ルカル村の魔物たち1
今回はあくまでこの章のはじまりの話となります。
襲いかかってきた魔物はそれぞれがいびつな形状をしている様々な種類たち。
元の造形フォルムはあらゆる動物を想起させるような体形をしている。
トカゲのようなものもいればワニのようなもの、ライオンやウサギなど。
そんな元の形状がゆがんだ存在に変わってしまっている。紫色の肌をしていたり、角を生やしていたりする。
それらがこの世界の魔物。
見るからに獣のような存在が悪臭を放ち、口から明らかに村人たちを食した後と思われるようなおぞましい臭気を放っていた。血と涎を滴らせながら魔物たちは鉤爪を振るう。
戦闘経験の多さが自らの反射的な魔法防壁を展開する行動が命をつないでその攻撃を防いだ。
防がれた魔物たちが衝撃を受け隙が生まれる。
そこへすかさず僕は魔法を放つ。
「ブレイズ!」
炎の斬道の衝撃波が襲い来た魔物たちを包み、一瞬で焼き殺す。
あくまで、その行動は一時しのぎにしかならない。
まだ第2波のように襲いきた魔物たち。
中には飛行型の魔物もいて永遠と防壁魔法で防ぐことは難しくある。
考えあぐねていたその間にユキさんが独断行動に走った。
第2波の魔物へと電撃の魔法浴びせて感電させ、村の中に入っていく。
「おじいちゃん! 何処なのおじいちゃん!」
懸命に彼女は祖父の生きていることを願うように叫んでいた。
ここは彼女の地元であるのだから親戚がいてもおかしくはない。
だけど、この惨状を見るからに生きているという保証はできない。
彼女は自らの家族の存在を探すのに必死で背後からの魔物の攻撃に気付いていない。
「仕方ないです! すみませんがちょっとつかまってください!」
僕は奴隷少女を腕に抱きかかえる。
左手をかざし、前に来る魔物たちを風魔法で弾いた。同時に自らの身体を浮遊させ、魔物を飛び越えて彼女の背後に衝撃波を放って着地する。
ユキさんまで巻き込む結果となったのは致し方なかった。
そうでもしなければ命が危うかったという判断だ。
「ちょっとどういうつもりよカイムさん!」
「落ち着いてください! 今危なかったんですよ!」
彼女は怒鳴り返されてようやく冷静に周囲の状況を見直した。
「ごめんなさい」
「気持ちはわかります。でも、まずは魔物に注意しないと」
立ち止まった矢先にすぐに魔物の大群は押し寄せた。
「お兄ちゃん、あれ見て」
「え」
この時ずっと今まで喋ってこず大人しかった奴隷の少女が初めて言葉を口にした。
僕は驚いて少女を見る。
少女は何かを指さした。
それはなぜ気づかなかったと思わずにいられないようなものが村の周囲を囲っていた。
「なんだあれ? トーテムポール?」
そう思うような柱の存在が4つほど村を囲っていた。
よく観察しそれがただの柱ではないのだと気付いた。
「まさか、あの柱……」
過去に勇者活動を行っていた時に数多くの魔物たちを相手にしてきた中である存在と対峙したことがあった。
魔王の軍勢傘下で幹部をしていたある男の存在。
ソイツは魔道具や魔物を操ることに長けた存在でいわゆる『魔物使い』と呼ばれていた。
その男は総じて魔法を発動する際に魔道具を用いて魔物を使役することがあった。
「この悪臭、死臭だけじゃない。魔道具が放つ魔物に効果を放つ臭いもあるから。あれはそれか」
「そうだよ……だから、お兄ちゃんあれを早く壊して。私も……」
少女が形見を震わせ始めた。
突然と目を赤く光らせて僕の首筋へとかぶりついた。
「うぐっ」
「カイムさん! やっぱり本性を現したわね!」
ユキさんが咄嗟に魔法を放ったが僕はそれを奴隷少女を守る様にして背中を魔法攻撃に対して向けた。
電流が肌を焦がす。
苦痛に耐えながら僕は叫ぶ。
「ちょっと、何してんのよ!」
「この子は今魔道具に操られてるだけです!」
「魔道具?」
僕は柱を指さした。
「まさか……じゃあ、この状況は……」
誰かの仕掛けたものだと気付いたユキさん。
「僕はこの奴隷少女を落ち着かせてます。だから……」
腕の中で懸命に抱きしめながらも暴れ狂う獣奴隷少女。
この子は亜人『ウェアウルフ』。
いわゆる『魔物』と『人間』との間にできた子供であるがために魔物の血が暴走している状況に陥っている。
まずはあの柱を壊せばこの場にいる魔物も奴隷少女おそらくは沈静化して問題は解決するはずだと読めた。
「周囲の魔物も襲ってきているのにここにカイムさんを置いて私だけ柱を壊しに行けっていうの!? そんなことできないわ! そんなことよりそんな奴隷を捨ててしまえば良いだけじゃない!」
「あなたは一番奴隷になった人の気持ちがわかるはずじゃないんですか! あのトラバルト国で受けた仕打ちを忘れたんですか!」
僕は思いのたけをぶちまけて叫んだ。
「っ!」
「人に嬲られて、弄ばれて自分のこともわからないのに勝手に嫌味をつけて。彼女も立派な被害者です! あなたがどんなことをこの子に思っているのかわかりませんがこの子はまだ幼い女の子じゃないですか!」
ユキさんは何かを決した目をしてそのまま柱に向け得て駆け出した。
魔物たちが後を追いかけようとするが僕は少女に食われながらも、左手を動かして魔物に向けて光の矢を降らせ自分に注意を向けた。
「おい! 獲物ならここにあるんですよ!」
自らは決して死なぬ身体であることを今は幸運だと考えてしまう。
その身体に群がる魔物と奴隷少女が自らの身体を食うのを利用して膨大な電撃魔法を叫ぶ。
「ライジングパラライズ!」
すべての魔者たちが膨大な電流を浴びて一斉にマヒを起こす。
当の僕は半身を食われてなお意識を保たせるように必死で自らの身体に電撃を流し続ける。
「ここで意識を失えば魔物の注意を自分へと引けずに終わってしまいますからね。どうか、どうか、頑張ってくださいユキさん」
徐々に体が元に戻り始めてきてもう一度立ち上がる。
僕は周囲を見ながら魔物が集まるのを感じて笑う。
足元に落ちている何かの記章を拾ってそれをぎゅっと握りしめた。
「まさか……」
危ういものがまた迫っているのだと確信が持ち始めてくる。
魔物の牙が迫る。
一瞬であっけなく凍らせた。
冷酷に冷静になる僕の心。
頭上に手を掲げて天候を変質させる。
変質した原因を探る様にして魔物が集まり始めた。
魔物の注意を向けさせる一種の行動。
大きな魔力に惹かれやすい魔物の特性を今は生かす。
「さあ、どんどん魔物たち来てくださいよ。今の僕は少々怒ってます」
僕の精一杯の魔物との戯れが始まった。
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