闘技場の試合 前編
今回の話はものすごく短いです。前編、後編もしくは前中後編の形式で書いていく話の前編になります。
「今宵開かれます試合は、皆様お待ちかねのあの男が帰ってきた試合だぁあああ!」
僕は冷静になりながら聞こえてくるアナウンスに嫌気がさしていた。
自分たちが通された、この『闘技場』の出場ゲートの収監部屋の鉄格子扉から見える闘技場試合の鑑賞者たちの顔。
その人々は身分を明かさないために顔を舞踏会の仮面のようなもので隠している。
闘技場の真ん中に立つ司会者はさらにオーディエンスを盛り上げるために余興とばかりに対戦者の発表を始めた。
「では、そんな待望の試合の前にまずはご紹介! 今日のその無謀な挑戦者から行きましょう! この数年戦歴は無敗! 鉄の身体で鉄の剛腕を持ち、対戦者を数々薙ぎ払ってきた数年間無敗の山賊と奴隷コンビ! アイアーンとドレットだぁあああッ!」
紹介されたと同時に向こう側に見える収監部屋が開かれ、一人の男が広大な土地のフィールドへ姿を現す。
全身が無骨な鎧に覆われており、顔にも鎧がされているが顔半分は除き、顎の部分にはひどい傷が見えた。
まるで何かに斬られ焼かれたかのような傷跡だ。
そんな男に付き従うかのように首枷や足枷をつけてとぼとぼとした足取りで彼の後をついているのはやせ細っている男。その目は何を考えているのかわからなさが不気味さを漂わせる。
「さあ、ここまでアイアンとドレットは無敗! だが、その無敗はあの男が帰ってきたからには維持できないだろう! そう、数年前に突如としてこの闘技場に現れて一つの風を巻き起こして伝説を残した無敵の不死身! さあ、皆様お待ちかね! 奴隷勇者だぁああああ!」
最悪の紹介の中で僕たちがいる収監部屋の扉は開かれた。
後ろから騎士が押し出した。
僕たちもフィールドへとおしだされる。
ただただ、ひたすらに困惑して声も出せないでいるユキさんの姿を僕は見た。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫? これの状況を見てどうして大丈夫なんて言えるんですか! これは何!? なんなの!? 私たちこれから何をさせられるのですか!?」
見た目からして僕とそう変わらない彼女だけれども、さすがに死地に追いやられると人はどうしても慌ててしまう傾向にあるのは僕もまた経験していたことがある。
でも、僕は数多くのことをこの世界に召喚されて勇者として活動したことで死地へ追いやられたときの感覚が狂った。
場慣れしているから冷静になれていた。
「相手はただの巨大な男です。冷静に対処すれば勝てます」
「勝つって……まさか、あの男と戦う!?」
「ここは闘技場ですから」
「冷静に指摘しないで! ああ! なんなのこれ!」
彼女に悩みなど与える暇もない。
試合のゴングはベルの音と共に鳴った。
「来ますよ!」
僕は彼女のことを気遣ってはいたがまずは目先の敵にも注意を置いておかねば殺されかねなかった。 敵は予想通りに突っ込んできた。
アイアンと呼ばれてる男が鉄の巨体を生かして突貫してきた。
ただの突貫ならまだしも防ぎようはあった。
「え! なにこれっ!」
急に困惑するユキさんの声に僕は彼女のほうを見ると彼女の足に絡まっていく蔦を見て驚愕する。
アイアンの背後でゆがんだ笑みをみせているドレットという男。
「魔法士なのか!」
タッグ戦をうまく活用とした最初の一撃が危機として迫る。
「させるかあああああ!」
その瞬間オーディエンスは沸き上がった。
次回更新は予定としましては月曜日に更新予定です。