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ユークラシオン大帝国姫との邂逅

 首都ムストアの歓楽街を突き抜けていくと大きな城が見えた。

 畏怖堂々とした聳え立つ巨上に僕たちは案内されるようにして入っていく。

 正しく言うならば案内なんていう表現は違うのかもしれない。

 それは連行という言葉が妥当であろうか。

 王城内の長い廊下を歩いてどこかへと連れていこうとするアターシアと帝国騎士団団員のミストラーテ。

 ミストラーテもこの大帝国の騎士団で僕が勇者時代で知り合った数少ない騎士団員の一人である。


「もたもたするな。 遅れたら即座に斬り捨てる」


 アターシアの身勝手な言葉がこちらを怖がらせる。

 そのままどんどんと奥へと彼女は進んでいく。

 脅し文句ともいえる圧力に僕たちは急いだ。

 そんな中でも平然とした態度でいたのはツキナとユキさんだった。

 特にユキさんは周囲を興味深そうに観察しているために僕らより出遅れていた。


「ユキさん、急いでください」


 僕はユキさんの身を案じて急かした。

 態度を改めず。


「どうしてあんな奴に言うこと聞かないといけないの? カイムさんならあんな女どうってことないでしょ!」

「なっ!」


 とんでもないことを口走って反論をしてきた。

 それに焦りながら僕はアターシアの方を窺ったが聞こえていないのかどんどん奥へと進む。

 アターシアの隣の少女は気づいたようにこちらをちらっと振り返っていたが見知らぬふりを通して進んでいってしまう。


「はぁー、ユキさんここは危険な場所なんです! いくら僕でもここの人たち全員を倒せる保証はできません。素直にここは従ってください」


 僕の必死な頼みにそれでもユキさんは不満そうな顔を崩さない。


「おい、何をしているついたぞ!」


 揉めている間にも目的の場所に到着したようだった。

 大きな門扉をアターシアが押し開ける。

 扉の軋む音が響いて開く。

 中は支柱に囲われた大広間で床は絨毯が敷かれている。

 第3者が見てもわかるような部屋の存在感。そこは一人の王が居座り、対面するために設けられるような部屋だと。

 まさにその通りであり、奥に一人の女性が玉座に鎮座していた。

 ゆっくりと僕たちはその王座の間に入る。

 玉座に鎮座した女性の様相を窺う。

 変わらずも綺麗な容姿をした人。

 鋭い眼光と瞳、整った美貌が目立つ。綺麗な銀色の髪とスレンダーな身体つき。

 絵画の中から出てきたかのような女神様のような存在。

 その美貌もさることながら彼女の存在感もまた凄みを感じさせる。

 玉座に座ってわかる通り彼女はこの場で最も偉い人物。

 大帝国の王妃、イリア・ルー・ユークラシオンである。

 僕は即座に彼女の前で平伏した。

 同時にアターシア達帝国騎士団も平伏する。


「お久しぶりですわ、カイム様」

「お久しぶりです王女殿下」


 彼女ににこやかなあいさつが返ってきたと安心したのも束の間、彼女から絶対零度のごとき冷たい殺気が放たれる。

 僕はその事がなぜかとわからず彼女の方を窺って、ある一点を見ていることに気付いた。

 自分の隣だ。


「っ! 何しているんですかユキさん! それにツキナも!」

「私は他国の姫に下げる頭は持ち合わせてないわ」

「私は元より姫であり、主のような小童の姫などよりもよほど長生きしとる。歳の甲では私が勝っておるのに首を垂れる必要があろうか?」

「な、何を傲慢なことを言ってるんですか! 今はプライドを捨ててください!」


 しかし、二人の女は頑固として譲らなかった。

 同時に騎士団たち二人からも険悪な空気が立ち込める。


「貴様ら姫様の御前でその態度叩き斬っても文句はないな」

「ちょっと、待ってください! 話し合いをさせてください!」

「奴隷勇者、貴様もかばい立てすれば容赦なく斬る!」

「っ!」


 らちが明かないとあきらめた時に大仰なため息が聞こえた。

 それは王女様のため息だった。


「もういいですわ。こちらも強引に呼び出してしまったわけですから少しくらいは大目に見ますわ」

「王妃様がそうおっしゃるのであれば」


 アターシアが剣を収める。ミストラーテもまたホルスターにかけていた手を離した。


「して、何ようでこのようなところに呼び出したわけなのじゃ? 私たちは急いでいるのであるが」

「あなたたち神聖皇国イルシアに復讐するのですわよね?」

「……なぜ、それを知っておる?」

「我が国の情報能力を甘く見られては困りますわ」


 彼女は薄ら笑みを浮かべてモア国の姫とユキさんのことを観察している。


「それに我が国も一役買わせていただけないかと思っておりますわ」

「なに?」


 この王女の言葉に僕も耳を疑う。


「主は戦争でも始める気か! そんなことをすれば――」

「国を失った姫が何を言うんですの? 今はまさに戦火の時代ですわよ」

「っ」

「少し前までは魔王なんて存在がいたからこそみんなが手を取り合って停戦状態であっただけの話ですわ。まぁ、中にはあなたのように内乱で国を失うなんて事例もありましたけど」


 ツキナが彼女の言葉を受けて悔し気な表情をする。

 過去を思い起こしているのか。


「我が国も国を失うなんて事態は避けねばなりませんわ。だからこそ、領土を増やし力をつけていかねばなりませんわ」

「つまり、強力な他国を先に潰して自国の安全を確保するというのが名目か?」

「ええ、その通りですわ。特にイルシアは最近不穏な噂を聞きますわ」


 王女の言い分を聞いた後ツキナが気に食わなそうに言う。


「なるほどのぉ。だから、ワシらのような存在に縋ってでもぬしらはあの国を滅ぼしたいわけか」


 続けてユキさんが怒りを爆発させた。


「ふざけないでよ! たしかにこっちは復讐は臨んでるわ! でも、あなたたちの勝手な理想に巻き込んでの復讐なんか望んじゃいないわ! 何よりも腹立つのはカイムを見捨てといてまた必要になったからって呼び戻すその傲慢な態度よ!」


 それは僕のことも思っての彼女なりの気遣った言葉。

 僕は思わず心に暖かなものを感じる。


「ユキさん、ありがとうございます」

「お礼を言うくらいでしたらカイムさんもいつまでもあんな王女に平伏していないでよ!」


 彼女にそんな言葉を言われては僕も顔を上げざるえない。

 僕はそれでも顔を上げるのをどこかで躊躇した。

 それは彼女に恐怖を感じているからだ。

 僕は本当の彼女の顔をしっている。


「はぁー、うっざいですわ」


 彼女は腰に携えていた剣を抜く。

 瞬時にその場から消えた。

 僕は咄嗟に動いていた。

 ユキさんの前で王妃と剣と剣でせめぎ合う形になる。


「性格は昔からのようですね。自分の思うとおりに行かなければ気が済まないのは」

「邪魔ですわ奴隷勇者。どいてくださらない?」

「どけません。どいたらあなたの手でユキさんは殺されます。僕にとってユキさんは守るべき人ですから殺させないためにもどきません」

「ちっ」


 王妃は剣を引いて戻す。

 僕も安心した束の間、彼女の鋭い剣が僕の胴体を貫いた。


「ぐふっ」

「カイムさん!」


 油断したと後悔をする。


「あなたを国から追いだしたのには理由があったのをご存知かしら?」

「金がなくって僕が勇者としての身分ではなくなったからじゃないのですか?」

「あははは、本当に人を信じ切ってかわいい人ですわ」


 彼女はほくそ笑んでから隣に目を向ける。


「僕にあの場で言った言葉は全部嘘だったてことですか?」

「嘘ですわ。金とか勇者の身分とかどうでもよかったのですわよ。あなたには外であらゆる国の内情を知ってあわよくばあなたのその正義感で一国潰せれば上々と考えたために外に追い出したのですわ」

「は? なんですかソレ? じゃあ、僕が苦労したりトラバルト国で危険にあったのはあなたが仕組んだということですか?」

「いえいえ、仕組んではいませんわ。それは偶然に重なって起こったものですわ。私はただそうなることを見越しはしていましたけど」

「見越す?」


 彼女は途端に顔を手で覆うとそっと再び手を離した。

 僕は王妃のその瞳孔を初めて目にする。

 奇妙な星のような模様。

 その姿を見た時にツキナが声を震わせ始める。


「まさか、噂には聞いておった。どうして大帝国はどんどんと未知の魔道具文明をそこまで発達化させていくのか。魔道具だけでどうしてそこまでトラバルトよりも国の領土を広げることができたのか。それは未来が見えてるからではないのかと」


「未来……まさか、未来視?」


 僕も確信いくように断言した。

 王妃は笑う。


「正解ですわ。私の未来であなたはそこの大魔力を持つ女と亡国の姫と出会う運命を私は見ましたわ。トラバルト国を滅ぼす未来まで見ましたの。だからこそ、わたくしはあなたを国から追放しましたわ。さらに世界へあなたのことを知らせた」

「だから、トラバルト国の王が僕のことをあんなにも早く気づいていたんですね」

「くくっ、どんなにあがいてもあなたの運命はもう最初から私の手のひらですわ。あきらめて私に手を貸しなさい。奴隷勇者、カイム・ユーシ」 


 彼女は指を鳴らしてさらなる逃げ場を奪わせる。

 二階席にいつの間にか潜んでいた様子だったらしい騎士団たちが姿を現す。

 彼女らの手には様々な魔道具が握られてそれらをこちらに構えて向けていた。


「さあ、もう選択肢はありませんわよ」

次回更新はまだ未定です。早くても来週の木曜日以降を予定しておりますが待たせる可能性があります。


申し訳ございませんが気長にお待ちいただけると幸いです。



本作品を読んでくださった方々様、少しでもこのような拙い文章の作品ではございますが面白いと感じてくださったならブックマークよろしくお願いします。

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