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私のいる場所   作者: しおり
1/1

ヒプノセラピー前世療法

これは前作 「ある日の出来事」の続きとなる作品です。

日常の出来事にヒントを得、一部創作を交えて描いたストリーです。


ちょっとだけ不思議な世界を感じていただけたら幸いです。

遠くの方から何か心地良い声が聞こえてくる、、誰かが私を呼んでいる? そして一体ここは何処だろう?とても暖かくて気持ち良くて、ずっとこのまま漂っていたい様な、、夢の中にいるのか?

とその時、うっすらと光が差した気がした。そしてだんだん声が近づいてくる?曖昧なままそう感じると、今度ははっきりと聞こえてきた。

「 そろそろこのお部屋に意識を戻していきましょう。」聞き覚えのある優しい声が聞こえてきた。あれ? 何だろう?「それではこれから催眠を解いていきます。今から1から10までの数を、、、、」


あ、そうだった、、私はヒプノセラピーを受けていたんだ、、そして知らず知らずのうちに眠ってしまった様である。全身を預けたリクライニングの椅子が、あまりにも柔らかく私を包み込んでくれたからなのか?

「ご気分はいかがですか?」そう聞かれてやっと目を開けた。まだ頭はぼんやりとしているものの、すっきりした目覚めであった。


そう、私はここ最近あまりにも体調が悪くて、日常生活もままならず困っていた。それで友人に相談したところ、このセラピールームを紹介されたのであった。

初めにカウンセリングを受ける。そこで私の今の状態を詳しく話した。そこから夫との家族関係が体調不良の原因との見解が出された。それで、ヒプノセラピー所謂前世療法を試してみようという結果に至ったわけである。そしてたった今カウンセラーの先生の誘導に従い、前世への旅をしてきたのであった。


「気分も落ち着いている様ですし、それでは今から見てきた前世の振り返りをしていきましょうか。」

先生に促され、ソファー席に移動しセラピーを再会する。

「どうでした?前世で会った、今のご主人と思われる方とはどんな風に関わりましたか?」

そう、、今私は自分の前世を経験してきたのだ、、。ただ残念な事に途中から眠ってしまった様で、全部を覚えていない。それで、思い出せる場面だけ辿ってみる事になった。


私が見た前世はこうであった。

最初にぼんやり見えたのが、私が履いている草履であった。そして着ているものは着物。時代は江戸時代の終わりか、明治の初めか、はっきりは分からないが、多分そのあたりだと思う。

そして私は何処かの店の売り子であった。それなりに繁盛しているらしく、毎日が忙しかった。仕事は大変であったが、御主人、女将さん共に思い遣りのある方達であり、私は楽しく働いていたのである。

今の夫はその店の跡取り息子、所謂道楽息子であった様だ。両親とは全く正反対の性格で、優しさの欠片も無い自分勝手な人であった。言うに及ばず、雇われの私には、暴言を吐くのも無理な要求をするのも珍しくはなかった。

ある日の事、女将さんに頼まれ、今の夫の部屋に朝食を運んだ時の事である。起きたばかりで不機嫌であったが、いつもの事なので気にせず挨拶をし、テーブルにお膳を置いた。

「済みましたらお声をかけてくださいね。」そう言いながら立ち上がった時、ついうっかりテーブルの角に膝を引っ掛けてしまい、その反動でお味噌汁が少しこぼれてしまった。

「何やってんだおまえは!」いきなり怒鳴られた。「すみません、粗相してしまいまして。」直ぐに謝ったが、怒りは納まらない。味噌汁のお椀ごとぶつけられた。

「本当にすみませんでした。」私は謝っても何も変わらない事を知りながらも、そうするしかなかった。

「それで謝っているつもりか!」「すみません、すみません。」ただただ繰り返す。しかしむしろ怒りはエスカレートしていく。「大体おまえはいつもそうなんだ、一つでもまともに出来る事があるのか!」慣れている事とは言え、つい涙がこぼれる。

その時、廊下から足音が聞こえ、女将さんが部屋へ入ってきた。

「大丈夫?ごめんなさいね、いつもこの子のせいで嫌な思いさせて、、行きましょう。」そう言って私の肩をさすりながら、抱きかかえるよすうに寄り添いながら部屋を出してくれた。

私は「いつもありがとうございます。」と言いながら涙が止まらなくなっていた。ただただその時の女将さんのいつもにも増した優しさがとても嬉しく、暖かい気持ちになった。そして着替えを済ませ仕事に戻ろうとしたところ、

「ちょっと休憩しましょう」女将さんはそう言って、しばらく私と一緒に過ごしてくれた。そのひと時がとても気持ち良く心から寛げる幸せな時間であった。その辺りからだんだん記憶が曖昧になり、まだその先何か続きがあった気がするのだが、思い出せなかった。多分そのあたりから眠ってしまったのであろう。


「あなたが見た前世からご主人との関係に活かせるヒントは見つかりましたか?」

「はい、でも思い出せない部分に、もっと何か大切な事があった気がするのですが、、。」

「それはまた次回に辿ってみましょうか。では今日はここまでにしましょう。続きはまた次回に。」

「ありがとうございました。」



来週の同じ水曜日に予約を取り部セラピールームを出た。ふと時計を見ると1時半を過ぎたところである。10時から開始したので、すでに3時間半経っている。やはり少し緊張していたのであろうか?今まで全く感じていなかった疲れを覚える。ゆっくりと歩きながらそのままビルの外に出る。すると涼しい室内からいきなり強い日差しに見舞われたせいか眩暈を感じた。そしてかなり喉が渇いている事に気付く。それもその筈、今日は朝から何も口にしていなかったのである。「何処かでちょっと休んでいかないと」あたりを見回すと、地下鉄の駅近くに、ここからだと300メートル位あるか?小さなカフェの看板が見える。早速行ってみる事にした。


入口ドアの上の方に小さなベルが掛かっていて、取っ手を引くとちりりんと澄んだ音を立てた。店内に入るとすぐに香しい珈琲の匂いに包まれる。『この香り、やっぱりほっとする』左手にカウンター席が4つ、右手窓側には4人席のテーブルが3つ。全体的に茶色を基調にしているせいか、こじんまりと落ち着く空間になっている。

「いらっしゃいませ。」カウンターの中から黒い蝶ネクタイをつけたマスターらしき人が笑顔で迎えてくれる。

私が席を迷っていると、「窓際のお席にどうぞ。」と声をかけてくれた。

店内には一組のカップルが顔を寄せ合って楽しそうに話をしている。他には誰も居ないので、遠慮なくテーブル席を選ぶことにした。一番奥に席を取り、メニューを手にする。見るとオリジナルのブレンドが数多く並んでいる。本当ならその中から選びたいところだが、未だ空腹を感じない胃の事を考えて、カフェオレを注文した。

何気なく窓の外を眺めると、青山通りをなにやら楽しそうに歩いている人たちが目に付く。今の私は他の人からどんな風に見えるのだろう?窓に映る生気のない自分の顔を見つめながらふと思った。そしていつの間にか心は自然と今受けてきたセラピーに向かっていく。『前世って、、やっぱり繰り返されるのかな?』


私は結婚15年目の主婦である。子供はいない。夫とは見合いで出会った。正直に言えば、恋愛の様なときめきがあった訳では無い。とは言え優しそうで感じが良い人だと思ったのも事実である。そして何よりも私の仕事に理解を示し、結婚後も続けるのを快く認めてくれた。その事がとても嬉しく、この人とふたりで良い家庭が作れたらと、それなりに期待して結婚したのであったが、、それが結婚後間もなく一方的に破られるとは思いもしなかった。


 「お待たせ致しました。どうぞごゆっくり。」温かいカフェオレをそっとテーブルに置き再び微笑む。私はただ会釈で返した。すするように一口、美味しい。とてもなめらかで口当たりが良い。こんなに美味しいカフェオレを味っているのに、、どうしてだろう?頭の中では嫌な事を思い廻らせている。夫との関係性の悪さは、元はと言えば私の結婚観に問題があったのかもしれない。何故なら私は昔から結婚生活に夢を持てなかった。それは私の両親が決して仲の良い夫婦とは言えなかったからである。それもそのはず、父は酒乱でギャンブル好き、気分屋で、家族を労わる事は全くなかった。それでも母は離婚せずに添い遂げた。ただそれはその頃では決して珍しくは無かったのだろう。仕方が無かったのだと思う。私と弟を連れて離婚しても、結局は生活出来ないのだから。。それを思えば今の私の方がましだと自分を納得させ、現在に至ったのであるが、、。ここ最近は悩むことが多くなってしまった。


気付くとカップは空になっていた。私はちょっと考えて、カフェオレのおかわりを頼む事にした。そして、つい癖になってしまった、ネガティブな思い返しを、せめてカフェ・オ・レもう一杯飲んでいるこの時間だけはやめてみようと思った。今まで散々考え悩んできたのだ。偶然に見つけた素敵なカフェ、大好きな珈琲の香りで溢れる空間、ある意味日常と完全に離れた時間を過ごせるのだから。。

そして私はゆっくり2杯目のカフェオレを味わい、窓の外を行き交う人々を眺め、その人たちの人生を想像して楽しみ、暫くの間空想の世界に浸った。そして気が付いた時には2時間近くが過ぎていた。


お店を出ると更に日差しは強くなったように感じる。もう夏も終わりだと思っていたけれど、今年も残暑は厳しい様だ。

ゆっくりと青山通りを歩く。気のせいか足が軽い。ふと見上げた街路樹の葉がさわさわと音を立てている。立ち止まって深呼吸してみる。ほんの一瞬だけ空気が変わった気がした。何故かとても落ち着く。こんな明るい気持ちは暫く感じていなかった。セラピーとカフェのおかげで今日は良い日になりそうだ!久し振りにぐっすり眠れそうである。




数日が普段通り過ぎていった。特別に何も悪い事が起きなければ、それは良い日だと思う様にしている。やはりセラピーを受けた事が、少しだけれど、上手く自分と向かい合える様に作用しているのかもしれない。


今日は土曜日、夫はいつも通り友人とテニスをしに出掛けていった。これで夕方までゆっくりしていられる。ほっとして、途中にしていた朝食をまた食べ始めた。トーストはすっかり固くなり珈琲は冷めてしまったが、ひとりで取る食事はむしろ美味しく感じる。もう2人で暮らしていくのは無理なのだろうか?最近は良く離婚を考える。だが簡単には踏み切れないのも事実、専業主婦の弱みである。夫が全て悪いと思っている訳ではない。ただ、そう、かなりの気分屋なので、自分の思った通りに物事が進めば機嫌が良いのだか、何時どんな時に何が原因で急に苛つき怒り出すのか、それが分からないので困るのだ!長年付き合ってきても慣れる事は無かった。

「直るわけもないし、考えても仕方ないか、、。」

ふと気付けば外は気持ち良く晴れている。「折角のお天気、私も出掛けようかな!」セラピーで気付いた、憂鬱な気持ちをどう扱うかは自分次第だという事をちゃんと実行しないと、、。

近くのショッピングモールでウィンドショッピングしてランチして、そしてゆっくり珈琲も飲んで来よう!そう思うだけで浮き浮きする。

「それじゃ、早く家事を済ませちゃおうっと」声に出し自分に言った。こんな気持ち自体が嬉しい。私の一日を大切に過ごそうと思った。


「ただいま。」夫は7時過ぎに鼻歌交じりで帰ってきた。機嫌は良さそうだ。「おかえりなさい、ご飯食べるでしょ?」「いや、食ってきた。」「そう、じゃ珈琲入れるね。」「うん。」

『 電話してくれれば良いのに、私一人分なら簡単な物で済むのに、。 』と心の中で呟きながらも何気なく振る舞う。折角、楽しく過ごした今日を台無しにしたくないからだ。

珈琲を出して、1人での夕食をさっと済ませ、後片付けを始める。

「何だこれ?」夫はテーブルの上にある赤い女神像を手に取り不思議そうに眺めている。

「あ、それね、今日、モール内のファンシーショップで見つけたの。」そう、自分でも良く分からなかった。何故か買わなければと思った。一目見た時から不思議な魅力を感じ、まるで私の守り神になってくれそうな気がしたのである。「また詰まらない物買ってきて。」呆れた顔をして私を見た。「よく分からないけど、一目見てすぐ気に入っちゃって、、で、つい買っちゃった。」「ふーん、ま、いいんじゃない。」どうでもいい様にそう言うと、ソファーに腰を下ろしテレビのスウィッチを入れる。そして直ぐにテレビに興じる。そう、夫はテレビが大好きなのである。そしてよくテレビと笑いながら話している。話すというか、ニュースや番組の中、誰かがしたコメントに対して返事をすると言った方が良いかもしれない。こんな時私は極力話しかけない様にする。何故なら夫の会話の相手は私では無くテレビそのものなのだから。隣で一緒にテレビを見るのもむしろ気詰まりなので、自分の部屋で本でも読もうと早々に引き上げた。



そしてその2日後、月曜日の夜の事である。


「ただいま。」 顔を見るまでもなく、声だけで不機嫌だと分かる。玄関に向かおうと慌てて立ち上がる。その拍子に、テーブルの脚に自分の足のくるぶしを思いっきりぶつけてしまった。その振動でテーブルの上にあった女神像が倒れて床に転がり落ちた。

「おかえりなさい。」こんな日はとにかく無難に過ごす様にしないといけない。どんな事で八つ当たりされるとも限らないからだ。「ご飯は、、」と言いかけた時である。いきなり怒鳴られた。

「何でこんなところにお前のバッグがあるんだ! 邪魔だろ、どけろ!!」

『いけない、、うっかり玄関の上り口にバッグを置いたままだった。』

「ごめんなさい。」謝りながらふと心の中で何かが崩れた様な気がした。

「全くお前は、いつも何か邪魔な事してんだよ、本当にどんくさいやつだ。」どんくさい、どんくさい、、出てくる言葉、、主人の口癖だ。だんだん吐き気がしてきた。普通は言い返したいと思っても心で呟くだけなのに、何故だろう?今日に限っては、いつも謝ってばかりいる自分が嫌でたまらない。もう限界なのかもしれない、そう思った。それで私自身言全く言うつもりが無かったセリフが口に出た。

「ちょっとした事を、そういう風に気分次第で 怒鳴るのは止めて!私、我慢するのはもう嫌!もう出来ない!!」

「何だ、我慢だ、、自分が悪い癖に!!!!」怒鳴り声は更に大きくなる。そしてどどんと足音を立てながら、夫が私に向かってきた。目は血走っている。流石に怖くなった。体が思うように動かない。後退りしながら逃げたが、リビングに入ったところでそのまま転んだ。夫は上から私を見下したまま「ふざけるな!」そう言って私の体にまたがり、いきなり私の首を絞めた。

「お前が悪いんだ、ちゃんと謝れ!」そう言いながら私の首を絞める。『く、苦しい、、』言葉を発したつもりだが、ググッという声しか出てこない。夫の目が血走っている。『殺される』本当にそう思った。そのまま首を締め続けられ、だんだん頭全体が熱くなってきた。何とか、どうにか逃れたくて、手を伸ばした。すると指先に何かが当たった。夢中でそれを掴む。先程倒した赤い女神像だった。それを思いっきり夫に向けて振り下ろした。「お、おまえ、、」私の首にあった夫の手が少し緩んだ。振りほどこうとした瞬間、また更に締められた。目の前が真っ赤に染まった。その瞬間私は我を忘れた。気付いた時には、手にしている像で何度も何度も夫の頭を殴っていた。はっとして手を止めた時には辺りは沢山の血が飛び散っていた。私は息もつけずに女神像を手にしたまま震えていた。


そしてその時、思い出せなかったあの前世の記憶が急に蘇った。そう、そうだった、、あの後、女将さんに慰められ落ち着いた後、一人で店番をしていた時に、前世での夫に些細な事で責められ、口答えをしたと首を絞められたのだった。そして抵抗も空しくそのまま私は死んだのである。そうだったのか、、今日私が感じだ異常な恐怖は、前に経験した事から導かれたものだったのだ。そうか、そうだったんだ、、。

でも今度は私が夫を殺してしまった。私は成す術も無くただただ呆然と立ち尽くすだけであった。



読んで頂きまして本当に有難うございます。


今後は、色々なジャンルに挑戦してみたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します。

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