ルカル村の魔物たち2
今回はユキさん視点のお話です
私は彼に怒鳴れ、自らの過ちを後悔した。
彼に嫌われたことへの悲しみが絶望の波を押し寄せるように彼の目の前から逃げるようにして消えた。
向かう先は柱のある場所。
少しでも彼の気持ちに対する汚名返上をしたかった。
今さらながら奴隷少女に対しての自らの行動を悔いる。
「カイムさんの馬鹿。私はただ奴隷を嫌っていたんじゃないのよ。あなたを思っていたからこそ嫌っていたのに。なのに……」
だけど、少しでも彼のことを思えば体が勝手に協力するように動いてしまう。
懸命にあの場所で戦う彼が想像できた。
「カイムさん、大丈夫よね。そうよ、あの人は不死身だから死なないはず。それに、私が今戻っても彼の信頼は取り戻せない」
なればこそ、やることは一つしかない。
少しでも私の気持ちを理解してもらうためにも。
「私の村をめちゃくちゃにするこの魔道具は許せることじゃないわ!」
そびえ立つ柱の前まで到着した。
私は柱を見上げて手をかざす。
「っ!」
手に魔力を収束させようとするが疲労が募っていたこともあってか手に集まる魔力がうまく定まらない。
ぶれてしまい、バチバチと火花を散らし始めた。
このままではまずいと感じて一度消す。
「私の今の状態では魔力コントロールがうまくいかないっ!』
初めて自覚する状態におもわず奥歯を噛み締めて悔しさを抱いた。
ここであきらめるわけにもいかない。
もう一度、集中した。
彼と闘技場での思い出やあのトラバルト国での死闘をイメージして全神経に魔力を流す。
身体全身に魔力を浸透化させることに成功すると、両手を前に突き出した。
「エアバース!」
光の台風の砲弾が柱へと着弾する。
轟音を鳴らして、ひびが入り蜘蛛の巣状に広がっていき柱の一つが瓦解した。
「やったっ!」
一つ目の破壊に成功してガッツポーズを思わずしてしまう。
周囲の状況を見て変わらないことに絶望を味わう。
「わかっていたことだけど、一つじゃ変わらないってこと! そもそも、どうしてルカル村は襲われなきゃいけなかったのよ! 何をしたっていうの!?」
思わずいら立ちが口から出た。
同時に今言った言葉に対して深く熟考した。
そもそも、なぜこの平凡な村が襲われたのか。
このルカル村は『アイル大国』と呼ばれる穀物や果物など食物豊かな物産大国として知られる国の領土内にある村。
一番平和で戦争とは縁遠いような国の領土になっている村。
この国の領主も平和主義者で戦争を嫌い、極力争いごとにならないように人力をしているという人物だ。
また、襲われたときにも対処をできうるようにルカル村はそれなりに有力な兵士や冒険者もいる。
ヒトリ・ラーフもまたそうであったように。
この村はそんな強い人たちの支援もあり魔物や山賊くらいからは守られていたというのが現状として現れていた。
しかし、トラバルト国が襲撃してきてからは状況は一変している。
「この平和こそすべての村が何をしたっていうの? 第一、村が壊滅することすらありえないと思っていたのにどうしてこんなに数日で悲惨なことになってるのよ!」
そもそも魔王がいた頃もひどかったけれども今はそれよりもひどい有様のように感じた。
あまりのひどさに吐き気すら覚える。
「魔王……」
魔王という言葉で思い出すのはカイムの存在。
彼は魔王を倒した勇者である。
「まさか、彼を追跡した何者かの仕業? だったらこれは彼が……」
ふつふつとゆがみ切った悪意が煮えたぎってくる。
だが、すぐに首を横に振った。
「何を馬鹿なことを考えてるのよ私は! 彼は私を救ってくれた人でしょ! それにカイムさんを追跡するだけじゃここまでしたって意味ないわ。他に理由があるはずよ!」
そこまで考えた時にどこからか悲鳴が聞こえた。
老人の苦しさを訴えた呻きめいた声。
それは村の墓地の方だった。
「今の声…まさか、おじいちゃん!」
やっぱり生きていたと安心して慌てて急いだ。
墓地の方に向かった。
ちょうど、墓地の方にはもう一つ柱が立っていた。
もしかすれば、生き残っていた村人たちがまだ懸命に戦っていて原因の柱を壊そうと奮闘しているのかもなどと期待を胸に抱いた。
だが、その期待は粉々に砕け散る。
「ナニコレ……」
墓地には多くの死体が転がっていた。
その死体たちはどれもがこの村を統括している街の領民たちと領主さまに村の有力な冒険者や元兵士のおじさんおばさんたちだった。
顔見知りの人の死体は心にぽっかりと穴を開けるような気持ちになる。
その死体の山でわずかに生きている人が2人だけ。
その人物たちはまるで戦いに明け暮れた後のような姿だった。
一人は老人で一人は若者の男性。
若者の男性は老人に剣を突き刺していた。
二人とも見覚えのある者たち。
「おじいちゃんになにしてんのよアーティー!」
私は全力の火炎弾を右手から放った。
その火炎弾を彼は抜き払ったそ剣で叩き斬る。
平然とした顔で彼は顔をぬぐって私を見つめた。
「おや、帰ってきたんだねユキ」
「アーティー、これはどういうことか説明して!」
私はさっそうとおじいちゃんの傍によってその身を守る様に抱きしめた。
おじいちゃんの命は今にも消えかかかっている。
すぐに治癒魔法を施し始めた。
「させないよ」
魔法を阻害するように剣を振ってくるアーティー。
アーティー・リフル。
私の幼馴染にして長いことこの村で有力な冒険者として彼は住んでいた一人の好青年。
村への貢献として冒険者として出稼ぎに出ている村の労働人。
そんな彼に攻撃を振るわれて私はすぐに斬られたことに気付かなかった。
腕から流れた血と痛みで理解して手を抑えてうめき声をあげた。
「うぅっ」
「アハッ、最高の声だね」
「アーティーっ! あなた気でも狂ったの!」
「狂った? 僕は正気だよ」
「だったら、どうしてこんなおじいちゃんを私のおじいちゃんを!」
「そんなのうぜぇからに決まってんじゃん」
「え」
彼がまた剣の切っ先を向けた。
「おまえさ、トラバルト国に連れてかれて何も思わなかったわけ? 今までこの村で長いこと安全に住んでたとこへ突然とトラバルト国に拉致された理由。それに村でお前の情報は安全に守られていたのにあっけなくバレていた理由をさ」
「な、何を言って……」
「アハッ! マジか。ばっかじゃねぇか」
嘲笑う幼馴染の見たこともない狂気の顔に背筋が凍りつく。
「俺は昔からこの村が嫌で嫌でたまらなかった。弱者を守り通すこの村の風習。あーあー、虫唾が走ったね。それに強者が出稼ぎに出て命を張る? ふざけんなって思ったよ。まるで奴隷さ。なのに村の奴らときたら平然とした顔でこっちの苦労も知らないで「大丈夫だった?」「ありがとう」で済ます毎日。こっちはなぁそれだけじゃあたりねぇんだよ! だったら、もう少し感謝をわからせるようなことを俺に示せよ!」
彼の剣は私の衣服を切裂いた。
私は悲鳴と共に身体を抱き、胸元を隠した。
「とくにてめぇだよ、ユキ。お前は本当にうわべっつらだけ良いような顔しやがってよぉ。弱者のふりして実は一番強い。ああ、本当にむかついたよ。ムカついて腹が立った。でもさ、顔は良いしおまけにエロい体していつもそそられていたんだぜぇ」
「っ!」
彼が剣をちらつかせながら近づいてくる。
「だけど、俺はお前に手を出す勇気もねぇ。そんな力や度胸があればって思ったさ。そんな時にそんな俺の夢とも思えるような存在が出たんだ。魔王アルベルト様だ!」
彼は陶酔したように語った。
「あのお方は世界を一瞬で屈服させる偉業を成し遂げた。まさに強者がこうあるべきという姿を見せてくれた。俺は憧れたんだ! そうさ、こうあるべきなんだって。でも、そんな魔王も勇者とかいうやつに殺された。俺のあこがれは消えたんだ。でも、逆に思ったんだ。ならば、俺はそんな魔王を超えられる存在になればいいって。すべてを自分の思うとおりにできるようにしていいんだって!』
アーティーに近づかれて後ろに下がっていくうちに自らが壁に追いやれらたことに気付いた。
「俺は冒険者稼業で知り合ったあらゆる国に提案をした。そして協力関係をある国と結んだ。まず手始めにお前を扱いやすい人形にする計画を考えた。ここまで言えばわかるだろう?」
「つまり、私やお父さんの情報をあなたが他国に流したってこと?」
「ご名答! だけど、誤算が出たんだよ! あー、まったく腹立たしいことに契約した国が裏切りやがった! しかも、お前を逃がしたとかほざいた! だからよぉ、僕は新しい国と手を結ぶことにしたんだ」
その時に背後に妙な威圧的空気を感じて振り返る。
そこに真っ黒なフードを着飾った男がただ一人座っていた。
その男の足元に一人の死体。
「ちょっと、お父さんの死体をどうするというのよ!」
「ギャハハハッ、だから言っただろう俺は新しい国と手を結んだって。そして、新しい改革を俺は始めるんだ。まぁ、うれしい誤算としてはお前が村に無事帰って来てくれてよかったけどな。なにせ、最後にお前を味わえるんだから』
知らなかった幼馴染の抱えた闇を知った私は絶望しながら彼の魔の手にどうすることもできない恐怖を感じる。
(カイムさん、助けて!)
私は哀れにも自らの行いで私を嫌ったはずの彼に救いを願ってしまう。
「はん、誰も来やしねぇよ。お前と一緒に来た男なら時期に魔物に食われ――ぶがっ」
彼は言葉の途中でどこかへと吹き飛ばされる。
そんな幼馴染を蹴り飛ばしたのは空から降ってきた男。
背中には一人の奴隷の少女を背負ったまるで勇者のような登場。
彼は元勇者。
その威厳が立ち込めるような畏怖堂々とした姿で彼は言う。
「お前らは僕の大事な人たちに何をしようとしているんですか!」
次回の更新は来週を予定していますが日曜日か月曜日を予定しています。ですが、早ければ金曜日に更新できるかと思います。
待たせる可能性もあります。
申し訳ございませんが気長にお待ちいただけると幸いです。
本作品を読んでくださった方々様、少しでもこのような拙い文章の作品ではございますが面白いと感じてくださったならブックマークよろしくお願いします。




