森の先に見えた景色
今回は短いお話です。
トラバルト国から脱出してから2日ほど経過していた。
トラバルト国から離れた場所にあるルカル村に帰るために僕たちは森林の中を歩いて2日も経ってしまっているのには理由はある。
トラバルト国からルカル村までは距離が離れていて本来は馬車を利用して移動が必要な距離だ。
それを歩きともなれば時間もかかった。
疲れてダメージの残る身体ではより時間はかかってしまう。
それに今の僕には一番気にしないとならない人物がいる。
助けた一人の奴隷少女の存在。
彼女はまだ体が小さく幼い。体もやせ細っていて体力も僕やユキさんに比べると全然ないといえるほどだ。
「そろそろ限界かな。ユキさん、すみません一度休みませんか?」
僕の声に反応し先頭を切って歩いていたユキさんがこちらを振り返る。
「私は早く村に帰りたいのだけど」
文句のあるような含みを持たせた強気な姿勢の言い回し。
彼女の目は明らかに後ろに向けられる。
「そもそも、カイムさんに面倒を見てもらってお礼もないし、ずっと無口だし。あなたいい加減にしたらどうなの?」
「ユキさん、彼女は僕が勝手に連れてきたわけですからお礼とかは必要ないですし」
「カイムさんはよくっても私の気持ちとしてそれは良くないと思うのよ。だいたい、この子は私たちが合わせて行動していること自体気付いていないのよ」
トラバルト国から脱出して以降からユキさんはどうにも奴隷少女に対して当たりがキツイ。
そもそも、ユキさんは奴隷をあまり良いように思っていない節を感じていた。
(最初に連れてきたときもどこかに置いて行こうと否定的でしたし、やっぱりいろいろ嫌な気分にさせてますよね)
僕は悩みあぐねてしまう。
すると少女がぎょっと僕の手を握ってくる。
明らかな怯えを滲ませた表情。
見捨てないでという訴えだ。
最初の時もこんな感じであった。
「ああ! もうまたそうやってカイムさんを頼るのやめなさいよ! 」
「まぁまぁ、ユキさん。相手は子供ですから」
「カイムさんもそうやって奴隷をどうして甘やかすのよ!」
「甘やかしてなんかいないですよ」
「だったら、この子を好きになったの!? そういう趣味!?」
「趣味ってなんですかっ!?」
くだらない言い合い。
そんな言い合いに呼応するように突然と森に異様な叫び声が聞こえた。
思わず吃驚して身構えた。
「今の何?」
「たぶんですが、魔物かと」
「魔物って、冗談じゃないわよ。ただでさえ、まだ体力が回復していないのよ私たち」
「とりあえず、急いで森を抜けましょう。そうすればルカル村にたどり着けますし」
僕は少女を抱きかかえた。
「ちょっと、カイムさんっ!」
「え、なにか?」
「どうしてその子を抱きかかえるの!?」
「いや、このまま抱きかかえて走ったほうが早いかと思いまして」
「やっぱりそっちの趣味があるんじゃ……」
「だからないですって! とりあえず森を抜けましょうよ!」
「怪しいわ」
疑う目を向けれながらも急いで森を駆けだした。
背後から何かが近づいてくる気配が確かに感じ取れた。
「何か来ていますね」
「この際、お荷物奴隷なんか捨てて私たちだけで逃げるのがいいのよカイムさん」
「ユキさん! そんな酷いこと言わないでください!」
「ごめんなさい、そうね。私今焦って酷い発言をしたわ」
「とにかく急げば、ほら目の前に見えました。出口です」
森を抜けれた先に見えるルカル村の景色に期待が膨らんだ。
しかし、待っていたのは絶望の光景だった。
焼け跡のようなルカル村と村人たちの死体の山。
そして、多くの魔物が死体を食い漁っていた。
「いやぁああああああああああ!」
その光景を目にしたユキさんの叫びがこだました。
叫びに気付いた魔物たちが自分たちへと襲いかかったのであった。
次回更新は来週を予定しております。更新曜日は未定ですが木曜日か金曜日にはお届けできるかと思います。
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