならば戦争でしか解決策はないとわかるだろう! 私は頑張ったのです! これでも、うまく上に取り入ってギルドを作りあげて一部の者たちを私の解呪魔法で階級制度から救っていた!」
「ギルド……。そういうことですか。あなたがあのギルドのメンツをまとめ上げていた人だったんですね」
酒場にいた傭兵崩れのような者たちが信奉していたものが目の前の司祭だったとようやく気付いた。
「僕を捕えたのはあの場でイルシア皇国につかまってあなたたちの不利益な情報でも流されると困ったからですか?」
「違う! 本当に我々はただクーデターに協力をしてほしいだけだ! 偶然か奇跡か、奴隷勇者とその名を世界に轟かせたあの勇者が自分の管理するあの酒場に現れたのだ! それを逃さない手はなかった。だから、思ったのだよ。あなたのような存在がいればこのイルシア皇国を内部から再び変えられると考えたからこそ、こうして捕縛させていただいたのですよ」
「ならば、どうしてあの場の騒動の時にすぐにあなたは介入しなかったんですか? クーデターを起こすならばその時でもよかったのでは? 第一にあなたの仲間はイルシアに従って僕は襲われそうになりましたけど」
「それは貴殿の力を確かめるためでもあった。なによりも状況を把握しておきたかったのと貴殿の目的を深く探る必要性もあった」
それであのような行動を傭兵崩れのような者たちに指示していたということか。
「いいでしょう。それで一応は納得します。でも、だからってクーデターには協力しませんよ」
「なら、あなたの大切な方がどうなってもいいというのですか?」
相手の脅迫に僕の沸点も切れた。
「ユキさんに手を出してみろその首を本当に切り落とすぞ!」
「っ!」
司祭が怯んだ表情を見せる。
すぐに口元をにやけさせる。
「あは、これが魔王を討伐した勇者の殺気! やはり、クーデターにはもってこいです! タイミングよくあなたはユークラシオン大帝国と共に来てくれている」
「そこまで情報を……」
ますます司祭の考えには歯止めが利かない理由に納得のいくことだった。
「なぜ、魔王を討伐したあなたがそこまで恐れるのですか! もともとこの国を壊す気で来たのでしょう?」
「それはそうですが、僕は決して争いごとをしたいわけじゃない。できるのならば争いをせずに物事を進める方法がいいと思っています」
「奴隷勇者ともあろう方が何を甘いことを言うんですか! あなたはあの魔王を殺したんでしょう! そもそも、この原因になったのはあなたたち勇者が原因でしょう! なのに協力もしないとは虫が良い話じゃないか!」
「ぐっ」
すぐに反論はできなかった。
確かに司祭の言うとおり、この国も元をただせば僕たちが招いてしまったことになる。
そもそも、この国に来たのもユキさんの復讐を手伝うためだ。
だからといって国そのものを破壊したいわけじゃ僕はなかった。
ルカル村を壊した本当の犯人への復讐を手伝いさえできればそれでよいと考えていたのだ。
(それは甘い考えだったのだろうか)
困惑してしまう思考。
「ならば、あなたは明日にモア国の姫が処刑されると聞いてもまだ戦わないというのですか?」
「え」
初耳の情報に思わず僕は掴みかかろうとしたがその間に上から急に落ちるようにして現れた忍び装束のくノ一に首元にクナイを突き付けられ身動きを止める。
「やめるのです、アマリ」
「ハッ」
司祭の指示でスッと虚空の闇に消えていくくノ一。
「あなたは先ほどからずいぶんと信用できない嘘ばかりですね。僕に協力を得ようとしておいて僕のことをしっかりと警戒しているのはどうなんですか?」
「これも保険と思ってください。実際あなたはまだ了承をしていないし、先ほど私に攻撃を仕掛けようとしました」
「確かにそうでしたが、あなたは3人目の僕の仲間を知らないと言っておきながらしっかりと現状を理解していたのにそれを黙っていたからです」
「あの場で即座にあなたが従えば話をしていましたよ。すぐにね」
どうにも信用性に先ほどからかけるこの男の言葉一つ一つ。
だけれど、人質としてユキさんは取られてる上に、ツキナが国に処刑される日取りが明日となるともう迷いはできなくなってしまう。
僕は荒ぶる感情を抑え込むように強くこぶしを握り締めて決意を固めた。
「わかりました。クーデターを協力をします。でも、僕は僕でツキナさんの救出を優先に考えさせていただきます」
「おや、ユークラシオン大帝国の姫と騎士は良いのですか?」
「あの二人は最初から仲間なんかじゃないです」
「それは勇者とは思えない発言ですね」
「あらかじめ言っておきますが僕はもう勇者じゃない。元勇者です」
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