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プロローグ 取り残された勇者

なんとなくで書き始めた新作です。不定期更新で随時更新を予定しています。よろしくお願いします。

 ある日、それは突然として起こった。


 何気ない学校の何気ない教室。


 そこには30人の『神薙学園』の高校生が集まっていた。みんな平凡な授業を受けている中で急な光が『神薙学園』の一つだけのクラスを埋め尽くしたのだ。

 一つのクラス生徒総勢30人が光の中に飲まれてしまった。


 その只中にいた僕、皆無勇士(かいむゆうし)も光に飲み込まれた。


 飲み込まれた先はあろうことか、ファンタジー世界でこれまたテンプレって言うような異世界転移という現象に自分は巻き込まれた。


 異世界へ召喚させられた理由は魔王を倒すため。

 これまたありきたりな理由だった。


 その呼び出した王族の使命に全うに従うクラスメイトもいればいないクラスメイトもいた。


 王女が命令したのは魔王を倒す以外に帰る方法はないという何とも残酷な現実だったのだ。


 その理由が転移させられた世界は魔王に統治させられ、財力や権力もまた魔王の支配下に脅かされている状況となっていた。


 王女の行った召喚魔法を行使したのも国へとわずかに残された魔力の力を使い果たしてまで行った行為であった。

 


 世界情勢も悪いために世界の世直しも必要でクラスメイト達はそれぞれの道を歩みだす他選択肢はなかった。


 それぞれに転移させられた際に付与されたスキルを駆使してクラスメイト達のそれぞれの冒険は始まった。


 *********


 あれから5年の年月をかけてどうにか魔王を討伐に成功した僕たち。

 ようやく無事に家へ帰れることに『神薙学園(かんなぎがくえん)』のほとんどの生徒が喜んでいた。


「よっしゃー! ようやく帰れる!」

「お母さん、元気にしているよね。私今から帰るよ」

「ねぇ、たつやあっちへ戻ったら私の家族に会ってくれない?」

「おまえ……それって」


 それぞれが冒険を終えて、たくましく成長し愛を育んだものもいた。

 しかし、この僕、皆無勇士にはまったくなかったわけで僕なんかはただのほぼ『盾役』だったような冒険でしかなかった5年間だった。


「よう、身代わりくん。あっち帰ってもよろしくやろうぜぇ」

「あ、ああ。真藤君」


 僕の肩に手を回してゲヒタ笑みを浮かべる目つきの悪いクラスメイト、真藤哲也(まとうてつや)

 僕を散々にこの異世界でパシリのように扱ってくれた最悪な人だ。


「ちょっと、なぁにソイツを独占しようとしてんだよ。ソイツはあーしのモンっしょ」


 襟首をつかまれて強引に引っ張られた先にふくよかな弾力が僕の顔面に埋まったが窒息寸前でもがき慌てる。

 耳からは面白そうに笑う声が聞こえた。


「ギャハハハ、なぁにそんなにうれしいっての? なら、もっと味わえって」


 一目でギャルと分かるような容姿の褐色ギャルのクラスメイト、伊藤(いとう)マリア。

 彼女にとっては僕はただの玩具でしかない。


「ねぇ、ちょっと二人ともやめなよ。皆無くん困ってるだろう」

「なぁんだよ、いい子ちゃんぶるなって安藤」


 僕を彼女の胸の圧迫から引っ張り出した如何にもアマイマスク風のチャラい系クラスメイト、安藤宗次(あんどうそうじ)

 実際に彼は良心的に見えるがその性格は僕には最悪だった。

 彼がそっと僕を後ろから抱きしめて尻に何か硬いものが押し当てられる。


「帰ったら彼はこの僕と遊ぶんだよ。君たちではなくてね」


 いわゆるホモ野郎であり僕のことを常に狙っていた。

 僕はこの異世界生活の5年間は地獄だった。

 この僕を精神的にも肉体的にもいたぶる連中とパーティーを組まされて散々な目にあわされてきたのだ。

 魔王を倒す際にもひどい扱いを受けたのを忘れてはいない。


「皆様、そろいましたわね。では、祭壇の中央へお集まりくださいませ」


 王女の一言で全員が祭壇の中央に集まっていることがわかった。

 僕は今までのことを物思うと気分が沈んでいく。

 この異世界の散々な生活から脱出してもまた彼らとの付き合いを考えると地獄だなとおっくうとした気持ちが心の中を支配していた。

 ずっと僕を抱きしめ続けるホモ野郎にいつ僕は貞操を奪われるかもわからない。

 陰鬱な気持ちで目の前で起こる召喚の光をただ眺める。

 この召喚もできるのも自分たちで得た努力だけれど、僕にはその努力という功績は悲しみの結果でしかない。


(このまま誰も知らないところで一人でいれたらいいな)


 そんな気持ちを胸に抱いた僕の前で祭壇の光は光度を増して――


「勇者様方のおかげでこの世界イステアは救われましたわ! 本当にありがとうございます! では、お元気で!」


 僕は異世界への別れに物悲しむもなく目を閉じた。

 そして――目を開ければ


「え」


 そこは変わらない祭壇の上。

 王女や士官たちの困惑した顔が僕へとそそがれる。

 なんだろうと彼らがいぶかしむ視線の理由を確かめるように僕は周囲を見た。

 なぜか、そこには誰もおらずぽつんとただ僕一人だけ。


「す、すみません! まさかこのような事態になってしまうとは思いませんでしたわ!」

「あ、あの何が起こったんですか?」

「カイム様……大変申し上げにくいんですがカイム様だけがどうやら儀式から除外をされたようでありまして」

「何でっ!?」


 思わず怒鳴るような感じでツッコんでしまった。

 王女が頭を大きく下げる。


「申し訳ございませんですわ! それはたぶん勇者様のスキルが原因かと思いますわ」

「スキルって……なんで?」

「説明しましたが勇者様方はこの異世界へ得られたスキルはそのまま自らの世界へと帰還して所有することができうることはお分かりしていますでしょうか?」

「ええ、お聞きしましたけど……」

「勇者様、落ち着いて聞いてください。世界には『理』というものが存在します。それは世界が成り立つ道筋ともいうべきもの。根っこのようなものです」

「何を言いたいのかよくわからないんですが?」

「簡潔に申しますと、カムイさまの持つスキルが帰還する世界には異分子となりその世界の神の神託で世界から除外されたということですわ」

「なにそれ……僕帰る場所の神にさえ嫌われたってこと?」



 何とも気まずい空気が流れていく。

 僕は一粒の雫が目元を伝うのがわかった。


「あれ、おかしいななんだこれ……」


 たしかにあんな奴らとの生活を嫌には思っていた。

 だけれども、5年ほどしか生活をしていないこの異世界で取り残されるのはなんとも言えない悲しい気持ちを生み出す。


「どうにかならないの! そうだ! スキルを消すとか……」

「それはこの世界の神が与えたものですので変えることはできませんわ。それにかなり稀有なスキルで貴重でもありますのでもしも変えられてもおすすめはできませんと言いますか……それにもう召喚魔法もできないといいますか……」

「そんな! こんなスキル僕は嫌いなのに! どうして、どうしてなんだよ! 僕が何をしたっていうの!」

「…………」

「他のクラスメイトだって十分世界の異分子にもなりうるスキルあったじゃないか! 飛行とかのスキルを持っていた奴とかはどうなんだよ!」


 僕の悲しい訴えは全く聞き入れてもらえることはない。

 そもそも、彼女たちにはもう何もできうることはなかったのだとわかった。

 僕は現実を必然的に受け入れざるえなくなったのだ。

 この日、僕は異世界転移のただ一人の勇者としてこの『格差の激しい魔法世界』に取り残されたのだった。


次の更新日は未定です。

思いつき次第更新いたします。今月までにはもう一度続きを書くかもしれません。

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