11 航空機部隊、ピンチを助けられる
機体格納庫。
この日、8機の新型機が配備された。
それは、前回の潜水艦迎撃任務において敵が新兵器を使用すると言う惨事に遭い、失った機体の補充である。
同機体でないのは、敵の電磁パルス攻撃に耐えられる機体を必要としたからだ。それがたまたま新型機であったに過ぎない。
エンジンの大幅な出力アップ、さらにはノズルの可動域の拡大もあって機動性が従来機よりも格段に増していた。
本来なら大いに盛り上がるはずなのだが、今回ばかりはそうなってはいない。何とも言えない表情の隊員達に、スティーブは溜め息を付いた。
「新型機が入って来たって言うのに、なんかテンション上がりませんね」
「まぁ、通常の更新じゃなくて補充だからな。気が重い」
「確かにそれもあるけど、やっぱりテンションが上がらない理由は、あれじゃないっすか?」
隊員のが視線を送る先には、到底飛ぶとは思えないあり得ない形をした機体がある。
それには翼すらなく、まるで海中生物のような姿をしていた。流線形の胴体からは長い触手の束が伸ばされている。
醜悪極まりないデザインだ。
「あれに比べたら、これも玩具ですよね」
「文句を言うな。お前はあれのシミュレーター結果はどうだったんだ?」
「全然だめですね。一分と持たず墜落させました。だって、チョイっとやったらカクンって動くんすよ? しかもとんでもない速度で」
「だったら、乗れない機体を欲しがるようなみっともない事を言うな」
「ですけど、やっぱり凹みますよね」
「テストを兼ねた飛行訓練っていっても、俺等に任務が下りて来ることなんて今後あるんですかね? 結局潜水艦だってあの機体一機で片付けちゃったじゃないですか?」
「確かに俺等はあそこまで飛んでって、機体捨てて帰って来ただけですからね」
「俺等唯の足手まといって事じゃないっすか」
話しながら更に隊員達のテンションは下がっていく。それに自分までも無意識に引きずられてしまっていた。
「隊長は何も思わないんすか?」
「正直な、俺のような戦闘機乗りは必要とされなくなるかもしれん」
思わず本音が出てしまった。
途端に隊員達が泣きそうな顔をしてしまう。
「なんて事いうんですか!?」
「すまない」
「まだ、あれが量産されるのは先の話です。そんな事言わないで頑張りましょう? 隊長」
「ああ……」
なんだか情けなくて泣けてきた。
2
訓練の内容は、先日の電磁パルスを食らった状況をそのまま再現していた。
つまり模擬対潜戦闘である。
実機を使ってはいるが、やっている事はシミュレーターと変らない。システムが作り上げた仮想の敵と戦っているのだ。
そして訓練は筒がなく終わり、帰投しようと旋回をした直後だった。
突如レーダーに大量の敵機が映り込む。
「なっ!?」
誘導カーソルが示す方向、クローズアップした視界で空間が不自然に歪んでいた。
「電磁場迷彩・ステルスだと!? やつらいつの間に此方の技術を!?」
空間が歪んで見えると言う事はフロンティアのもの程、性能は良くない。だが、此処まで近づかれるまでレーダーに映らなかったのだ。
『隊長!』
「分かっている。各自判断で撃破だ。どのみちこのままでは帰れん」
このまま敵を引きつれて帰れば、母艦の位置がばれてしまう。
『この数!』
最悪だった。対潜模擬訓練の直後である。対潜装備で出撃してるために対空ミサイルをこちらは僅か2機しか装備していない。
敵は20機以上いる。対してこちらは8機だ。
3
『クソッ後ろに付かれた!』
『こっちはもう弾切れだ。機銃すら撃てない!』
隊員達の悲鳴のような声が聞こえてくる。
――ここでもまた貴重極まりない機体を放棄せざるえないのか!?
しかもたった一回の出撃でである。
こんな事があって良いはずがない。
『もう! 無理だ!』
隊員の誰かが叫んだ。
機体放棄を決断し、命令を出す刹那だった。突如として空間を切り裂くが如きに強烈な赤い閃光が薙ぎ払われる。
次の瞬間、数機の敵が一変に爆散した。
そしてあまりの速度の為に赤熱した装甲を輝かせ、燃えるようなプラズマを纏った機体が、戦場に乱入してきた。
その後は一瞬だった。
空間に浮かび上がる大量の爆発痕。
スティーブは全身の力が一気に脱力するのを感じた
4 レイン
「お疲れ様です。今日のデーターもばっちり取らせて頂きました」
帰投するなりそう言って頭を下げたエレン。
そして機体へと近づき手を当て瞳を閉じた。
出撃して帰って来るたびに繰り返されるこれは、彼女の中で特別な意味を持っているのだろう。何となくなのだが、ああする事でエレンは亡き姉と話しているのかもしれないと感じる。
「それにしても貴方、ひょっとしてこうなる事を予測してたの?」
「いいや。俺は何時ものようにこの機体で昼寝してただけだ」
「嘘よ。いつでも出撃出来るように準備していたくせに」
「うん……まぁ、一応な。何があるか分からないしな」
「優しいのね。エレンを助けた時にも思ったけど」
「いや、別に……当然と言うか」
妙な気恥ずかしさを感じる。
「それはそうと、次の非番の日は早起きしてなさい」
「なんで?」
「直接会って仕事の話がしたくてよ」
「そんなの今話せよ」
「ホントっ鈍いのねっ。この前のお礼がしたいのよ。だから私に付き合いなさい」
そのらしくない言葉に驚いて妃花の方を見ると、彼女は顔を赤く染めそっぽを向いてしまう。
――なんか、妙に可愛くなってきたな。
そんな事を思ってしまったせいか、彼女を見つめ続ける結果になった。
「な、何よ?」
「いや、妃花ってたまに妙に可愛い時があるよなって」
あえて思った事を素直に伝えると、次の瞬間、妃花は耳までをも真っ赤に染めった。
「は、はぁ!?」
思った通りの反応が返ってきたことに大満足してしまう。なんだか勝った気がした。




