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闘技場の試合 中編

少し早めの更新になりました。すみません。前の話でユキの言葉遣いを少し変更しています。

 観客たちは舞う血しぶきに興奮と活気に沸いた。

 この闘技場はトラバルド国の名物でもある娯楽競技。


 貴族たちが金を投資して誰が勝つかに賭ける試合。

 出場者はどれもが奴隷や捕虜となった犯罪者。

 中には虜囚とされた元王族や他国の兵士なども存在する。

 

トラバルド国の秘密の『賭け試合』

 そのために他国へバレないために地下で行われており、毎度死者を出しているにもかかわらずそれらは秘密裏に処理されておりなかったことになっている。


 そうしたことが多いためにトラバルド国ではある裏の噂もあった。

『トラバルド国と関わると突然として消える者も現れる』


 民族階級を特に市域した軍事国家だけに他国はこの国と協力を結ぶにも噂が絶えぬことがあるので協力関係に一喜一憂する国は多くあった。


 だけど、国の中には協力を結ぶために自らの捨て兵を使い派遣することもよくある話だった。


 そのために過去に勇者として活動していた皆無勇士一行は召喚してくれた王女が渋りながらも協力国として命じたのがそういう理由だったのだ。


 皆無勇士は『賭け試合』に出た経験もあったからこそ、有名であった。

 同時にある異名もついた。


 奴隷勇者。


 タッグ戦のこの試合で常に操られていた側の立場にいた皆無勇士に名付けられた名前でもあった。


 だが、それとはもう一つ別の意味もあったのだ。


 それは彼が奴隷のように見すぼらしく汚くなりながらも這いつくばってでも起き上がって完全に勝利する勇ましい戦士の姿を観客が想起したからだ。


 彼の戦う姿はまさに隷属された戦士。

 今宵はその彼の勇士をまた見れると期待していた観客が多かった。


 それは結果として観客の期待通りだった。


 舞った血液は皆無勇士のソレだった。


 アイアンの突貫攻撃を受けそうになったユキ・ラーフを風の魔法で突き飛ばして自らがアイアンの攻撃の軌道に身を乗り出して彼女を守った。

 

その結果、彼の身体が派手に肉片を飛び散らせて壁へと激突したのだ。

 ぐちゃぐちゃになった身体。

 胴体の半分の肉がそがれ、両手足は変な方向へと曲がっていて骨が突き出すようにして見えていた。

 一目で死んだとはっきりとわかるような絶望的光景。

 当の勇士も意識を失いかけていた。


「いやぁああああああ!」


 おもわずユキはその惨状を目の当たりにしてうずくまるように叫ぶ。

 場内アナウンスが盛り上がりを告げる。


「おおッと! なんとこれは予想外の展開だぁあああ! 最初に奴隷勇者の仲間が殺されるかと思えば吹き飛んだのは奴隷勇者だぁあああ! 彼は大丈夫か? あの状態では戦闘不能だ!」


 アナウンスの雰囲気や会場の空気はお構いなしにアイアンとドレットのコンビは次の攻撃に入っていた。

 二人にとっての敵はまだ残っている。

 この賭け試合はなにも観客だけに裕福な利益があるわけではない。

 選手にも特権はあった。


 それは優勝すれば、国から出してもらうだけでなく爵位をもらえたり金をもらえるというおまけつき。

 過去に皆無勇士はその名誉と地位を手に入れている。

 だから、皆無勇士は国で有名である。


 彼らもまたその名誉と地位と金を欲する強欲の悪魔になっていた。

 強欲の悪魔と化した二人の続ける攻撃は先手がドレットによる空中からの剣の雨だった。

 光魔法によって形成された剣がユキに降り注いだ。


 彼女の柔らかそうな純白の肌を切裂こうとするが、『パリン』という妙な乾いた音が鳴る。


「ぁんだ?」


 ドレットがその光景に訝しんだ眼をする。

 観客たちも不思議なものを見るようなどよめきを起こす。


「えー、ただいま入った情報によりますと彼女はなんと特殊な体質で魔法を受け付けない『無効体質者』だと判明しております。これはなんとも有益な奴隷でしょう! これを手に入れたお客様はさぞ有名になるんじゃないでしょうかねぇ」


 その言葉に観客たちが騒めきながら叫ぶ声が聞こえ始めた。


『アイアン死ねぇえ!』『女負けんなぁああ!』『奴隷勇者死んだふりはもう済んだかぁあ!』


 観客の勝手気ままな発言はユキの耳にも聞こえていた。


「ふざけんじゃない、ふざけるんじゃないですよ」


 ユキは考えていた。

 勝手に村にやってきたトラバルド国の兵士は自分たちへと非道な仕打ちをし、自分を拉致して自己満足なために利用して娯楽に興じて競売にかけている試合に出す。

 腹立たしく怒りがこみあげていた。


「うるさぁああああああい!」


 怒りは爆発して彼女は叫んだ。


「私は、私は、あなたたちの玩具になんかなるつもりはないんですよ!」


 観客たちに注意が向いている中に彼女に向かい横殴りの一撃が襲った。

 その衝撃を少しでも押し殺すために魔法を使用して壁に激突するのをユキは防いだ。

 だが、衝撃の威力までは完全に押し殺すことはできておらず、膝をつき腕を抑えた。


 完全に折れた右腕を抑えて奥歯を痛みをこらえるように噛んだ。


「ジシシッ、女、ドレットの魔法効かない、それなら、アイアン打撃、する」


 アイアンと呼ばれた男が語ことながらも言葉を紡いだ発言を始め、ユキにもう一度突貫を始めた。

 ユキには打撃は有効性が強いと彼が考えた行動。


 決して、アホではないアイアンに脅威を感じ咄嗟に防衛魔法を取った。

 風の障壁がアイアンの動きを抑えるが勢いが強く、風が押し出され始める。


「ダメッ、このままじゃ……」


 涙目になる。

 さらに、追い打ちが掛かった。


「アイアン、そのまま突っ込んでおけぇええ!」


 ドレットがアイアンの背後からさらなる火炎の魔法を放出する。

 アイアンが火だるまになったがそれもあくまで攻撃の一種。

 火炎の弾丸と化したアイアンの突貫攻撃で押し切ろうという作戦だ。


 炎の熱まではユキも防げず額に脂汗が浮かび上がって腕の力が弱まっていく。


 酸素も薄まり、口からついに弱音がこぼれた。


「もうだめ……」


 あきらめかけたその時にそっと、背後から声が聞こえた。


「ユキさん、そのまま維持をしてください! フォールウィンドウ!」


 その声が一塵の暴風を巻き起こし、アイアンを吹き飛ばしたのだ。

 吹き飛んだアイアンは天に上がって地上へと盛大に落下した。


「アイアンが沈黙だぁあああ!」


 アナウンスと同時に観客の沸き上がりでアイアンの試合が続行不能となった幸運の知らせがユキの耳には走ったのだ。


 その幸運をもたらした人が自分の背後に立っていた。

 しかし、その自分がいたことが何よりありえないと感じてしまう。


 なぜなら、死んだと思っていた『奴隷勇者』だから。


「さあ、続きを始めようか」


 そんな彼の言葉にユキはどこか生きる希望が見えた気がした。

次回更新は金曜日か月曜日の予定です。

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