ユキの後悔
お待たせしました。今回はユキのパートです。
試合の優勝者とし後の私、ユキ・ラーフはくすぶった気持ちのままに試合のスタジアムから牢屋に戻る最中に憎きこの国の王子であり、私の父を殺した諸悪の根源と出くわした。
「おめでとう、無事に優勝したようねぇん」
「ラッツハルト・トラバルトっ!」
「あらぁん、ずいぶんと嫌われてるわねぇん。私何かしたかしらぁん?」
「何かした? このような試合に渡しを出場させるように仕向けておいてよくそのようなことが言えますね」渡しではなく私では?
「仕向けたとは人聞きが悪い話ねぇん」
まるで悪びれもせず私へと接触を図るこの男の神経はどうかしているとさえ思えた。
私は腰に携えた短剣を手にして彼に向かって走る。
「父の仇ぃいい!」
だが、すぐに彼に仕えた騎士たちに取り押さえられた。
「ああ、そういうことでもあるのねぇん」
私はただの非力な少女であると思い知らされたのだ。
結局はこの試合の優勝者だって彼一人のようなものであった。
その彼のおかげで永らえた命といってもおかしくはない。
「優勝の功績もあるから今の行動は目をつぶってあげるわぁん。それよりも、本来はこの試合の優勝者には褒美を取らせる前にいつも始末してしまうのだけど、あなただけはちょっと事情が事情だけに扱いが難しいのよねぇん」
「っ! 優勝者を殺す? だって、彼は優勝した時に褒美をもらってるような……」
「ああ、その話ねぇん。彼は他国の交易に必要な勇者でもあったから活かしただけよぉん。そうじゃないやつだったら殺してるわよぉん」
「っ! なんて下劣なんですか!」
「口ぎたない小娘ね。まぁ、そんなことよりも」
ラッツハルトは私の顎先を持ち上げる。
「ねぇ、あなたは彼のような存在を見てどう思ったかしら?」
「え」
突然に問われた質問に私は戸惑った。
「私はとある交渉であなたに逢いに出向いたのよぉん。本来はこんな場所に居たくはないのよぉん。ねぇ、質問に答えて頂戴」
「彼って、カイムさんのことですか?」
「ええ。あなたは共に戦って彼への信頼関係を強固なものに気付いたはず。だけど、どう? いざ彼の本性を知ったあなたはそれでも信頼できるかしら」
「何を……そんなの彼のことはあなたなんかより信頼して……」
だが、口からは続きの言葉が出なかった。
私は見てしまう。
獣以下のような存在になった彼が人間を食らい勝利したあの悍ましい恐怖の象徴の姿。
「誰もがあの存在を見て畏怖するわぁん! ねぇ、この場所から逃げた後はあなた彼と共にいるつもりだったんじゃない?」
「それは……」
確かに気持ちとしてはそんな想像もしていた。
けれども今となってはその光景は揺れ動いてしまっている。
本当にそんなことができるのだろうかと。
「私は交渉がしたいのよぉん。ここで優勝者の褒美としてあなたにはその血液と彼を陥れる作戦に乗ってくれるだけで、潤沢な資金と今後一切かかわらないという褒賞を与えるわぁん」
「え」
「あら、聞こえなかったかしらぁん?」
「陥れる作戦って何? 彼をどうするつもりなの?」
「実はねぇん、私ねぇん、彼を自分の騎士にしたいのよぉん。奴隷っていうのが正しい話ぁん」
「奴隷……」
「そのためにはまず彼がその承諾するためにあなたには人質を演じてもらう必要があるのよぉん。どう? 乗ってもらえるかしらぁん」
「血とその作戦に乗ればお金とこの身の安全は保障されるのは本当ですか?」
「ええ、約束するわ。この世界の神に誓って」
私はその王の言葉に乗った。
私は試合の最後に見てしまった彼の姿に畏怖したばかりに彼を引き渡したのだ。
闘技場の中央で倒れた彼の死体を回収に行く騎士の姿を見て私は目をつぶってそらす。
「では、彼女を客室に案内してあげなさぁい。ミューラ」
暗闇の陰から一人の色白の女が姿を現した。
私は嵌めた王を信じて女ミューラに案内されるままに客室に案内された。
この時の私は愚かだったと後悔する。
なぜならば、今の私は彼を陥れた作戦の後に謎の実験室で体を拘束されてしまっているのだから。
次回の更新は来週月曜日を予定しております。