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21 敵の狙い。罠


1


 始まりは典型だった。遥か遠保から始まった敵の誘導ミサイルによる攻撃。圧倒的な物量差にまかせての、大量のミサイルの撃ち込こみである。


 何故、敵にプトレマイオスの位置がばれたのか。それはいくつかの可能性があった。


 いかに電磁場迷彩ステルスを使用していようとも決して消せない痕跡があるのだ。それは音であったり、船が航行することで起きる波であったりだ。


 それらが、敵がばらまいたソナーブイもしくは潜水艦や哨戒機によって捉えられてしまった可能性がある。


 理由はどうあれ敵に母艦が見つかってしまったことは致命的だった。


 「レインが戻るまで持ちこたえろ! あいつさえ戻ってくれ何とかなる!」


 スティーブは叫んだ。


『そんな事言ったって、この数!』


 隊員の悲鳴のような通信が入る。


「オデッセイもいるんだ。通常よりは粘れるはずだ」


 不幸中の幸いと言うべきか、今回は対空攻撃の力を持つ潜水艦オデッセイが同行しているのだ。自身が部下に言った言葉は決して嘘ではない。


 実際対処せねばならないミサイル数は、かなり減っている。


 だが、それでも不利な状況であることは変わりなかった。


2


 ――粘り切った?


 心なしか敵ミサイルの打ち込まれる弾数が減ってきた気がする。

 

 だが、それと同時に此方のプトレマイオスとオデッセイの迎撃ミサイル残弾も既に尽き欠けているのは明白だった。


『敵も弾ぎれっすえかね? やっぱ2隻いると違いますね。うちも艦隊くみましょうよ?』

『それじゃ、隠密行動とりにくだろうが』

『いや、勿論冗談っすよ』

「いや、敵が大人し過ぎる気がする」


 本来なら好ましいはずのこの展開に、スティーブは不気味な感覚を拭い去れずにいた。

 

 敵の物量は圧倒的なはずなのだ。こんなに早くこちらも2隻いるとはいえ敵の残弾が尽きるなんてことがあるだろうか?


 敵は通常であれば空母一隻と護衛艦数隻、潜水艦から艦隊を組んでるはずだ。


 そんな事を考え始めていた矢先だった。視界上で洋上に空間が揺らぐようなノイズが走り抜ける。


 その瞬間レーダーに浮かびあがる敵の姿。


――なっ!?


 目視でもはっきりと確認できる至近距離に多数の艦影が浮かび上がる。


 別艦隊を電磁場迷彩ステルスを使い忍ばせていたのだ。


――だが、なんのために!?


 思考が激しく混乱するのを感じる。


 いつもであれば順欲空母の防衛と言うのは、敵の艦艇から発射された巡行ミサイルの迎撃が主な任務となる。敵の航空機が姿を現す事すら稀だ。


 そもそも圧倒的な物量差があるのだ。敵は自分達の前に姿を晒すようなリスクを取る必要がない。


 それが、わざわざ此方の残弾が尽きるのを待って別艦隊が姿を現した。


『あいつ等、何を!?』

『これ、ヤバいっすよね!?』


 そんな事は分かっている。だがあまりの事に次の指示が出せない。


 直ぐに敵に向けて、プトレマイオスとオデッセイから魚雷攻撃が始まる。だが、それは敵の正確な回避行動と、囮魚雷によって阻まれてしまう。


 さらに敵の航空機部隊までをも姿を現し、殆ど逃げ回るだけで精一杯になってしまう。こちらは既にミサイルを打ち尽くしているのだ。


「レイン! まだか!?」


 スティーブは思わず叫んだ。


3 レイン


 現存するどの潜水艦より水中を高速で移動できるとはいえ、やはり大気中と比べ絶対的な速度差がある。僅か1万メートルの距離が異様に長く感じた。


 そしてようやく海面に達し一気に待機中に機体を躍らせ、目の前に展開されている異様な光景に目を疑った。


 敵艦隊がプトレマイオスに接触するほどに近くに存在している。


 すでにプトレマイオスの残弾は砲弾も含め完全に尽きているようだ。


 この状態で船が撃沈されていない事が不思議だった。


 その理由は直ぐに明らかになる。


 プトレマイオスの船体に深々と突き刺さった極太のワイヤを従えた銛のような何か。


 敵艦隊の狙いはプトレマイオスの拿捕だったのだ。


「――でもいったい何故!?」


 思わず声に出た。そんな事をしようとすれば敵にも相当なリスクがあったはずである。


 直ぐにプトレマイオスを繋ぎとめているワイヤーを断ち切るべく集積光を放とうとした刹那だった。


 此方の進行方向に向け、敵艦から放たれた多数のミサイルが迎撃するまでもなく、通常ではあり得ない距離をとり自爆した。


 爆炎の中を突っ切ろうとした次の瞬間、あまりに巨大な『何か』が空間に広がる。それも煙などでは無い。


 それは巨大な網だった。


――なっ!?


 流石のネメシスといえど回避できる距離はない。


 集積光を放ち、それを断ち切ろうとする。そのうちの一つにものの見事に絡めとられてしまう。


4 スティーブ


 目の前で展開されたあまりの絶望的な光景に、激しい拒否感を覚える。


 あれ程無敵だと思えたネメシスが『敵の放ったあまりに古典的なワイヤーネット』に絡め取られてしまったのだ。


 敵の狙いはこれだったに違いない。


 異常な性能を誇るネメシスを生け捕りにすることこそが敵の目的だったのだ。

「何てことだ!!」


 あまりの状況に思わずそう叫んだ瞬間だった。目の前に広がった光景に絶句してしまう。


「……え?」


 そのまま身動きが取れなくなるように思えたネメシスであったが、逆にネットとワイヤーで繋がれた敵護衛艦が引きずられるようにして、横倒しになり転覆してしまったのだ。


 何という馬鹿げた出力を持っているのか。


 あいた口が塞がらないとはまさにこのことだ。


 その後は毎度の如く、あまりに一方的な展開となった。


 空を飛ぶ敵のミサイルも航空機も、一瞬にしてネメシスが放った集積光に串刺しにされ爆散する。


 赤い閃光が蹂躙する度に、まるで巨大な斧で叩き割られたかの如く真二つになり沈んで行く敵艦。


 あまりに理不尽な力の差がそこには存在していた。


 そして数分後、海面は夥しい量の敵の残骸が漂う地獄絵図のような光景を残して、静けさを取り戻す。


 そしてレインの操るネメシスは、最初にミサイルを放った敵艦隊が居るであろう方向へと、赤熱する装甲を輝かせ猛烈な速で消え去るのであった。



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