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とりあえず始めてみようで始まった -1

初投稿です。

少しでもお楽しみいただけたら幸いです

「この羊羹おいしいね、早川さん」

社長がにこにこという。

右手に持った黒文字の先には艶のある緑色の長方形。

「この間のもおいしかったけど」

同じお茶菓子を続けて出すようなことはしない。

この間というのは先週水曜日に出した、芋羊羹のことだろう。

「これは新緑という名前ですね、抹茶入りだそうですよ」

不愛想と言われることの多い自分をわかっている私は、少しでも愛想をよくしようと付け加える。

「おいしいですね」

社長はうなずいてお茶を飲む。

ゆったりとしたお茶の時間は、そろそろ20分を越えようとしている。

おやつというか、一息入れるというか、まあティータイムの意義は十分に果たしていた。

そろそろ片付けるとするか。

そう思って立ち上がろうとしたところで、

ノックの音に一瞬固まった。

ゆっくりとドアの方を見る。

来客?

うちの会社にそんなもんが?

ちらりと社長を見上げ、戸惑ったような表情を確認し、

何とか返事をした。

「はい?」

なぜか疑問形。

だって仕方ない、とちょっと開き直る。

社長一人、事務員一人のこの会社で働き始めて2か月。

まさかと思われるだろうが初めての来客である。

私だっておかしいとは思っていた。

飛び込みの営業だとか、金融機関の渉外担当とか、

ふつう誰か来てもおかしくないだろうけれど。

やっぱり会社名が悪いんだろうか。

そこまで考えたところでドアが開く。

黒い。そしてでかい。

それが第一印象。


「失礼します」

イントネーションにおかしなところはない、ただ、外見がそれを裏切る。

日本人の年齢でさえあやしいのに、人種が違うのだから見当もつかない。

20歳以上、60歳以下だろう、おそらくは。

背が高い、がたいがいい。黒髪に褐色の肌、ブルーのシャツに濃紺のスーツ。

「いらっしゃいませ」

こんにちはよりはましだろう挨拶を、何とかひねり出した。

「CIAのミハイル・グランと申します」

「はい・・・?」

びっくりよりも、唖然。

いやだって、そういう組織が存在していることくらいは知ってるけれども。

それはあくまでもスクリーンとか、活字の中のものであって。

目の前で名乗られるとは考えていなかった。

旦那の浮気相手に「この泥棒猫!」という女の人とか。

行く先々で死体に遭遇しちゃってそのうえその時は関係がなさそうで、あとになって重要になる情報を教えてくれる近所の人に偶然出会っちゃうルポライターとか。

そういう人と同じ、ファンタジーの住人だと思っていたのだ。

太刀打ちできない、どころか対処の仕方がわからない。

社長に丸投げでいいかな、いいよね、社長だからね、責任者だもんね。

社長に笑いかけ、パーテーションと観葉植物で仕切られた応接セットに案内する。

それぞれのデスクの上にあった湯飲みと羊羹が乗っていた小皿を下げ、給湯室に向かった。

さて、と考える。

すぐに出せるのは日本茶かコーヒーか紅茶。

お茶請けはさっき出した羊羹か明日のために買っておいたマドレーヌかもしもの時のために

買っておいたオレンジショコラ・・・いやいやあれはとっておきだ。





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