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6 軌道上から降下してくる巡洋空母を死守せよ!

1



 この日、ブリーフィングルームは盛り上がっていた。


 何故盛り上がっているかと言えば、気まずい居候生活が遂に終わりを迎え、自分達に新たな巡洋空母が軌道上から投下される事が決まったからだ。


 ただし、そう嬉しいことだけではない。軌道上からの艦艇の投下は否応なく目立ってしまう。


 そこで今回の任務は、降下してくる巡洋空母を死守、着水から再浮上した巡洋空母を敵が見失うまで守りきることが任務となる。


 前回と同じ防衛戦となる訳ではあるが、あの時のような勝ち目の無い戦いではない。今回は軌道上からの支援と、他の艦艇の支援を得られずはずだ。


 失った2機の機体も補充され、航空機部隊はやる気に満ち溢れていた。


 そして遂に作戦説明が始まる。ブリーフィングルームの大型ウィンドウには、太平洋上に投下される巡洋空母の降下予測軌跡が示されている。


「今回の任務は恐ろしく単純だ。投入されたばかりの新型機の単独任務となる。この単機で降下してくる巡洋空母を護衛する。着水再浮上後もしかりだ。

 通常であれば、巡洋空母を敵をから隠すのが最優先となるが、今回は違う。巡洋空母をそのまま囮に使い、敵の弾頭が尽きるまで吐き出せるだけ吐き出させる。敵の弾頭が尽きた所で、巡洋空母の護衛を従来機航空部隊に引き継ぎ、レイン少尉にはそのまま敵艦の殲滅に移ってもらう」


 異常な作戦内容にブリーフィングルームが騒然となる。


 航空機部隊隊長スティーブは絶句していた。


――そんな馬鹿な!? 単機で巡洋空母を守るだと? なんの嫌がらせだ!?


 まして、降下してくる巡洋空母はプラズマの炎に包まれ、『我ここに有り!』と叫ぶかの如く、強烈な光を伴って落ちてくるのだ。


 着水ポイントに敵が群がってくるのが常である。それを一機で守るなど出来るはずがない。


「レイン少尉。出来るかな?」

「はい!」


 立ち上がり啓礼を行ったレイン。もと部下の不可能任務に対する堂々たる態度に、スティーブは顔が引き攣るのを感じた。


 あれはそれ程の機体だと言うのか。


 嘗ての巡洋空母にテスト機が持ち込まれたのは知っていたが、航空機ではないとの事だったのでさして興味も無かった。実際に見た人間からも恐らく水中機だと聞いた。


 それが、まさか航空能力を持つ機体であり、そのパイロットにレインが引き抜かれていようとは夢にも思わなかったのだ。


 それを知った時の衝撃を思い出し、胃が痛くなるのを感じる。


 単機で敵の大国に侵入し、異常な戦績を上げて戻って来た機体。『大国殺しの悪魔』とまで囁かれるその全貌が、この戦闘によって明らかになるのだろう。


――だが、どんな機体であろうとも出来る訳がない。


 降下直後の巡洋空母を単機で守れるはずがないのだ。



2 レイン



「今日も乗って来るのか?」

「当然でしょう?」

「あのな、命掛かってるって解ってるか?」

「だからよ」


 飽くまでも降りる気が無さそうな御令嬢様に溜め息を付く。


 そうこうしている内に起動シークエンスが終わり、視界に外界の風景が広がった。


「RD-01ネメシス-Type-01 レイン・バレンタイン出る!」


 爆発したかのような衝撃と共に離陸、その直後には音速を突破した。視界上の誘導カーソルに従い高度を急激に上げる。


 遥か上空、クローズアップされた視界上に護衛対象である巡洋空母が、降下用外装を赤熱させ眩いばかりのプラズマを纏い降下する姿を捉えた。殆ど流星である。


 全長250メートル。現実世界の国々が運用する空母よりは小型とはいえ、この大きさのものが軌道上から降下してくる迫力は凄まじい。


 そのとんでもない圧力を放つ巨大物体に速度を合わせピタリと寄り添った。


 こんな芸当が出来るのは、この機体だからなのは言うまでもない。


 視界に現れる警告表示。マップ上には四方八方から放たれたミサイルが映し出されている。


――また偉く大量に打って来やがったな。


 それを射程に入り次第、集積光で片っ端から撃ち落とした。


 やがて、巡洋空母は巨体を減速させるために凄まじいまでの逆噴射を始めた。その激しさたるや空間そのものを燃やし尽くすが如きものだ。


 減速が終わると今度は燃料の無くなった巨大なブースターを惜しげもなく起爆分離し、使い捨てる。


 それが回転しながら後方に流れて行く姿が、またもの凄い。


 そして遂に護衛対象は着水を果たした。


 巨大な爆弾が爆発したかの如き水柱を上げ、海面へと突入したそれが再浮上してくるのを待つ。


 ここからは、ひたすらミサイルを撃ち落とす耐久戦だ。


 マップ上には、既に異様な量の招かれざる飛来物が映し出されていた。


 再浮上を果たした巡洋空母が、その最終工程として降下用外装を接合部の爆破により、ド派手に脱ぎ捨てる様を横目で見つつ、迫り来るミサイル群を射程内に入るや否や撃ち落としていく。


 ロックカーソルは、常に最大数ロック状態だ。


 流石に取り逃がしが出るのでは、と不安を感じた。


「取りこぼしそうなのは、物理攻撃で直接叩き落して。装備されてる触手の中に物理攻撃用に強化されたものが数本あるわ」

「マジか」


 その後は異様に忙しかった。


 集積光をオートで乱射しながら、自身もミサイルを追い回す羽目となる。


 あまりの速度の為にプラズマ化した大気を纏い、赤熱する装甲。システム判断により『直接落とすべし』と指示されたミサイルを、すれ違い様に文字通り叩き切る。


 その爆発を見届けずに更に次の目標へ向かう。この連続だ。



3 スティーブ



 ブリーフィングルームの巨大ウィンドウには、新型機の戦闘の様子が映し出されていた。


 その鬼神の如き戦いっぷりに、誰もが驚愕し呆然とウィンドウを見つめる。


 あり得ない事がウィンドウ内で起きてるのだ。


 まず最初にその機体性能の凄まじさに絶句した。降下してくる巡洋空母と並走するなどあり得ない事だ。さらに残弾と言う概念すら放棄して無制限に打ち出される集積光。


 空母の着水後は更にその異常性能が際立つ。殆ど直角に進行方向を変える機体。マップ上の離れた地点から迫るミサイルに、異常な速さで辿り着き撃墜する。


 だが、さらに驚愕だったのは、パイロットの視界を再現したウィンドウだった。


 超スピードで展開される機体操作。視認できない状態から一瞬にして視界いっぱいにまで広がるミサイルを1メートルも離れていない高度差ですれ違い、触手でたたき切る。


 機体も異常であるが、それをやってのけるパイロットも異常だった。


――この機体が欲しい。


 航空隊員の誰もが最初はそう思ったはずだ。だが、今はいないだろう。


 こんな物を操れる気がしない。


 とてつも無い無力感を感じた。


 恐らく今はこれを操れるのは確かにレインだけだろう。だが、これが量産化に至れば、この機体に特化して訓練を施された人間が育つはずだ。


 その時、従来の戦闘機乗りである自分達は役目を終える。


 一つの時代の終わりすらも感じた。


 ウィンドウの中では、敵ミサイルによる攻撃が終わり、この空母に所属する航空隊にその防衛が引き継がれた。


 自分達がここに残されているのは、新たな巡洋空母でこの新型機と行動を共にし、作戦を行う事を想定してだった。


 だが、確信できる。こいつは恐らく単機で殆どの任務をこなしてしまう。


 パイロットの視界を再現したウィンドウ上で、レインが放った集積光により、敵の護衛艦が真二つになり沈んで行く。


 敵艦隊の消滅が確認されたは、僅かその数十秒後であった。

 


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