騙し騙され
大変遅くなりました。申し訳ございません。連載再開です。
最後の騎士だった怪物を倒して息を切らしながら大きく穴の開いた地下へと続く床下を見る。
「っ」
おもわず背筋がゾッとするような暗がり。
体力も削られているほどだったためにこの穴を飛び降りる自信がない。
「魔力も使い切ってしまいましたから着地ができないですよね」
魔法で受け身をとって着地するほかないこの穴の先。
肝心の魔法を使える状態にない僕には過酷な状況だ。
「もう増援部隊が来てしまっていますから早いところここから脱出も必須というわけですか」
僕に考えさせる暇はない。
下を見て死にはしないこの身体でも激痛は抗えないのは必須。
「死ぬ覚悟で飛び降りるしかないのか」
おのずと選択肢は絞られた。
穴に一歩踏み込んで飛び込んだ。
身体に生まれる浮遊感。
上では騎士が騒々しい声を出している。
僕は目をつぶりながら迫りくる死を待った。
――――穴の先に輝かしい光が見えた。
身体を焼き付かせる激痛と同時に意識は途切れた。
「うぅ」
「おやおやぁ? 目を覚ましたようですねぇ」
背筋を舐め回すかのようなねっとりとした声に僕は飛び起きた。
身体が動かず腕に力を入れて一心不乱に動いた。
「あーあー、無駄だよぉ。君は私の実験動物となったんだからねぇ」
「どうして僕はこんなところにいるんですか」
今の僕はどこかの謎の研究室の実験台の上で拘束されていた。
目の前には先ほどの出会ったあの気色の悪い病弱女。
彼女は何かのモニターパネルを操作している。
「僕をどうしようっていうんですか?」
「クヒヒッ、それは後のお楽しみだねぇい」
身体全身に痺れるような激痛が走った。
奥歯を食いしばって耐える。
「あはははは!」
意識は途切れ、再び目を覚ますと女の気色の悪い笑みが真正面にあった。
「アハァッ! 本当に不死身の身体とは興味深い! 実に興味深いねぇ!」
「僕今死んだのか……」
「そりゃぁ、高圧電流を直に身体へ流し込んでいったからねぇ。死ななかったら驚きだよ」
「そんなことして何になるんですか! 僕は痛みなんかに屈したりはしない!」
「まぁ、そうでしょうね。でも、彼女は屈してしまった」
「え」
狂人女は指を鳴らすと奥からおぞましい人間なのかと形容しがたい人の形をした何かが実験台に拘束されたある人物をつれてきた。
彼女は虚ろな目をして涎を垂らしほぼ植物状態といっていい状況。
「ユキさんっ! おまえぇ!」
「おっと、暴れたらまぁた彼女に酷いことをしちゃうよぉ?」
「っ!」
植物状態の彼女に注射器を容赦なく近づける彼女。
「しかし、見事に引っかかってくれて笑いがもう……ぷぷっ」
「あの穴、もしかしてわざとだったということですか?」
「お、察しは良いんですね」
「今の状況を冷静に考えたんです。僕がどうしてこんな場所に拘束されているのか。穴から先のことが思い出せないのはそういうことでしょう」
彼女は笑みを浮かべながら拍手をする。
うれしくもない拍手だ。
「あの穴は君を罠に引っ掛けるために最初から計画した上で私のモルモットを登場させたもの。だって、あの場所から私の実験動物が飛び出たり私が帰ればおのずと君のような一直線な思考ならばその先に彼女がいると考える。さらに、君は死なない。ならば、穴から降りる方法を考える。穴の着地点に前もって魔法を張り巡らせておけば君を捕縛するのは造作もない」
「っ」
怒りに我を忘れた、痛いところをつかれたというところである。
この敵は実験に関して執着している一面頭も切れているので厄介な相手でもある。
なによりも、まずいのは人質がいるというこの状況は僕にとっては非常に不利であった。
僕だけ逃げることはいくらでもできても彼女を元に戻さない限りは……。
(元に戻す?)
僕は最悪な発想を思ってしまう。
(それは失敗すら考えられる。でも、彼女の隙はできる)
僕は目の前の女に分からないように拘束された状態でも腕と大腿部は接着しているのを好機と見て自らの大腿部を爪で切り刻み始める。
「さて、続いてどうしてみようかねぇ、クヒヒッ」
「待て! 待ってください!」
「おや、命乞いかねぇ?」
「あなたの実験に協力したい」
「ん? どういうことかね?」
「僕の身体について情報を提供する。その代わり拘束を解いてくれ」
「それで逃げようとか言う魂胆じゃないだろうねぇ?」
「そんなことは考えてない。もう、僕に逃げ場はないと思ったんだ。だからこのままあなたの実験に協力したい。もしも僕が逃げるのを不安に思うなら片足なり片腕なりを切り取っても構わない」
さすがに無理のある言い分だったか、彼女は疑うような目をしながらメスを取り出した。
腕を振るうと足が一瞬で斬られたとわかった。
とんでもない激痛が走る。
彼女が即座に止血用のベルトを取り出して止血した。
「君の言葉を信じるかわりにまずは情報を言いなさい」
僕は心の中でほくそ笑み自分の身体についてのあらゆる情報を話した。
拘束の解かれた僕は足の痛みで自分が気絶しないように奮い立たせるのも精一杯だったが奥歯を噛んでどうにか踏みしめた。
ベットから立ち上がり壁や物を使って片足立ちでどうにか動いた。
「なるほど、その神という存在からの恩恵が不死身の能力というわけですか。その不死身の身体には血には治癒力を備えていると。自ら摂取した毒でその血は毒にもなりうると」
「でも、全部を治せない。あくまで他人の怪我は深い傷には効果はないんです」
「つまりは死者は復活できないと?」
「はい」
「くくっ、おもしろいねぇ」
モニターパネルに報告書でも記入しているのかまとめていた。
僕は拘束された彼女の傍に歩み寄る。
「だから、僕は試したことがないのが一つだけあるんです」
「おや、それはなんだい?」
「自分の肉を相手に食わせることです」
「ほうっ」
「もしも、その肉を食ったらどういう状況になるのか。それは生者にどのような影響をもたらすのか。興味ないですか?」
「興味深い! 面白い発想だ! ちょうど、この足がある。試しに誰かに食わせ――」
「待ってください!」
「なんだね?」
「今の上では死んだ騎士がたくさんいます。さらに実験となった騎士も。快く騎士が協力するとは思えないし、僕の血液を摂取できる人は強い精神状態や肉体を持っていないとならないんです」
実際はそんなことはない。
過去に僕の血を摂取する人物はどんな人物でもよく僕はそれで人を助けていた。
「なるほど、つまりは今この場にいる私が一番適切だと?」
「そうです!」
彼女がメスを突き付けてきた。
「君は私がこの肉を食って殺させようという魂胆じゃないのかい?」
「そんなこと考えてません。第一逆に考えてください。僕はある意味不死身で能力を他者にまで影響を及ぼす。つまり、肉を食えば僕と同じ能力を得る可能性だってあるかもしれないですよ」
「怪しいねぇ……」
「なら、いいです。別の騎士にでも食べさせてその能力を無駄にしたという後悔をすればいいと思います」
その言葉を聞いた途端、彼女は良かったように僕の足に容赦なくかぶりついた。
「おお! なんだこの感じ! 人の足を始めて食ったが美味い上にエネルギーが満ちるようだ!」
あまりにも悍ましい光景だったが計算通りだった。
「じゃあ、別の部位とか食べたらどうなるかとか検証しませんか?」
僕は手を差し出した。
痛みは覚悟の上である。
彼女が手にかぶりついた。
同時に指を鳴らす。
「うむこれは……うぐっ! ぐっふぅ!」
もがき苦しみながら倒れてく彼女。
僕の方を倒れながら睨みつける。
「貴様ぁ、だましたのか!」
「僕もあなたのような考えに準じたまでです。あなたの研究意欲を利用したんです。申し訳ないですけど、僕は他人に肉を食われる経験なんて何回もしているんです。このような身体なんでね。肉を食えば魔力を回復したり治癒力向上を得られます。でも、毒素を得た僕の身体を食えば死に至る」
僕は自分の傷ついた大腿部を見せた。
「毒魔法の術式!? 自らに施したというのか!」
「僕、毒はあまり効果ないんですよ。それがあなたに教えてなかった一つです。猛毒とかだったら多少効果あるんですがこれくらいだと効き目は薄いんです」
「ぐぅう……」
彼女はそのまま泡を吹きながら死んでしまった様子だった。
僕は慌てて解呪の魔法を自分に施した。
「毒が効果ないってのも嘘なんだけど」
必死で耐えるのができたのも過去のいじめられていた教訓だったといえる。
「嫌な教訓だったけど、あいつらにはそういう面では感謝しないとですね。それよりも早く僕の血を飲ませないと」
精神状態に効き目はあるのかはわからないが僕は眠った彼女に唇をかみ切りキスをして血を飲ませる。
一番今の効率的に早い方法だと考えた。
彼女ののどがなる。
「あれ……ここはっ」
「よかった!」
僕は慌てて彼女の身体を起き上がらせた。
「ごめんなさい。質問にはあとで答えます。まずは僕の背中に乗ってください! 今すぐここから出ます!」
僕は慌てて彼女を背負ってその実験室から逃げ出すように出口を探した。
「よしっ! 見つけた!」
見つけた出口から逃げ出すとその先は何と――
「うそだろ」
どこかの裏庭であり大勢の騎士が待ち構えていた。
次回の更新は来週中のどこかを予定しておりますが、また遅くなる可能性もあります。
その際は申し訳ないですがご理解のほどよろしくお願いします。更新は続ける見込みで予定しております。
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