痛みとの葛藤
すみません。大変お待たせいたしました。今回はショートパートの話です。
僕とユキさんの試合は順調に勝ち進んだ。
それこそ苦難を強いられるようなことも散々にあったが、彼女を守るために僕は必死にその身を犠牲にして彼女のことを懸命に守り切った。
そのたびに彼女は申し訳なさそうな顔が脳裏にちらついた。
ついに来た決勝戦前夜。
僕は謎の眩暈に襲われていた。
「くっ」
試合の疲れで熟睡している彼女の傍で僕はこめかみを抑えながら痛みと葛藤する。
急に鈍く走る頭痛と眩暈が視界を悪くさせた。
「何かの影響? いや、でも試合中に何かの毒を仕掛けられたことはないのに……」
自らに及ぶ危機に困惑しかない。
よりにもよって決勝戦を控えたタイミングである。
この後の戦いを勝ち抜けば、僕はあのふんぞり返った王様を一矢報いるチャンスが来るというのに。
それが叶わないのかという絶望が感情として現れていく。
「僕はこんなところで倒れるわけにはいかないのに」
僕のうなされるような声がついに彼女を起こしてしまったようにユキさんが身体を動かした。
「どうかしたんですか?」
おもわず息をのんだ。
すぐに僕は心配させまいと平静をよそおった。
「少し寒くて。でも、もう大丈夫です」
よそおった言葉にユキさんは真面目に受け取ってしまう。
そっと、その身を寄せてきて抱きついてきた。
おもわず心臓の鼓動が早まった。
「え……あの……ユキさん?」
「こ、これなら寒くないですよね」
彼女の耳が真っ赤なのが僕には見えていたがただ何も言わずそのまま抱き着かれた。
ひたすらに彼女がどういう心境でこんなことをしてくれているのかと混乱はしていた。
(…………こんなの正直身が持たない。でも、相手は恩人の娘だ! 絶対に手を出すんじゃない僕は彼女を守る騎士になるって覚悟を決めたんだから!)
と決意を固めていても男としての正直な部分は出ていてしまう。
「あの、カイムさん何か硬いもの持っていますか?」
「うゎあああああ!」
思わず彼女を突き飛ばしてしまう。
小さく可愛らしい悲鳴。
「ごめんなさい!」
「あ、いや、こちらこそ抱き着いたりなんて……嫌でしたよね……えへへっ」
うっすらと目じりに涙を浮かべながらの彼女の顔を見て慌てて取り繕うとする言葉を考える。
「私もう寝ますね」
その返答に四苦八苦して思い悩んでる間にユキさんはそっぽを向いてしまった。
僕はタイミングを見失ったことに後悔をしながら「すみません、あなたを嫌いになったわけじゃないですから」と言葉を残して彼女に背中を向けて寝そべった。
その間にも痛みはどんどんと増していたが明日になればすべてが収まっていると信じて深い眠りの底についたのであった。
次回に決勝戦の話を書きたいと思います。次の掲載予定は月曜日を予定しております。