表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/13

 クラス替えが行われて、好きな人と同じクラスになれた。

 桜の花びらも、ぽかぽかした陽気も、湧き出る虫たちも、僕を祝福してくれているようだ。

 同じクラスになれたことで、愛しの彼女、庵道さんが人の上に乗っていない状態を初めて見た。

 といっても、授業中の時等に座っているだけ。

 移動する時はいついかなるときも人の上に乗っている。

 まるで乗馬の如く、人を乗りこなしている。

 さすがに風呂やトイレの時は知らないけれど。

 乗り換える瞬間や乗り込む瞬間もどうしてか目撃できない。

 まるで幽霊のようだけど、れっきとした人間だ。

 たぶん。

 そんな庵道さんを見ていると、恋心とは別に、不思議な気持ちがわいてくる。

 一年の頃は、相当騒がれていたようだけど、クラスが違ったのであまり知らなかった。

 その一年間をへて、周りの人間も、慣れてきたようだ。

 教師も諦めたんだろう。

 その噂をきいて、遠目でみているうちに、いつの間にか好きになっていた。

「やあ鈴木くん。おはよう。何を考え込んでいるんだい」

「ああ、庵道さん。おはよう」

 柔らかそうな頬、鮮やかな青みがかった長い髪、綺麗と言うよりは可愛らしい。けれど、その何かを企んでいそうな表情はどこか小悪魔的だ。

 クラスが同じになってから、よく向こうから話しかけてくれる。

 きっと庵道さんは社交的なのだろう。

 行動は非常識だけど。

「おい、庵道おりろ」

 庵道さんが今乗っているのは、友だちの蝋沼君だ。

 いつものように乗り換えながら、学校に来たようだ。

 背の高い蝋沼君に、背の低い庵道さんはバランス的に合っている。

 そして背の割にやや大きい胸がこれでもかと押し付けられている。

 羨ましい。 

「おいおい、そう邪険にしないでくれよ。僕はこうしていないと、鈴木君に挨拶もできないんだぜ? それに重さは感じないだろう?」

 そう。庵道さんに乗られた人によると、重さは感じないらしい。

 庵道さんの言い分によると、人に乗るプロだから、感じさせないことくらい朝飯前だとか。

 なんだそりゃ。

 僕は乗られたことがないので、本当に重くないのかわからない。

 たぶん、乗られたことがないのは、学校でも僕くらいだろう。

 嫌われているのだろうか。

 もしくは、僕って臭いのかな。

 だとしたらはっきり言ってくれたほうが有難い。

「重くはなくても、色々と邪魔だ」

「まったく、つれないねえ。せっかく、おっぱいをいつもよりサービスしてるのに」

「ふん。人間の牝なんぞに興味はない」

 朝から恥ずかしい事を言う二人。

 綺麗な長い青髪の可愛い子に抱きつかれたら、少しは嬉しいものだと思うけど。

 蝋沼君は、別に男が好きなわけじゃない。

 動物が好きなのだ。

 彼の彼女はウサギのピーちゃん。白くふわりとした毛並みで、赤い瞳はどこをみているのか。

 今も彼の手元にいる。

 その性癖以外は、ちゃんとした人なのに。

 彼もまた、一年通し続けていたらその行動を容認されてしまった。

「しかたない。さらばだお二人さん」

 そう言って、庵道さんは消えた。

 僕の目がおかしいのか、庵道さんがおかしいのか、人の背からいなくなるときは、文字通り消える。

 教室を見渡すと、いつのまにか席についていた。

 なにやらノートを取り出して書き込んでいる。

「ふう、やっと離れたか。鈴木、おはよう」

「ああ、うん。おはよ」

 挨拶を返すと、蝋沼君は僕の前、自分の席に座った。

 ピーちゃんを膝の上にのせ撫で始める。

「よしよし、ピーちゃんは今日もかわいいなあ」

 恍惚の表情で、白い毛並みを味わっている。

「今日も元気そうだね」

「ああ、彼女の身体に触れているだけで、俺はめきめき元気になっていくぞ」

 蝋沼君は、晴れ晴れとした顔で言う。

 さっきまで喜怒哀楽でいったら、怒に近かったのに。

 今日も平和な学校だ。

 変人がそれなりにいるけども。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ