土だって楽じゃない
そこにある地面に視点を向け、声を聴いてみると、実は結構土も大変だと思う。
「けっ太平楽並べてるんじゃねえぜ。土だってな苦労や忍耐はいっぱいあるんでぃ」
と土が江戸弁を語るかどうかは知らないが、そこにあるというだけで土には気も止めないだろう。たまに暇な子供がシャベルで掘り返すぐらいである。
「痛っ。いきなり刺すんじゃねぇ。ああっ一番気になるところをほじくり返しやがった。ああ、俺の上の部分がどっかいっちまったじゃないか」
子供は、土の悲鳴などお構いなしに、シャベルですくった土を別の場所に移して、シャベルの背で叩いてならしている。
「叩くなよ。よその土と一緒になっちまったじゃねえか。あ、兄さんごめんな。これは俺の意思じゃない。どっかの子供が勝手にやったんでさあ」
子供は飽きてどこかに行ってしまった。しばらくすると雨が降り出した。
「俺の体が溶けて、兄さんの体と一緒になってしまう。うあああ」
容赦なく雨は土の体に降り注ぐ。やがて盛り上がった部分が崩れて、元あった土の、今はくぼみの中に、ゲル状になった土の大半が注ぎ込まれていった。
「ふう。やっと元に戻った。しかし、俺の体もずいぶん崩れてしまったな。どこからか誰かが蹴った石が混じって痛くてたまんねえ」
雨降って地固まるのことわざ通り、土は元いた場所に戻って一件落着。
「全然一件落着じゃねえや。逆さになっちまった。この姿勢は苦しくてたまんねえ。寝るのも一苦労だ」
ほじくられた土は、程よく柔らかくなり、虫や雑草の格好の住処となる。
「何かの種の根っこがこそばゆくていけねえ。ミミズそこ通るんじゃねえ。くすぐってえんだよ。これでアリに巣でも作られた日にゃ、うるさくてかなわねえな」
やがて雑草の根が、土の栄養分を根こそぎ奪っていくようになった。
「ああ、貴重な栄養がどんどん吸われていく。なんでこんなことになったんだ。俺はどうなる」
だが、道の真ん中だったのが幸いで、せっかく生えた雑草も、道行く人に踏み固められて、枯れてしまった。
「あいてて、また地べたとして踏まれる生活に戻ったか。慣れているとはいえ、多少うざいな。人は土に対する尊敬の念もちっとも持ちやがらねえ。踏むな。踏むな。」
土は毎日、こう思いながら暮らしているのでありました。




