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2 この機体、俺に付いて来れる!?

1


「これは何だ。水中機か?」


 目の前にあったのは航空機とは程遠い代物だった。一言で言うなら巨大なクラゲかタコだ。いや、イカだろうか。


 流線形の漆黒の頭部は良いとして、その後方にはどう見ても触手にしか見えない物体が、大量に取り付けられ伸びあがっていた。


 モンスターとでも言うべきあまりに醜悪なデザインだ。


 どちらにしても、こんな物が飛ぶはずがない。騙された。


「そういう概念をこれは超越しててよ。この機体はそこが水中だろうと、地上だろうと、空中だろうと戦える」

「翼もないこいつが飛ぶだと?」


 俄かには信じられなかった。


「飛行原理そのものが、航空機とは違くてよ。これは力場の制御によって飛行するの」


 彼女の言った『力場の制御』と言うのには聞き覚えがある。


「巨大な戦艦を空中に浮かべる事が可能になるかもしれないって言う、あの新技術か。だが実用化にはまだ大分かかるって……」

「私、新しいものが好きなの」


 と平然と言ってのけた彼女。


「そう言う問題か?」

「そう言う問題だわ。けど、代償はあった。出来上がった機体は誰も操縦出来るものではなかったわ。速過ぎるし応答性能が良すぎるのよ。能力を30パーセント程に抑えれば、うちのパイロットでも乗れるヒトがちらほら出てくるけど。そんなの詰まらないじゃない」

「何か燃えて来たな」

「それは良かったわ。なら、まずシミュレーターで感覚を掴んで」

「いや、いきなり乗らせてもらおう。俺はシミュレーターの成績は良かったんだ。なのに実戦では役立たず、機体を壊してばかりだった。だから俺はもうシミュレーターを信用しない」

「死ぬわよ?」

「その時はその時だ」


2



 機体の仮想コックピットへの意識転送を終え、背後に感じた気配に思わず振り返る。


「てか、なんでアンタまで乗って来てんだ」

「貴方が死ぬのは構わないけど、この機体を失ったらこの私も死んだも同然よ。だったら貴方にこの命を賭けてあげようじゃないの。言っておくけどこの私と心中したら高くつくわよ? 貴方の家族が末代まで路頭に迷うくらいで済めばいいけど」

「脅してるつもりか? 生憎、俺はは天涯孤独の身だ」

「貴方の事を調べたと言ったでしょう? 当然、知っててよ」

「たく、どうなっても知らんぞ」

「それと、『あんた』はやめて。妃花ひめかでよくてよ」

「……」


 視界上に大量のウィンドウが出現し始めた。どうやら起動が始まったらしい。


「熱圧縮融合炉、正常機動。力場発生装置に動力接続開始。融合炉を熱圧縮から力場圧縮へ移行。出力安定上昇――」

「頼むからいちいち起動シークエンスを読み上げないでくれ。頭がグチャグチャになりそうだ」

「そう? 私はこれが好きだけど」

「勘弁してくれ」


 機体を乗せたデッキが上昇を開始る。だがそれは中途半端な位置で止まってしまった。


「何だ?」

「やっぱり機体が重すぎたようね。通常の同じ大きさの航空機に比べ10倍以上の重さがあるのよ」

「はぁ!? てか、こいつ本当に飛ぶのか?」

「飛ぶわよ。勿論」

「にしたって10倍って」

「軽くする必用がないの。だから装甲だって通常の対空機銃じゃびくともしないくらいの装甲厚がある。動力炉もジェットエンジンに比べて重いのもあるけど」

「で、どうすんだ? 中止か?」

「いいえ、このまま出ましょう」

「出るってどうやって?」

「上、空いてるでしょう?」


 上を見上げると確かに、本来デッキが上昇し収まるはずだった場所がすっぽり空き、そこから青々とした空が見えていた。


「垂直離陸が可能なのか……そもそも翼すら無いんだから当然といえば当然か。この機体、理論神経接続は勿論出来るな?」

「ええ、そう言えば貴方は仮想コックピットではなくて、その方式で操縦するのだったわね。あの方式は機体のダメージが痛みとしてフィードバックされるから嫌う人間が多いのに」

「そっちの方が俊敏に動けるんだ。前の機体は耐えられなかったが」

「原因が分かってたなら止めればよかったのに。不器用なひとね」

「ほっとけ」

「理論神経接続、始めるわ」


 妃花がそう言った瞬間コックピットが消える。代わりに視界上には必要な計器データーとマップが浮かび上がった。


「システム、オールグリーン。いつでも良くてよ」

「なら、遠慮なく」


 自身の身体のイメージを機体と同化させる。


――飛べ!


 次の瞬間、爆発したかのような衝撃を感じると同時に、僅かな混乱を感じた。濁流の如く頭に流れ込んだ情報量にクラクラする。


 気づけば、機体は巡洋空母を飛び出し、猛烈な上昇を続けていた。


 速度計が異常な速さで数値を上げて続けてる。既に音速の4倍を突破しつつあった。


――いつの間にこんな!?


 機体が大気の断熱圧縮によって、燃えるようなプラズマの光に包まれ始める。


 そら藍色から漆黒に代わりつつあった。


「なっ!?」


 慌てて機体に制動をかける。眼下に広がった壮大な風景。


 神々しいまで蒼い光を湛えた星の水平線が、頂戴な弧を描いていた。


 心が震える。


 瞳を閉じた。


 相変わらず頭の中にはとんでもない量の情報が、雪崩れ込んでくる。だが、決して処理出来ない訳ではない。むしろ今までの従来機がスカスカ過ぎたのだ。


 瞳を意識して開ける。そして眼下に広がる洋上の一点を目指して再加速した。


 機体は瞬間的に音速を突破し、更に速度を上げ続け再び機体がプラズマの光を纏い始める。


 雲海を流星の如き勢いで突き抜け、視界いっぱいに広がった海面。機体をねじりつつ旋回、再上昇をかけた。


 何かが爆発したかのような巨大な水柱を海面に残し、機体はイメージした通りの複雑な軌跡を描いて、異常な速度のまま再上昇を開始する。


 何という応答性能だろうか。そして何という耐久性。


 こんな動きが実現してしまうとは。いままでの機体だったら一瞬にしてばらばらになっていただろう。


――この機体、俺について来る!?


「気に入って頂けたかしら?」

「ああ、最高だ!」


「流石ね。私の診立てに間違いはなかった。けど、まだまだだわ」

「何だと?」

「機体出力をこちら側で、50パーセント、カットしてるのよ」

「なら、さっさと解放してくれ」

「分かったわ貴方を信用する」


 次の瞬間、身体がふわりと軽くなった気がした。押し寄せる情報が興奮となって脳を直撃する。


「行っけえぇぇぇぇ!」


 先ほどとは比べ物にならない加速感が全身を包み込む。


「ちょ、ちょっと気を付けて!」


 後ろで叫び声が聞こえた。


 だが知った事か。


「うおおおぉぉぉぉぉ!! ヒャッホオオォォォ!!」


 今、間違いなく俺はこの星で誰よりも自由だ。


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