9 対軌道上攻撃ミサイルを搭載した敵大型潜水艦を撃沈せよ!
1
ブリーフィングルーム。
そのウィンドウ映し出されていたのは、大国が誇る巨大な潜水艦だった。
対軌道衛星攻撃ミサイルを運用するために作られた融合炉搭載型・潜水艦である。
フロンティアによって洋上に数十万とばら撒かれたソナーが敵の大型潜水艦を捉えたのが始まりだった。
そして、一番近くを航行するプトレマイオスがその撃沈に当たる。
が、積極的攻撃作戦において巡洋空母が戦闘に参加することは無い。
勿論プトレマイオスは対潜装備を持ってはいる。だが飽くまでそれは自衛用だった。
電磁場迷彩・ステルスを張り、視覚的にも電波的にも常に身を隠し航行する巡洋空母とにとって、自身を晒す事はもっての他なのだ。
よって今回の任務は航空機隊のメインの仕事となる。
航空機隊によるソナーブイの投下。同じく航空機による魚雷を装備したミサイルによる集中砲火が今回の作戦だ。
――流石に今回、出番は無いか。
ネメシスが触手に魚雷を抱きかかえて飛行する姿を想像して、思わず苦笑する。
2
「遅い……」
言っては行けないとは思ったものつい漏れてしまった。
「仕方ないでしょう? 従来の戦闘機と共同作戦なんだから」
と妃花。
今回も例によってきっちり彼女は乗り込んでいる。
今回の任務は完全に裏かただった。
「そういやぁこいつは水中でも戦えるんだっけか?」
「ええ。勿論、提案はしててよ。けど、今回はこの作戦が無難ではあるわ。万が一の場合、対処出来るのはこの機体だけなのは確か」
今回の仕事は敵が万が一自衛よりも、対軌道攻撃ミサイルの発射を優先させた場合に備えてのバックアップだ。
もし、それが発射されてしまったなら確かにこの機体でなくては撃ち落とせないだろう。
が、敵がそれを行うとは考えれなかった。敵にとって戦況はそこまで切羽詰まったものではない。ならば彼等だって生きて帰りたいだろう。
が、いざ戦闘が始まるととんでもない物を見ることとなる。
敵が海中からしょっぱなに放った一発のミサイル。全てはそれが原因だった。
撃ち落とす間もなく、やたら低い高度で爆発したそれが、とんでもない電磁パルスを放ったのだ。
敵の潜水艦に対空戦闘能力が有るのはこの作戦に参加する全ての人員が周知していたが、こんな兵器の存在は知らなかった。
いや、聞いたことも無い。恐らくこれは新兵器だ。
『制御不能! 作戦続行不可能!』
航空機隊員の悲鳴のような通信が聞こえてくる。
電子制御系統の全てがやられてしまい成す術もなく、意識転送による離脱を行う隊員達。
いざと言う時のライフラインの要となる彼等の意識を収めたコアと脱出自にも使用される通信システムのみは、あらゆる事態に想定しているために被害を免れたらしい。
それがせめてもの救いだ。
ランナーを失った機体が次々と墜落して行く。
この機体の被害はなかった。流石としか言いようがない。
そして敵は、一機だけ残った此方に対し、大量の対空ミサイルを放ち、そのまま勢いで軌道上攻撃ミサイルのぶっ放すと言う暴挙に出る。
殆ど打ち逃げだ。
対空ミサイルを無視し、上空に上って行く2機の大型ミサイルを追いかけ始める。後ろから追従してくる対空ミサイルは直ぐに全数ロック状態になった。それを速攻撃ち落とす。
続いて大型ミサイルも射程範囲に入り撃ち落とす事に成功した。
「っのやろぉ!」
無性に腹が立った。
だが、その怒りの矛先は海中に潜み見えない。
「よく聞いて、この機体で潜水艦を敲くためには自身も水中に入るしかない。水中に入ったら集積光は使用できなくてよ」
「だろうな。なら物理攻撃か?」
「それも出来るけど、今回試してみたい兵器があるの。集積光のように連続使用が出来ないけど、水中での効果は絶大だと思うわ」
3
妃花の指示に従い潜水艦から距離を取り海中に突入する。こうなるともうこの機体はそれこそタコかイカかクラゲだ。
視界が悪い。だが戦闘支援システムが、海底の構造から敵潜水艇の位置までをも緑色の光線を視界に重ねて補う。
敵がロックされた。そしてゲージが現れ使用武器のチャージに入った。
途端に視界に現れる警告表示。どうやら敵が魚雷を放ったらしい。
「大丈夫。間に合う」
と妃花。
ゲージの上昇と共に、前方の空間が歪み始める。
「なんだこれ!?」
「この機体の推進源の力場発生装置を使って前方の海水を圧縮してるのよ」
そうこうしている内にゲージはマックスになる。
次の瞬間、圧力障壁の如き歪んだ空間が前方に放たれた。
それが凄まじい速度で海中を伝わっていく。
魚雷どころか前方に広がる海底の岩礁すらも破壊し、駈け抜けた。
それも殆ど木っ端みじんである。
消失するロックカーソル。
視界上は舞い上がった粉塵によって真っ白に染まった。
4
「お疲れ様です」
帰投するとエレンが待っていた。
「活躍、ウィンドウ越しに見ていました」
「あ、あぁ……有難う」
エレンが愛しい何かに触れるかのように機体に手を当てる。
「姉が乗れる者がいないのではないかと、心配していたんです。本来操縦にあたって操縦士の思考レートを頻繁に上昇させて、機体性能に操縦士を対応させるシステムなんです。ですが、そこがまだ未完成らしくて。
けど、貴方はこれを乗りこなしてくれている。姉もきっと喜んでいます」
そう言って瞳を細め、柔らかく微笑んだエレン。
「そう言ってもらえれば」
「あの……」
エレンが僅かに思い詰めたような表情をした。
「うん?」
「貴方のフライトデーターを使わせて頂きたいのですが良いですか? 貴方は戦闘中、自己の能力で脳の反応速度を異常に高めています。それと同じことをシステムでやりたいのです。姉が残した未完成の部分を私が完成させたくて」
「なんだか、良く分らないけど、俺が役に立つなら勿論協力する」
「有難うございます!」
抱き着かれてしまった。その瞬間、何故か妃花に此方を睨むとも蔑むともつかない視線を浴びせられる。
――な、なんだぁ?
その真意を表情から読み取ろうとすると、今度はプイっと横を向いてしまった。
この後、何故か不機嫌になってしまった妃花に虐めれるのであった。