商人のやり方 前編
御者人は商人だった。
あらゆるものを売って街を放浪する商売人。
僕を追放した国を同じくして商人のヒトリさんも仕事を終えて出国したところを偶然に僕を見つけたようであった。
救われた僕は感謝しかなく、神様は恨んでいるが偶然の行いに救われたのだ。
今は商人である彼の商売の荷馬車に乗せてもらい、彼の住む村へと向かう。
「なるほど。お主はそれであそこで倒れていたのか」
恩義もあり、僕は自らの出来事を彼に語りながら道中の時間つぶしをしていた。
でも、話をすることによって若干の陰鬱した気分は薄れてはいた。
「災難であっただろう。あくまで私個人の意見なのだがね、お主の功績を称えることをしない神のいる世界など逆に帰るのが間違ってると思うべきじゃないかね」
「え」
「たしかに、そこの世界ではお主の人生もあっただろう。だが、聞くところによるとお主はその世界でも苦労をした人生だった。そうじゃないかい?」
「それは……はい」
「なら、前向きに考えるんだよ。その世界での苦労があったならそれを忘れさせてくれるような楽しい冒険を今からこの世界で歩みだせばいい。元居た世界に残した未練とやらもあるのならばそれさえも忘れるほどにこの世界で充実した満たされるような冒険をしてみるのもまた一つの手ではないかい?」
「冒険……」
「お主は勇者だ。この世界でお主の功績を称えないのもおろう。だが、全員が全員ではない。この世界でお主の功績を認めてる人もいる。だから、前向きに考えてみたらどうじゃ?」
ヒトリさんの快いアドバイスと前向きな姿勢を促す言葉には微かばかりの光があった。
若干心を揺れ動かす。
思えば、あの帰還する際に思っていたことはつらいことを思わせるようなことであった。
あの世界に戻っても未練が残りそうなことも少しはある。それは家族のこと。
「まぁ、まだ考える必要があるだろう。それもいずれはこの世界でいろんなことを見聞きすれば変わる。お主は勇者としては活動して冒険を得ていただろうが普通の民として冒険をするのとでは違いも出てくると思うぞ」
「普通の民……」
「放浪者になってみるといい。お金に困ればギルドで小遣い稼ぎくらいはできる。なんなら、私が商売を教えてもよいぞ。あははは」
豪快に笑いながら僕にここまでよくしてくれる彼の暖かさはありがたく涙があふれた。
「おいおい、どうした?」
「すみません。今まで僕にここまでよくしてくれた方はいなくて」
「どんだけ、お主は報われなかったのだね。まったくおかしな話だね。もしかしたら、お主と共にいた者たちが悪い影響をもたらしていたのかもしれないな」
「僕と一緒にいたもの……確かにそうかもしれません」
彼のいうことはすべてが最もな意見であった。
自分のすべては肯定されたかのような晴れやかな気持ちに満たされホッと落ち着いた吐息がこぼれる。
「ヒトリさん、ありがとうございます。すこしばかり考えて見ます。僕の人生を前向きにこの世界でどう生きていくか。すべてを忘れて」
「うん、それがいい。悪いことは忘れるのが一番だ。お主は一人になったことで新たな人生を歩める門出が開いたんだと思うことさ」
「はい」
彼の快い言葉が僕の骨身に染みだし、決意の胸を抱く。
唐突にヒトリさんの目が急な険しさを帯び始めた。
「ヒトリさん?」
「困ったな」
彼の視線の先を見れば前方に数人の男どもの群れ。
なにやら不穏な空気があった。
手には剣が握られている。
「ヒトリさん、恩義もあるので僕が」
「いいや、戦いではあのような輩相手では何も生まれぬよ。ここは年の功を見せねばの」
「ヒトリさん?」
荷馬車は男の群れに近づくと一時ヒトリさんは馬を止めて停車した。
目の前の山賊相手にヒトリさんは堂々とした発言をする。
「どうしたんだねこんな場所で」
とまるで同郷のモノにでも挨拶するように。