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トラバルト国からの脱出

トラバルト国編の最終話です。

 ユキさんに肩を貸しながら火の手の上がるトラバルド国内を抜け出すために街中を駆け抜けていく。

 道中では何者かわからぬ黒衣を纏った者たちが市民を襲撃して嬲り殺していた。


「いったい何が起こってるんですか。どうして魔王もいないはずなのになんで……」


 僕が勇者として活動していた存在意義がまるでなかったかのような惨劇が目の前で行われている。

 魔王もいなくなった現代に戦争などありえない。

 ありえないはずなのに戦争のような行為が行われている。


「とにかく早くこの国を出ないといけないですよね」


 歩くスピードがどうしても落ちる。

 女性一人を支えながらだとこの炎の中を歩くのにも体力的に厳しいものがあった。

 僕の辛い表情は彼女が察しないはずもない。


「……このままだと黒衣の連中の標的にいつされるかわからないわ。私を置いてもう逃げて」

「ユキさんを置いて行くなんてできないです」

「どうして、そこまで優しいの! 私はあなたを見捨てたのよ!」

「そんなのどうだっていい!」


 僕はあまりにも彼女が意固地に卑屈な態度に腹立たしくなって思わず怒鳴り返した。


「あ、すみません」


 そんな怒声が敵の注意を引き付けてしまった。

 周囲の襲撃者たちがこちらを見て、徐々に近づいてくる。


「やっちゃいました」


 肩を貸していたユキさんに僕は突き飛ばされる。

 尻餅をついた僕の前に守る様にして仁王立ちするユキさんの背中。


「さあ、これでわかった。私を置いて逃げるのがベストなのよ」


 彼女は手を前にかざして魔力を集めるが片膝をつく。


「ユキさん!」


 慌てて彼女にもう一度肩を貸した。

 見るからに彼女は衰弱しきっていた。

 狂人女からの拷問の後に戦闘を繰り広げ、大魔法を使用している彼女の身体は限界にならないはずはない。

 体力も魔力も膨大にあっても底はある。

 だから、それが今限界なのだ。


「そんな状態で僕を逃がそうとか無理ですよ」

「無理じゃないわよ、私が囮になるくらいどうってことない!」

「僕はそんな形で逃げたって気分は最悪ですよ!」

「っ!」

「だから、今は一緒に逃げましょう。僕にとってはもうあなたは大切な人も同然なんです。国へと売られた材料にしていたとしてもそんなのどうだっていいんですよ」

「っ……そんなに優しくしないでよ馬鹿」


 僕らのことなどお構いなしに敵の存在は襲いかかった。

 瞬時に魔法の防壁を展開して敵を吹き飛ばす。


「ユキさんはここで休んでいてください」


 僕は息を吸い込んだ。

 拳を作り、神経を集中させる。


「ブーストオン」


 身体能力向上魔法を発動して、音速の世界へと入り込む。

 素早いスピードで敵の死角へと入り込んで魔法で作った短刀を首に突き刺す。

 一人目、二人目、三人目と殺していく。

 四人目を始末した時には周囲が散るように慌てて逃亡を図る仕草をしたので行動を停止する。


「やっぱり、さすがは勇者なのね」


 ゆったりした足取りで僕の方に近づいたユキさんが僕のことを称賛する。

 彼女は僕の足元の敵の死体を見つめながら死体の身体をまさぐりだした。


「ゆ、ユキさんっ!?」


 急なその行動に意味深な目を向ける僕。


「敵の正体がわからないままでこの場所を去るのは何か気分が良くないから少し調べてるだけ」

「あ、なるほど。そういう趣味の人かと思いました」

「どういう趣味よソレ」


 ユキさんは何かを手に取りだした・

 それは刻印の刻まれた短剣とどっかの国の紋様が刻まれた石のようなものだ。


「それは?」

「この短剣は『神聖国イルシア』のものね。それにこっちは何かはわからないけど神聖石に近い」

「イルシアって確か歴史を重んじている多民族国家ですよね?」

「ええ」

「じゃあ、ここの襲撃者はそこの?」

「可能性があるわ。とりあえず、これは他国への売る材料になるかもしれないからもらっておいたほうがよさそうね」


 何とも抜け目がない。

 この情報を他国への材料として交渉でもしようという魂胆なのだろう。

 トラバルト国の壊滅は誰もが知りたいはずだ。

 どこかで悲鳴がまた聞こえ始めて近くの建物が崩落し、王城が瓦解し始めた。

 その様子を見て僕は決意しながら彼女に手を差し出した。


「とりあえず急いでもう逃げましょう!」

「っ!」


 まだ渋っている彼女の表情に僕はうんざりしながら強引にその手を取った。

 急いで門のほうまで駆け出す。

 道中助けてと叫ぶ民衆は無視で突き進む。

 彼らに勇者として恩赦は与える価値はない。

 僕らを嬲り者にしてきた彼ら、彼女らに手を伸ばすことなどあるはずもない。

 しかし、ただ一点だけ僕は見捨てられなかった。

 あと数メートルで見えた門を前にして足を止めてしまった。


「ちょっと、どうしたの?」

「ユキさんは先に門を出ていてください」

「え? まさかここの国民を助けるの!? 馬鹿なこと言わないで! ここの人たちが私たちにどれだけ酷いことをしたか忘れたの!?」

「違います。国民を助けるわけじゃないです!」

「ちょっと!」


 僕は彼女に説明を開示もせずただ走った。

 小さな半壊した小屋の中でわずかにうずくまっている少女が見えた。

 彼女は奴隷として扱われていたのだろう。獣耳のかわいらしい顔をした少女。

 少女の傍には彼女の主人であったんだろう豪華なドレスを着飾った女が死んでいた。


「奴隷店か。そんな商売していたから罰が当たってしまったてやつでしょうね。ねぇ、大丈夫?」


 僕は奴隷に声をかけるが反応はない。

 だいぶ苦しそうに弱っていた。

 黒煙を吸いすぎたのだろう。

 急いで彼女を担ぎ上げて半壊して崩れかかっている小屋から彼女を助け出した。

 急いで門の方へと駆け出す。

 ユキさんの姿が見えた。

 外門が燃え盛っていて今にも崩れそうなのに気付いた。


「っ!」


 僕は急いで足を懸命に動かした。

 ユキさんが慌てて「急いで―!」と声をかけた。

 足に風魔法を付与して僕は疾走した。

 外門が崩れそうになったぎりぎりのところを滑りこむようにしてトラバルド国から脱出するのだった。

 中にわずかに取り残されたトラバルト国民たちの悲鳴だけがわずかに聞こえるのだった。

 もはや、トラバルト国の最後は惨めに哀れな結末に思えた。



 

次回から新章開幕になります。


次回更新はまだ未定です。早くても日曜日もしくは二九日の月曜日を予定しておりますが待たせる可能性があります。

申し訳ございませんが着ながらにお待ちいただけると幸いです。


本作品を読んでくださった方々様、少しでもこのような拙い文章の作品ではございますが面白いと感じてくださったならブックマークよろしくお願いします。

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