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15 御令嬢様とデート。普通に終わる訳がありません

1


 非番の日の朝、予定よりも1時間も早くウィンドウからのコール音が鳴り響いた。


 そこに映し出されているのはやはり妃花だ。


「ちゃんと起きていたのね。褒めてあげるわ」

「そりゃぁな」


 何故、早起きしていたのかというと、それは目が覚めてしまったからに他ならない。昨夜は中々眠りに着くことが出来なかった。


 そして思いの他、この日を楽しみにしていた自分に気が付いてしまう。


「じゃあ、予定通り1時間後に迎えに行くわ。それまでに支度を整えなさい」

「分かった」


 ウィンドウを閉じて数秒後、着替えようとしてしょうも無い事に悩んだ。


――てか、何着て行こう……


 何せ相手は大富豪の御令嬢様なのだ。何処に連れいかれるか分かったものではない。


 ドレスコードのあるような店に連れていかれる可能性も十分考えられるのだ。


――何処に行くか聞いておけば良かったな。


 などと考えるが、今更遅い。結局普通の外出用の衣服を選ぶ。


 そんなこんだしている内に、あっという間に時間は過ぎ、妃花は予定より5分早く現れた。


 妃花の服装を見て、自分のチョイスがさほど間違っていなかった事を知り安心する。


 こういったカジュアルな服装の妃花を見るのは新鮮であった。仕事着と比べ、印象も大分変って見えると言うか、普通の年頃の女性と言った感じだ。


 素直に可愛いと感じてしまい。なんだか目のやり場に困ってしまう。


2


 高軌道衛星拠点、『メガクリスタル』のサーバー内に構築された一般商業領域。そこは大規模都市だ。地球圏で作戦に関わ全ての者にとっての憩いの場である。


 現在、タイムレート加速中である月の本土、『月詠』に代わり、現実世界と同じ時間軸で生きる自分達にとっては、現在行くことが出来る最大の都市だった。


「か、勘違いしないでよね? これはただのお礼よ。別にデートとかそう言うのじゃないから……」


 言葉の最後で例の如く消え入りそうな程に声を小さくした妃花。この態度が自分の中の『何か』に火を付けてしまう。


「そいつは残念だな。俺はむしろ最近の妃花が可愛すぎて惚れそうなんだが」

「は? はい!? ちょっ! え!? えぇぇぇぇ!?」


 予想通り過ぎる反応。


 勝気で冷たい印象が強い『魔女』の異名を持つ冷徹美女の御令嬢様が、真っ赤に染まった顔を両手で覆い身を捩る姿が、あまりにも可愛らしい。


 もう、この反応が最高過ぎてたまらなかった。


「わ、私程の魅力があれば、それは仕方の無いことだわ。だから、その……惚れて貰っても良くってよ?」


 強気のセリフではあるのだが、顔を両手で覆ったままであり、まるで指の隙間から此方の反応を伺うような仕草が、これまたたまらない。


 19歳と言う年齢と照らし合わせても、あまりに幼い反応だと感じた。


 その仕草に『強がる事を運命付けられてしまった彼女』が、今まで何を犠牲にして生きて来たのかが垣間見た気がする。 


 この勝気で危うい御令嬢様が何とも愛おしく感じてしまった。柄にも無く、立場も弁えず、『守ってあげたい』などと言う感情が湧き上がってしまうのを感じる。


 もっとも妃花は強がってはいるのは確かであろうが、強い事も確かだ。そしてその手案で、自分などには想像も出来ない額の金と大勢の人間を動かし、莫大な利益を上げる。


 更には異次元性能を誇る機体、ネメシスをこの世に生み出した。


 そんな彼女を自分が守ろう等と言うのは、はなはだおかしいのかも知れない。


 だが、目の前の妃花を見ていると、どうしてもその様な気持ちになってしまう自分がいる。


 こうして始まった一日は、驚きの連続だった。


 されどおこなった事と言えば大したことではない。


 恋愛もののホログラムストーリーを見ては涙する妃花を見、続けて見た自分が推薦したアクションでは、唐突に鳴り響いた音楽に驚き抱き着かれる。


 そして食事。


 ただ、そのどれもが貸し切りだったのだ。さらに、自分達を接待する者達の態度がまた凄かった。誰もが媚びるかのような姿勢で接してくるのだ。今更ながらに妃花が別世界の住人だと再認識させられた。


 妃花に連れまわされる一日も後半にさしかかったころ、僅かな違和感に気付く。一度気になってしまうと、そちらに注意が逸れてしまって集中出来ない。


「ねぇ、楽しんでる?」


 妃花が不安そうな表情で此方を見上げた。


「ああ。けど、先から気になってるんだが、俺達付けられてないか?」


 言いながら、目の動きだけで気になる男の方へと妃花の視線を誘導する。


 すると妃花はあからさまに表情を歪めた。


「しかも多分付けてるのは一人じゃない。気になるのだけでも3人はいる。心当たりはあるか?」

「あり過ぎて、いちいち把握できない。でも恐らくあれは……ごめんなさい。今日はこれで終わりにしましょう。これ以上はきっと貴方に迷惑をかけてしまうわ」


 妃花は心底思い詰めたようなような表情をした。


「じゃあ、くか!」


 言うなり妃花の手を取り走り出す。


 何故そんな行動をとったのか自分でも分からない。ただ今日一日をここで終わらせてはいけない気がした。


「ちょっ!?」


 困惑する妃花に「大丈夫だから」とだけ答え、更に速度を上げる。


 すると、至る所から焦ったように男達が出て来た。


 そして、走りながらウィンドウを操作し、短距離転移を行う。


 自分達が居たフロワーを見渡せる3フロアー上の階へと移動し、下を覗き込んだ。


 目に見えて誰かを探すような不審な動きをする男達がわんさかいた。


「いったい何人に付けられてたんだ……?」

「こんな事したら、貴方も巻き込まれるわ。だから、今日はもう……」

「でも、帰りたくないって顔してるぞ?」

「そ、そんな事っ!?」


 妃花が耳までをも真っ赤にして顔を伏せる。


「てか、これもう巻き込まれてるだろ。で、あいつらは何だ?」

「あいつらは……」


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