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14 イレギュラー発生。やっぱりこなるか。


1


 深海を目指す小型潜水艇の上を、攻撃型潜水艦オッデセイの巨大な船体が覆うように航行していた。


 オデッセイの最大潜行深度は2000メートルであるため、その先の護衛はネメシスだけで行う事となる。


 オデッセイはこの深度に留まり海中警戒を行うらしい。


 仮想コックピットはエレンの為に3シート用意されていた。


 360度にわたって外界の風景を再現したその空間は、まるで透明な球体の様である。しかも本来だったら視界が悪いはずの海中を、各種センサーが捉えた情報を複合して、クリアに再現しているため、見せかけ状あり得ない透明感をもった海がそこにはあった。


「そういや、こいつの潜水能力ってどうなの?」

「もともと装甲が厚いから、そうね8000メートルくらいだったら普通に潜れる。それより深い所では力場を使って水圧を中和する感じになるわ」

「つまり幾らでも潜れると?」

「まぁ、エネルギーが尽きるまでは」

「もともと軌道上からの無減速着地に耐えられるように作るって案もあったみたいですよね」


 とエレン


「ええ、流石にそれは現段階では実現してないけど。次のタイプでは確かにそれが可能になる可能性はあるわ」

「やはり凄い機体だよな」


 思った事が素直に口からでた。それに、


「姉が作った機体なのですから、当然です」


 とエレンがまるで自分の功績のようにドヤ顔で答える。


「今、この機体開発で得た技術を使って、100メートル級の機体を浮かべられる大型の力場制御リアクターが作れないか、検討させているわ。そうすれば軌道上と地上を往復する輸送船の運用が可能になる。そうなれば今のような敵を降下ポイントに呼び寄せるようなリスクの高い、補給はしなくて済む」

「確かに、現状では一度重力井戸の底に降下してしまったら、俺達には機体を軌道上に戻す術が無いからな。唯一の例外はこの機体か」

「なんにしてもこの基地建設計画と並行して行わないと。ユニットの投下だけで基地建設を行うのも、無理があるわ。大型のユニットを回収えい航するのはリスクが高いし、小型のユニットにすれば、投下回数が増える。それはそれでリスクが高くてよ」


 そんな話をしているうちに、視界に新たなウィンドウが開いた。


「どうやら、深海潜行ポイント到着だな」


2


 漆黒の闇に包まれているはずの深海は、フロンティアの誇るデーター解析技術をもって疑似再現されている為に、まるで陽光が届いているかの如く見える。


 それがかえって生物の殆ど存在しない不毛な風景を際立たせていた。


 調査船は1万メートルを超える海溝の底にそって先に進んで行く。


 どうやら温度分布の高い方向を目指しているようだ。


「恐らく熱水鉱床を探しているんだと思います」


 とエレン。


「それは何だ?」

「地下のマグマで熱せられた熱水が通過途中の岩石の鉱物や元素を溶かしこみながら上昇して、海底で晶化形成された鉱脈のことです。主に石英などのありふれた鉱物からなるんですが、金属鉱物や希少鉱物が生成する場合もあります」

「なるほど、その鉱脈から色々つくる原料を得ようってことか……」

「どうなんでしょう? それがあるって事はマグマが地表近くまで来てるってことですから、月でやってるように直接溶岩を吸い上げて、そこから色々採取しようと考えてるかもしれないですね」

「詳しいんだな」

「もともと私はこっちが専門ですよ」

「そうなのか。それで付いて来たがったわけか」

「すいません無理言ってしまって。あ、見えてきましたよ」


 エレンが指さす先には、海底から突き出るような岩がありそこから勢いよく何かが噴出しているのが見えた。


3


 小型艇がアームを伸ばしサンプルを採取などの作業をする様を、エレンは食い入るように見ていた。


 深海の底、この深度まで潜れる攻撃型潜水艦は存在しない。ここまで届く魚雷も存在しない中、本日はこのまま平和に終わるだろう。


 たまにはこう言った任務も悪くない。などと考えた矢先だった。一本の通信が入る。


 内容は、この海域に敵の艦隊が迫っているらしい、とのことだった。


「浮上してる時間はなさそうね」

「そうだな。暫くここで待機になりそうだ」


 そして下る命令。それは予測の通りだった。


 オデッセイとプトレマイオスは、交戦を避け一度この海域を離れると言う。


 確かにそれが最善の選択だ。


 自分達は捨て置かれても、この深度にいる限り安全であるし、敵も気づきはしないだろう。


「どうやら、暫くこの暗い深海の底で過ごすことになったようだ」


 暫く浮上出来ないむねを、調査船に伝えると問題ないと返事が来た。


 その後しばらくして、調査を終了した調査チームから提案を受ける。


 互いの仮想空間を繋ぎ、この後起こりうる事態やどう行動する事になるのかなどについて顔を合わせて教えて欲しいと言うのだ。


「向こうも不安だろうし提案を受け入れようと思うが、大丈夫か?」

「ええ、私は構わないわ」

「それって調査チームの方から直接色々話が聞けるってことですか?」


 目を輝かせたエレン。


「そうなのかも知れないけど、状況は好ましくないわ。イレギュラー的にこうなったのだから」


 妃花が釘をさした。


「そう……ですよね。ごめんなさい」

「まぁ、でも滅多にない機会ではあるだろうから、話が聞けると良いわね」


 そう言って妃花は柔らかい笑みを浮かべた。


4


 現在の状況と今後について、調査チームが欲しがる情報を伝える。こちらに危険が迫る可能性が極めて低い事を伝えると、彼等は心底安心したような表情を浮かべた。


 今後については、再び指向性通信があるまでここからは動けない事を伝えたが、それについては、混乱もなく了承してもらえた。


 こちらからでは、上がどうなっているのか知る術が無いのだ。


 その後は暇を持て余すかのような雑談だった。エレンと調査チームのリーダーは相性が良さそうだ。こちらには何を言っているのか全く分からない専門用語まじりの会話を延々と続けている。


 その中で、調査結果に纏わる部分をステファンは自分と妃花にもむけて簡単に説明してくれた。


「採取したサンプルを詳しく分析してみないと分からないですが、かなり有力な候補になりそうです。大型掘削ユニット設置して更に詳しい分析をしたいですね」


 そう言ったステファンの表情は明るかった。


 それから、10時間もの時間を海底で過ごし洋上に戻った時には、潜行から半日以上が経過していた。


 そして、休む間もなく自分には敵艦隊の殲滅任務が下る。プトレマイオスは逃げながらにして、敵艦隊の位置を追跡し続けていたのだ。


「今日はもう休んでたら良いんじゃないのか? 流石に疲れただろう?」

「冗談じゃないわ」


 妃花は当然のように乗り込んで来る。それに何故か口元に笑みを浮かべた自分がいた。


「じゃぁ、行くか。RD-01ネメシス-Type-01 レイン・バレンタイン出る!」



 



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