最後の試合 前編
賭け試合の話、最終章です。
「さあ、観客の皆様。今日は数ある歴史に刻まれる1ページとなる最後の試合が始まります! その最後の試合に生き残ったのは数ある歴史の中で貴重な1戦を残し、歴史から唐突と姿を消した戦士のチームです! 皆様お待たせをいたしました! 盛大な声援でお出迎えをください!」
いつもの審判兼実況者のアナウンスが聞こえてくる。盛大な観客たちの声。
僕は嫌な気分を味わいながら背後にいる彼女に手を出した。
「一緒に行こう」
「はい」
ここまで長い道のりを得てユキさんとは信頼関係は根強くなっている。
彼女も僕を信頼し、僕も彼女を信頼してくれてる。
だからこそ、ここまで試合は勝ち残ってこれたことだろう。
吊り橋効果なんてことも考えられるけれどもそれでも信頼関係があったからこそ彼女は戦闘のすべてを僕にゆだねてくれた。
この試合が終わればすべては終了する。
(そうすれば彼女と逃亡するだけなんだ)
途端に鈍い痛みが襲う。
未だに休んでもぬぐい切れなかった痛み。
試合の連続で疲労やダメージが身体に限界を訴えてる証なのだとしてもこれが最後だから持ってほしいと願い一歩一歩ずつ前に進んでいく。
「あの、カイムさん? 平気ですか?」
「え」
「なんか、顔色が……」
「大丈夫ですよ。この試合も大丈夫です。僕はここにあなたを守ると覚悟を決めて来たんですから」
「…………無理だけはしないでください」
彼女は決して『やめてください』とは言わないでくれた。
それが何とも心助かる気持ちでもある。
ステージの中央に立って観客の声援の中に完全に包み込まれるようになった。
審判兼実況者や観客が静まり返る空気となる。
「本日はお集まり頂いた方には歴戦の戦士が勇者をすることを想い来ている方もおると思います! ですが、 今宵その夢は立たれることでしょう! 多くの歴史の中でこのトラバルド国を王の傍で守ってきた屈強の戦士! そう、彼こそはこの世界最強とも呼べるかもしれない! 本日のこの試合の最後の挑戦者の登場だぁああ!」
実況アナウンスを聞いて俺は震えることになった。
なぜなら、それはあまりにも異例なことだったがために思わず喉と頬が引きつった。
「ふざけんなよ……そんなのきいてないぞ!」
ドシンドシンと重苦しい足音が響く。
目の前の入場ゲートから砂埃にまみれながらゆっくりと歩み寄ってくる大柄な鎧をまとった巨体。
逆立った金髪と鋭い目つきを隻眼の男。
頬には二重の傷が入っているだけで勇ましく睨みで相手をひれ伏せさせるには十分迫力。
手にはその巨体に似合うような大きな斧が握られていた。
「最後の挑戦者は……トラバルド国元騎士団団長! ギーヴ・クランドロワァアアアア!」
観客たちが一斉に盛り上がる。
僕は目の前のその巨漢を前に震えてしまう。
彼は僕を見下ろしながら口を開いた。
「久しぶりだなぁ、ボウズ」
「ギーヴ……、死んだと思っていたよ」
「ああ。貴様の魔法で一度は死にかけたさ。だが、一応は生きてるさ。今日この日のためにまで生きたわけだがな」
「そうなったのも自業自得だ。あなたは魔王に唆されて国を裏切ったんだから」
僕も強気に相手を威嚇した。
相手もギャクギレのように睨み返した。
「もう一度、てめぇの前で女を嬲ってやるぜ」
「っ! ユキさんには指一本さえ触らせない!」
「ハッ! あのクズ王は嫌いだがこの機会をくれたことには感謝しないとなぁ!」
二人の会話を他所に試合の開始のベルが鳴った。
試合開始と同時にギーヴが手に持っていた斧を振るいだそうとした動きを敏感に感じユキさんの身体を抱えて僕は背後に向けて走った。
「ウォオオオオオ!」
斧を振るって巻き起こった旋風。
先ほどまで自分たちがいた範囲のだいたい5メートル区域までが地面がえぐれていた。
「あ、あの化け物なんですか!」
「あの人は元この国の騎士団長だった人。過去に僕らと魔王討伐に行った人でもあって僕らに戦い方を教えてくれた人でもあります」
「え……じゃあ、師匠ということですか?」
「…………そうなります」
「そんな人相手に大丈夫なんですか!」
「一応、昔に一度勝っています。彼が魔王側についたときに戦ってね」
「魔王側に?」
あの時は色々とあったと思い込む。
過去を想起させるような巨漢。
「あの男ずいぶんとあなたを恨んでる理由が何かあるんですか?」
「魔王軍に組した後の彼を倒したのは……僕ですから」
「え」
ギーブが斧を旋回し始める。
彼は次の攻撃を放つのにだいぶ時間を要する。
「彼は1度の攻撃との間に隙は生まれますが威力が絶大です! なるべく距離をとって戦いに徹します。だから、ユキさんも僕と同じに合わせて移動をしてください。あと、防御の結界をお願いします」
「普段通りですね」
「はい! 次来ます!」
目の前から旋回させてから放つ、台風のような砲撃の攻撃が眼前に迫った。
彼女を抱えながら上空に跳躍するとギーヴの真上を飛び越えて先ほどの場所から反対位置に移動する。
しかし――
「ばぁか! そんなの想定しているんだ!」
「え」
急激に光る足場。
それが設置型の魔法と爆風による攻撃を食らった後に僕は気づくのであった。
だけど、瞬時に回復する僕の不死身の身体があれば大丈夫だと思いながら身体を起き上がらせようとしたが身体が起き上がれない。
胴体が真っ二つになっているどころか両手足も千切れて飛んでいる。
それは起き上がれないも同然だったが、不死の僕には徐々に肉体再生を起こす能力がある。
(おかしい……意識だけが薄れる……肉体が戻らない……)
薄れゆく意識の中でユキさんの悲鳴が聞こえた。
ユキさんは魔法無効化体質で設置型の魔法には耐性があった。
唯一何も効果なかったのだ。
「おいおい、どうしたぁ? 奴隷勇者は不死が売りじゃなかったかぁ? 肉体が戻らねぇようだなぁ」
男のゲヒタ笑いと観客の騒然としたざわめきだけが聞こえる。
(戻れよ! 戻ってくれ!)
ギーヴがゆっくりとユキさんへと近づいていく。
彼女は手から極大の魔法を放って対抗した。
ギーヴの身体に着弾しても彼は平然とした顔で近づいていく。
「女だけが残ったのは好都合だ。どこまで耐えられるかなぁ」
ユキさんの張る魔防の結界に彼が一撃一撃を加え始めた。
(……そういうことなのか。昨日からの痛みは……)
僕は気づいてしまった。
ゲームでよくあるマジックポイントみたいなものが不死身の能力には備わっていたのだ。
今までは平然と無制限に使えてきていたと思い込んでいたが、そうじゃない。
あの時と今とではだいぶ死ぬ頻度に差がある。
(連続で死にすぎたのか……)
身体は痛みを発していたのは傷が治癒していなかったことの証明。
最後の魔法で体が肉片でなったことで再生力は停止している。
(僕はまた助けられないのか……僕は何のために……)
必死で魔法結界で彼の攻撃から維持するように粘る彼女の横顔を見ながら僕の意識は闇に沈んでいってしまった。
次回の更新は金曜日を予定しております。