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17/21

17 盛大にやらかした結果、魔女のイメージがアゲアゲです。

1


――何故、こうなって仕舞ったのだろう……


 目の前に詰めかけた報道陣の数の多さに、度肝を抜かれる。ざっと2、3百人はいるのではなかろうか。


 中には先日に追いかけて来ていた人間も確かにいるような気もする。


 ウィンドウの記事に驚いたのが今朝の事だ。


 その後僅かなやりとりがあった気がする。


「あの時の契約まだ有効よね?」

「契約?」

「私の裸を見た責任の話よ。貴方はあの日から私の婚約者なのだから何も問題なくてよ。父も公認していることだし」

「はいぃ!?」


 そしてその数時間後にこれである。全く意味が分からないままこうなってしまった。


 記者達が詰めかける中、妃花は魔女の異名に違わぬ冷たい雰囲気を漂わせている。


 記者会見が始まるやいなや最初に口を開いたのは妃花だった。


「まず最初に昨日、私達を追い掛け回した無礼を謝罪するのが筋じゃないかしら?」


 それによって場の雰囲気が凍り付いたかのような緊張感に包まれる。


 それでも、一人の記者が質問を投げかけようとするが、


「私は謝罪が先だと既に言っていてよ?」


 と、妃花はそれに被せる様に言い放った。


 そこには嘗てメディアの中で自分が見ていた『魔女』そのものがいた。


 普通であればメディアの前で、こんな態度を取れば、袋叩きに合う所であるが、魔女は逆に無礼な態度で出た記者を会社ごと圧倒的な財力と権力を背景に叩き潰してしまうのだ。


 傲慢にして冷徹、それは傍若無人すらと表現しても良いのかもしれない。

 

 だが、彼女はこれでいて常に一定数の支持を得ている。言っていることそのものは正しいと言うのもあるが、何よりその美貌とこの態度に対するファンが数多くいるのだ。

 

 数万人規模の彼女のファンからなる『魔女クラブ』なるものがあるらしいが、それが噂に過ぎないのかは自分には分からない。


 妃花の言葉に記者は、明らかに不満そうな顔を浮かべたまま、謝罪の言葉を口にした。


「創成十二氏族は十二氏族同士の婚礼が通例で、一般人を婚約者に選ぶことはかなり稀だと思うのですが、今回は何故一般人を婚約者に選んだのですか?」

「簡単な話だわ。今の創成十二氏族、厳密には本土のタイムレート加速の外側にいる十二氏族の人間の中に私に相応しい者が居なかったってだけのこと」

「では、そこにいる方は、創成十二氏族のどの方より勝る、と言う事でしょうか?」

「ええ、十二分に」


 それに会場にどよめきが走る。


――いやいやいや、変な持ち上げ方しなくて良いから。


「妃花様が特に彼を気に入った理由をお聞かせいただけますか?」

「そうね。敵の大国をたった一機で葬り去る実力とその情け容赦のなさ。この『御剣 妃花』に相応しいと思わない事?」

「な、なるほど」


 平然とそう言い放った妃花に複数の記者が、顔を引きつらせて頷いた。


――なんかこの瞬間、俺の悪名が高くなってないか?


 などと焦っていると、記者の視線が唐突にこちらへ向けられる。それに一気に緊張する自分を感じた。


「貴方は一般人にも関わらず、創成十二氏族の一氏族、御剣家の御令嬢と婚約なされたわけですが、今のお気持ちは?」

「……えっと、とても驚いてます。どうしてこうなったのか自分でも……」

「なるほど。それはそうでしょうね。では貴方から見た妃花様はどのような人物ですか? 妃花様のどの様な部分に好意を抱かれたのですか?」


――なんか、前にもこんな事があった気がするが……


 極度の緊張から思考が回らない。


「こう見えて意外と可愛いところですかね……」


 言った瞬間、記者達の間にどよめきが走った。


「か、可愛い……ですか。それはいったい……例えば、どのような部分がでしょう?」


 記者が明らかに困惑した表情で、さらに質問を浴びせてくる。


 その記者の表情により混乱する自分を感じた。


――あれ? なんかマズったか? これ……


 記者たちの視線が自分に集まっているのが分かる。早く答えなければと焦りばかりが蓄積された。


「例えば……ですか。その何というか顔を真っ赤にして、恥ずかしがる所と言うか。明らかに異性に対する免疫不足な所とか……。寝る時なんか枕抱えて丸まるところとか。普段とのギャップが何と言うか……」


 言った瞬間、場が騒然となった。


「ちょっ!?」


 妃花が顔を真っ赤にして両手で覆ってしまう。


 それを切っ掛けに、何故か多量の質問が自分に殺到することになった。


 その後完全にパニくった自分が何を訊かれ、何と答えたのか覚えていない。


 気づけば満足そうな表情を浮かべ帰って行く記者達と両手で顔を抑えたままその場に蹲る妃花の姿があった。


「なぁ、俺なんかまずい事言っちゃったか?」

「し、知らないっ!」


 蹲ったまま首を大きく横に振り続ける妃花に、困り果てるのであった。


2 


 翌日。


 ウィンドウには様々な見出しが並んでいた。


『魔女の意外な素顔』

『大国殺しの悪魔、魔女を手玉にとる』

『悪魔と魔女の意外過ぎる交際の実体』


「な、なんだこれ!?」


 思わず叫んだ。


 そのどれもに、赤面した妃花が顔を両手で覆い、蹲る画像が掲載されている。さらには先日撮られたと思われる『お出かけ中の画像』多量に乗せられていた。


 画像の全てが、普段の妃花から想像も出来ない表情を浮かべている物だ。


 年頃の少女のように、楽しそうな笑みを浮かべる妃花の画像だらけだった。


「あぁ……私のイメージが……」


 あの後、責任を取れと言わんばかりに、夜通し妃花に付き合わされて今に至る。


 妃花がウィンドウに踊るタイトルを見て、崩れ落ちるように項垂れた。


「いや、なんか、でもほら、コメント見るとむしろ評判良さそうだぞ?」


 慌ててホローする。


 コメント欄には、


『令嬢様の幸せそうな笑顔が素敵』

『好感度、超アップ』


 とか、好意的なコメントで溢れていた。


「こうなったら貴方に全面的に前に立ってもらうわ。御剣家の次期当主は貴方よ!」

「は、はい!?」

「私を骨抜きして、その姿を晒した責任、たっぷりとってもらうわ」

「え? えぇぇぇ!?」


 思わず悲鳴のような声を上げてしまう。


 妃花それを見て吹き出すように笑った。


「まぁでも、これで少し肩の荷が下りてよ。貴方の御かげね。画像をみて思ったわ。『私ってこんなに笑えるのね』って。少し無理しすぎていたのかもしれない。もう、無理するの止めるから、その分貴方が補って」


 そう言って目を細めた妃花の表情は、何処となくホッとしたようなものに見えた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] マスコミって書きたいことしか書かないからねぇ。 ところでどこがマス【コミュニケーション】なんだ?
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