最後の試合 中編
今回はユキの自身の過去の語り部から始まります。
私、ユキ・ラーフという少女は普通の人生を歩もうとしてきたただの村人にすぎなかった。
生まれた頃には私に母はいなかった。父の話では母は優秀な魔法士だったが身体が弱く私を生んで早々に亡くなったことは父から聞いていた。それだからか、最初の頃は母を死なせたことで父が私に対して冷たく当たるのだと思っていた。
私を遠ざけるように仕事へと村のためと言い張って出向いてばかりでたまにしか顔を見せない父。
ほぼ、私のことを育てことなどない。
育ての親は尊重や村の人だった。
そんな父親の冷たい態度の真相に気付いたのは私が物心ついてある時にアイツらはやってきた。
私たちの村に押しかけたのだ。
「ここにヒトリ・ラーフという男はいるか!」
それは他国の兵士だった。
たまたま帰省していた父が彼らと何かを話していたかは当時の私にはわからなかったけれども妙にトラブっていた。
大まかなことは小さな私でもわかった。ある村に仕事で向かった時に父が盗賊に襲われていた貴族を救ったのがいけなかったということ。
その際に貴族が父を見て「驚嘆」していた。
この時に父に隠された秘密があることを私は知った。
『魔法無効化体質』だと。
「貴様っ、このことを承諾しなかったことを後悔することになるぞ!」
この日追い返せたと思っていたが、それから少ししてなぜか村に山賊や盗賊が押しかけてくる頻度が上がった。
私たちのルカル村には武闘派の人もいたために対処はできたけれども、限界は来ていた。
そんな時に魔王があらわれたのだ。
私たちには最初は魔王という存在は神様に近いように思っていたが現実は甘くはなかった。
魔王の力のせいで村で耕していた山菜が腐敗した土地のせいで実らずに飢えに苦しみ始める。
ルカル村を襲うモンスターの大群。
傷の絶えない村人を見続けて、私はある決意をした。
村を守るために私も戦おうと。
その決意に一番反対したのは父だった。
その父が反対した理由は単純に私を守るためだったがこの時の私には『いまさら何を父親ぶるのかと思ったのだ』。
私は言うこと聞かずある時に襲ってきたモンスターと戦った。
この時に知ったのだ。私に二種類の要素があると。
一つは母から受け継いだ『膨大な魔力』もう一つは父から受け継いだ『魔法無効化体質』。
この協力であり矛盾な二つの能力が私には備わっていた。
結果としてモンスターは退治できたが周辺諸国に私のような存在がいることを知られてしまったのだ。
魔王軍という存在を通して。
ある時に魔王が倒され、私は自らの魔力を活かして治癒師の道を目指してルカル村で経営を始めていた。
父とは結局疎遠となり、分かれた。
これは後悔もある。
あの後に襲いに来た山賊の言葉を聞いて昔から父と仲良くしておけばよかったと。
そうすれば、父とのめぐりあわせで出会った彼も死なせることもなかったし、もしかしたら今の私がこのような状態になることだってなかったのだろうか。
「そろそろ味わわせてもらおうか」
何度となく防御をしていたこの身体は限界を達していた。
シールドの防壁は薄まって、彼の暴力任せの攻撃に威力までを完全封殺できる余力がなくなっていた。
あと次の一撃で私は嬲られるのがオチだと見え始める未来。
何度と殴られていたからか、いつのまにか彼の死体の傍に私はいた。
「ごめんなさい、私がもっともっと父と分かりあえさえすれば」
そんな後悔の念を抱きながら彼にすがりつく。
「相棒の前でたっぷりとかわいがってやるぜぇええ、げへへ」
ギーヴの剛腕が私の身体へと手を伸ばす。
死を覚悟した。
目をつぶる。
空白の時は流れる。
いつまで立っても何も起こらない感覚。
ゆっくりと目を見開いた。
「え」
間の抜けたギーヴの声が私の耳にも届いた。
「おまえ、なんで生きて……」
ゆっくりとギーヴが倒れていく。
私の前にはボロボロの身体のままに立ち上がっている男の背中。
「僕はすごくふがいない、ふがいなくって今すっごく気分が悪いんだよ」
彼、カイムの声は静かに怒りに満ちていた。
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