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13 深海調査に同行することなったのですが、にぎやかになりそうな予感がします

1


 この日、巡洋空母プトレマイオスは一隻の潜水艦と合流した。


 融合炉搭載型潜水艦で艦名をオデッセイと言う。本来の任務は巡行ミサイルを使用しての敵基地破壊を主な任務とする艦だ。


 暫くプトレマイオスはこのオデッセイと共に行動することになる。


 そしてデッキには、先日軌道上から投下され、回収を行った特殊潜水艇が置かれていた。


 空母のデッキに置かれているくらいなので大きさ的にはさほど大きくはない。ほぼ戦闘機と同じ大きさだ。


 そして、それに伴って数名の人間がこの船へと転送されて来た。小型特殊潜水艦のランナーを含む深海底調査チームだ。


「ステファンです。宜しくお願いします」


 そう言ったのは、調査チームを率いる女性だった。褐色の肌に若干癖のある黒髪が特徴的な女性だ。


 調査チームを率いるだけあって知的美人と言った雰囲気が強い。


「ご協力頂けて助かります」

「いえ、この重力井戸の底に拠点が設けられるなら、それは我々にとっても大きな前進になります」


 プトレマイオスの艦長がそう答える。それに同調するように潜水艦の艦長の男も頷いた。


 彼女達の任務は、現実世界側に気付かれにくく、例え気付かれたとしてもが手を出しにくい海溝深くに拠点を築くための下調べである。


 そして自分達の任務はその調査船の護衛だった。調査エリアの海中と海上、そして空を守るのだ。


 これは非常に重要な任務である。

 

 建設されようとしているのはただの拠点では無い。プラントである。必要な資源を一切を海底掘削により手に入れ、補給に必要な兵器製造まで行うと言う壮大なものだ。


 確かにこれが実現すれば、相当に戦況は楽になるだろう。


「軌道上からの投下による補給は、回収作業が毎回命がけですからな。なんせ投下ポイントには例外なく敵が集まって来る」


 と潜水艦の艦長。


「ええ、補給物資回収に交戦が避けられず、兵器を補給するために兵器を使ってしまうのですから、効率は非常に悪いと言うしかありません。ですからこの地球上に拠点が置かれると言うのは、非常に有難い。誰もが待ち望んでいたことです」

「そう言って貰えれば……ただ計画は始まったばかりです。それに実際に建設が始まれば、ユニットを次々に軌道から投下する形となりますから、暫くは今以上に大変な思いをさせてしまうかもしれません」


 それは大変どころの騒ぎではないだろう。敵が集まってくる降下ポイントからユニットを回収し、尚且つそれを何処に運んでいるのかを絶対にバレないように進めなければならないのだ。


 そしてそんなミッションが何度も繰り返される事になる。だが、そのリスクを冒してでもやらなければ前には進めない。拠点の建設は絶対に必要なのだ。


 デッキの上で行われる上の人間たちの会話を何となく聞いていると、エレンが姿を現した。


「今回はレインさんは海中の方の任務ですよね?」


 エレンが小型潜水艇を見ながらそんな事を言い出す。


「ああ、そうだけど。それがどうした?」

「それって調査船に付いて海溝深くまで潜って行くんですか?」

「まだ、分からないけどそうなる可能性もあるな」

「もし、そうなったら付いて行っても良いですか?」

「良いとは言い難いが……」

「そう……ですよね……」


 見るからに落ち込んでしまったエレン。彼女はあまり自分から主張するタイプの子ではない。それが付いて来たいなどと言うのだから、何か余程の事が有るのだろうと思い至る。


「確かに、深海になるのだとしたら、敵と遭遇する可能性は低いだろうから、妃花経由で頼んでみるよ。どういう訳か、妃花は民間人なのに出撃に一緒に付いて来る術を持ってるみたいだからな。どうやって上を説得してるのか分からんが」


 言った瞬間、エレンは心底嬉しそうに此方を見上げた。


「本当ですか!? 有難うございます!」


 またもや抱き着かれてしまった。


2


 ウィンドウ越しの妃花は要件を伝えるなり、表情をあからさまに不機嫌に歪めた。


「あら、私には毎回降りろって言うくせに、エレンは連れて行きたがるのね?」

「いや、そうじゃなくて」

「そうでしょう?」

「いや……」


 返答に困ってしまう。正直喉元まで、「それはお前を心配して」と出かかったが、言ったところで「エレンは心配では無いってこと?」と返って来るのがオチだ。


 正直任務の危険度が全然違うのだ。


 ウィンドウの向こう側で妃花が溜め息を吐く。


「仕方ないわね。ただし、誠意を見せなさい」

「誠意?」


 非常に嫌な予感がする。


「次の次の非番の時、貴方のお気に入りのお店を私に紹介なさい」


 構えただけに、その内容に拍子抜けしてしまうが、意味が分からない。


「それは、どういう……」

「しょ、庶民の味が知りたくてよ……」


 恥らうように視線を逸らした妃花。声の最後の方なんて消え入りそうである。


 思わず吹き出しそうになった。


「わかった。じゃあ、最高に上手いラーメンを奢ってやる」


 言った瞬間妃花の顔がぱぁっと明るくなる。


「交渉成立ね」

「それにしても妃花って本当に可愛い時あるよな?」

「は、はぁ!? 何!? 突然!?」


 例の如く耳までを真っ赤にして両手で顔を覆ってしまった妃花。


 なんだかこの反応を見るのが癖になってしまいそうだった。




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