商人のやり方 後編 改稿
商人のやり方後編ですがほぼ、商人のやり方? って感じの話です。
「アハハハ、おいおいおっさん。俺らを見て何がしたいかわからねぇのか?」
ヒトリさんの気軽なあいさつに対して返ってきた反応は僕の想像の通りの展開だった。
相手は盗賊。
愛想のふるまいに快く答えるなんてことはない嘲笑いが返るのは当たり前のことすぎた。
「あ、あのヒトリさん」
僕は心配で声をかけるも彼はにこやかに僕へと笑みを返すだけ。
ただ、黙って見守ることにする。
「何分これから村へと帰省なのでね、品物はだいぶ少ないんだ。それでもいいのであればお主たちに譲ろう」
それが商人のやり方だと言わんばかりにヒトリさんがにこやかな笑みを向けた。
「商人は誰であろうと物をねだるものがいれば譲ろう。ただ、身の危険があるのであれば命と物を交換するのもまた商人のやり口だ」
そう彼の言い分は堂々とした発言であった。
自分の命を守るために自らの物を命と等価交換として盗賊へ支払うという商人のやり口。
潔いのか馬鹿なのか。
それは彼なりの流儀なのだろうと僕は傍で見て痛感する。
だけど、盗賊の反応はヒトリさんの計算外だった。
「おいおい、マジかこのおっさん」
盗賊たちは笑いながらしたり顔を浮かべた。
そして、言う。
「馬鹿だな」
「え」
「おっさん、俺らは盗賊で荷台はついでなんだわ、今回」
「なんじゃと?」
後ろの荷台を乱雑に開け、侵入する盗賊の集団。荷台から品をおろしていく。
さらに、ヒトリさんを引きずり下ろした。
「おい! 彼をどうする気だ!」
御者台から引きずり下ろされたヒトリさんに剣を向ける盗賊のリーダー格っぽい赤髪の男。
僕は腰に携えた剣の柄に手をかけたが――
「おっと、そこの兄ちゃんは用はないんだ。物騒なことを起こそうとすんなよ」
「物騒なことをしようとしているのはそっちじゃないか!」
僕の言葉に対して相手の癇癪へと触れた様子でぎろりと睨みつけてきた。
「おいおい、生意気言うなぁ兄ちゃん」
「僕に攻撃したって僕は死なないぞ」
「へぇー、なら試すか」
背後に突然として盗賊一味の一人が回りこんでいた。
僕の首は容赦なく掻っ捌かれた。
呼吸はあっけなくできなくなり首筋からはどばどばと血があふれ吹きだす。
「カイムくん!!」
ヒトリさんの焦った声だけが耳にこだまして聞こえた。
僕は血の海に倒れ伏す。
「さあて、おっさんいい条件を出してくれたところうれしいけどね」
「お主たちのような盗賊にはひれ伏したりはしない。わしはこれでも商人だ。物でどうにかする」
「だからよぉ、俺たちに商人のやり口は通じねぇよ。そもそも、目的はアンタなんだよおっさん」
「なに?」
「こちとらもう報酬はもらっているんでね」
盗賊の首領の掲げ上げた剣は振り下ろされる。
右腕を切り落とされたヒトリさんの嘆く声だけが耳に劈くように聞こえた。
「ひとり……さん」
「おいおい、まだコイツ生きてんのかよ」
僕の首を切裂いた盗賊の一人が背中を踏みにじっている感触が伝わる。
僕は力強く拳を握って勢い良く立ち上がった。
その衝撃を受けて男が転倒した。
「何っ!?」
「この男!」
盗賊たちが一気に僕へと警戒心を強め始めた。
盗賊たちが一様に僕のことを見て驚き始める。
そう、誰しもがこの僕のこの力を見てこの世界ではおどろくんだ。
「なんで、首の傷が治っていやがる?」
「こ、コイツまさか噂の――」
その一瞬の言葉を遮る様に腰に携えた剣を抜いて、盗賊の二人を一閃して斬り殺した。
「アズ、クロ! てめぇらその男を殺せ! 殺したやろうは後で俺の金で娼館をおごるぞ!」
「まじか!」
「ひゃっほぉおい!」
次々と迫ってくる盗賊たち。
動きは単調で見えやすい。
左からの切り上げ、右からの切り上げ。
どちらもたやすく回避すればよい。
左の切り上げならば右へ身体を傾け、右ならばその逆へ。
跳躍からの切り落とされた斬撃などバック回避などで避けられる。
長年の勇者活動の経験は戦闘にいかされている。
回避の流れからの相手の隙を生み出して僕の斬撃波は簡単に敵を薙ぎ払い斬り殺していった。
盗賊が10人いたはずがたった一人首領格のみになった。
「おまえ……そうか。その貴族のような格好と若い男、そして、その不可思議な能力。噂の召喚された最弱勇者か。だが、勇者はもうこの世界からいなくなったはずじゃないか? あのうざい魔王を倒して……」
「僕だって帰れたら帰りたかったさ」
「あ? よくわからねぇが何かあったようだな。だが、これは思わぬ収穫だ。おめぇのような奴でも捕縛して奴隷市場にでも売り払えば高値で取引してもらえるってもんだ」
「僕は勇者の中でもいくら弱かったとはいえ、盗賊相手に捕縛されるほど弱くはないんだよ!」
「ハッ、俺をただの盗賊だと思うなよ!」
盗賊の剣が振るわれた直前、僕は咄嗟に間合いを取った。
盗賊が僕の反応を見て驚嘆していた。
「アハハハ、さすがは最弱とはいえ勇者か。この剣が魔剣であるのを咄嗟に感づいたとはな」
「さっきから最弱最弱ってうるさい! 最弱でも勇者で魔王を討伐した一人だ。その魔王の傘下が作っていた武器くらい見覚えはある」
「なるほど。じゃあ、この能力もわかってるだろう!」
盗賊の首領は魔剣を地面へと突き刺した。
地面を影となって伝い黒い複数の手のようなものが地面から浮き上がって僕を襲う。
僕の首元へと迫った。
迫った直前に手は剣へと変形する。
僕の首筋にその刃は突き刺さった――
「アハハハハ! この魔剣の毒で死ぬんだなぁ!」
と盗賊の首領は嘲笑いに満ちて勝利の余韻に浸った。
だが、目の前の突き刺したと思っている僕は幻影でしかない。
首領が陽炎のように僕の影が消えた時に驚いた顔を見せていく。
「まさか、幻影っ!?」
「終わりだよ」
「しまっ――」
僕は背後から囁き、後ろから剣を突き刺した。
「なぜ……お前は弱くて能力も不死しかないはずじゃ……」
「僕は確かに不死身の人形って言われた最弱勇者。だけど、魔法が使えないって誰が言った?」
「誤算だ……こりゃぁ」
血の海に沈んだ首領の亡骸を僕は哀れみをもって見下した。
慌てるようにヒトリさんに近づいた。
彼が腕を抑えて苦し気にうめく。
「ヒトリさん! 僕の血を飲んでください!」
僕は自らの腕を斬り、そこから滴る血をヒトリさんに勧めた。
「これを飲めば、ある程度回復を――」
その僕の腕をヒトリさんは振り払った。
「ワシのことなど構うな……それよりも何か嫌な予感がする。はやく、ワシを村にまで運んでくれ……その荷馬車と一緒に」
「いや、でも……」
僕は荷馬車を見る。
荷馬車の馬は騒動に乗じて逃げてしまった。今はただ、千切れた手綱とボロボロの荷車だけになっている。
さらには息も切れそうなほどに瀕死のヒトリさん。
「ヒトリさん、村まで送るにしてもあなたが死んだら意味はない! だから、早く僕の……」
「はあ……、本当に優しい勇者だカイム。お主のような男が本当に勇者であったと心底うれしく思う」
「なに、最後の言葉みたいに言ってるんですか! やめてください!」
「いいや、最後だ。わしに勇者の力で傷を癒そうとしても効かぬ」
「え」
「ワシは先祖代々から受け継いだ特殊な体質の持ち主でな、魔法や効力が一切効かぬのじゃ」
「え」
「じゃから、先ほどの魔剣による毒は効果ないとわかっていたのか腕を斬って致命傷を与えるとはあの盗賊もやりおるわい」
ヒトリさんの声が次第に低くなっていく。
それに僕は涙を浮かべながら焦り始めた。
とりあえず、ヒトリさんを担ぎ上げて御者台に乗せた。
「お主……何を……」
「傷が治せないなら村まで運んでそこで治療を受けさせます」
「このまま荷車を押して行ってか?」
「はい! いくら効果はないってわかっていますがそれでもこれを」
荷車にあったコップ一杯に血を流しこんでいれたものを彼に勧めた。
「まずいのはすみません。でも、気休め程度にのんでください!」
「まだそんなことを……」
「その体質だって跳ね返せるほどの勇者の効果だって可能性もありえます! だから、飲んでください!」
「……わかった」
「僕はその間に荷車を動かして村へ行きます。たしか、この近くの村って……」
「ルカル村じゃ。そこが……ごほっ」
「ヒトリさん!」
「大丈夫……じゃ」
僕は心配な気持ちであったが彼を救うために急いで荷車を手で引いた。
それは人力車のごとく。
ここからはバトルありき日常ありきの話になっていく予定です。次掲載は来週を予定しております。




