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 僕の妹。

 よく気がきいて、僕は何度も助けられた。

 両親が仕事で忙しく、ほとんど家にいないときも、料理係を買って出てくれた。

 小さい頃はよく僕にくっついて、共に行動していた気がする。

 ゆるく右側に結った髪型。私服もわりとゆるい物が多い。

 学校が終わると、よくスーパーに買い出しにいってたりもする。

 友達は少ないのか、はたまた誘いを断っているのか。

 本当に、妹には迷惑をかけてばかりだ。

 そんな妹と、あの日鉢合わせになるとは、凄い偶然もあったものだ。


 その日は、部活の一環として、皆で一緒に学校を出た。

 ドーナツ屋に行く事になったのだ。

 前に庵道さんと話した、喫茶店の代わりだろう。

「ああいうところは、あまり一人では行きにくいよね。僕は殆ど行ったことがないよ」

 庵道さんは行く道すがら、そう言う。

 そもそも、一人ではレジを通せないだろう。

 知り合いに乗るかしていないと。でも、そんな野暮なツッコミはしない。

 今はもう皆がいるのだ。代わりに尋ねる。

「庵道さんは、甘いもの好きなの?」

「ああ、なんだか名前につられてね」

「庵道夏奈。あんドーナツ、って入ってるんだよね」

 僕は当然知っている。

「え? あ、本当だ」

 紅百合さんが今気づいたように言う。

「私も最初に聞いた時わかりました」

「まったく。夏奈とかいて普通はかなと読ませるだろうに。変な名前をつけたものだ」

「私はかわいいと思うなー」

 手結さんの意見に、僕も心の中で同意する。

 出来れば今後名前で呼びたいくらいだ。

 でも恥ずかしい。

 ちなみに手結さんの虜はどうなんだろう。

 最後に「こ」をつけるのは昔からよくあるけども。

「俺はあまり食わないな。ピーちゃんもそうだし」

 確かに、ウサギが甘いモノをたべるイメージはない。

 そんなとりとめもないことを話していたら、店についた。

 

 当然、ペットは店に入れられないので、ピーちゃんは店の外に繋いでおくことにした。

 別れるのに、5分くらい費やしたけど、それを詳しく語るのは蝋沼くんに悪い。

 しぶしぶと皆と店にはいる蝋沼くん。

 やはり、多少はこの変人性も、治ったほうがいいのかも。

 店に入ると、もうなんだか恒例のように、店員はびっくりした。

 人の背にのる庵道さんと、肩やおへそがまるだしの手結さんに。

 それでもなんとか注文を通して、ドーナツを手に席につく。

「まったく、どうしてあんドーナツがないのかね。ここはドーナツ屋ではないのか」

 珍しく庵道さんが、怒ったように言う。

「しょうがないですよ。コストとか色々あるんですから。そんなに好きなら、今度あんドーナツ製作機を作りましょうか?」

 そんなものも作れるのか。

「そんな大げさなもの作らなくても、直接あんドーナツを作ればいいんじゃ」

 本当に作ってきそうなので、一応そう言っておく。

「もっと言えば、そのへんのコンビニで買ってくればいい」

 蝋沼くんが冷たいことを言う。

「いや、そこまで好きでもないんだがね。まあここは、ゴールデンチョコレートを楽しむことにするよ」

「私はポン・デ・リング。かわいいよねー」

 そう言って手結さんははむっと噛んだ。

「ああ、そんな残酷な」

「蝋沼くん、あれはライオンじゃないんだよ」

 こんなところで動物好きを発揮しなくても。

 そう言う蝋沼くんは、肉まんだった。

 ドーナツ屋なんだけどなあ。

「それを言ったら、庵道ちゃんのゴールデンチョコレートだって、キリンの一部だわ」

「え? そうなの?」

 知らなかった。他にもあるのかな、そういうの。

「ほう、詳しいじゃないか。紅百合くん」

「もっと褒めて庵道ちゃん」

 自分を抱くようにして、紅百合さんはぞくぞくと感じているようだった。

 そんな彼女の前には、ドーナツが他の人より積まれている。

 もしかしてよく来てるのだろうか。

「あ、墓井さんは僕と同じフレンチクルーラーなんだ」

「はい。この形が素晴らしいです」

「そうだよね。何でこんな形なんだろうね」

「今度研究して論文を出しましょうか」

「う、うん。頑張ってね」

 墓井さんならやりかねないけど、なんだかもう投げやりに返してしまった。

 ふわふわな感触。

 広がる甘い味と香り。

 生地が歯に心地よい。

 アクセントにコーヒーを飲むと、お互いが引き立つ。

 そうだ。妹にも何か買っていってやろうかな。

 あいつってどのドーナツが好きなんだろう。

「あれ? あにちゃん」

 考えていると、幻聴がした気がした。

 皆が同じ方向をみている。まさかとおもってそちらを見ると、そこには妹がいた。

「蘭子? なんでここに」

 手にはいくつかのドーナツとドリンクの乗った、トレイを持っている。

 あ、ここには皆もいるんだった。

「そのえっちな格好の子は、なに?」

 手結さんの方を指して、妹は笑顔でそう言った。

 言われた手結さんは、たははと笑っている。

「ちょっと、蘭子。失礼だろ」

「まあまあ、鈴木くん。その子が君の妹さんなのかい? だったら、一緒にお茶しようじゃないか。どうだい?」

 そう言って庵道さんは、誘うように手を伸ばした。

 なんだか嬉しそうだ。僕は妹が来て、ちょっとどきどきしているのだけど。

 妹も、席につく。

 7人にもなると、結構テーブルも狭く感じる。

「あにちゃん、この人達が、例の部活の?」

「う、うん」

「そう。僕達が、変人を更生する部。略して変更部さ。まあ、鈴木くんは普通代表として入っているんだけどね」

 庵道さんは手を広げて、得意げにそう言った。

「変人? 皆さん変人なんですか?」

「そうさ。今この状況だと、ひと目でわかるのは手結くんと墓井くんくらいか。そこの今にもヨダレを垂らしそうな眼で、君をみている紅百合さんは、


レズだよ。君の身体を狙っている」

「そんなことないわ。心も狙ってるもの」

「は、はあ」

 どんどん説明を始めている。妹をこのまま巻き込んでいいのかな。

 まあいいか。

 それより、この付き合いを止められないかが心配だ。

「彼女は墓井くん。頭がいいから、白衣をきているし」

 その説明はどうなんだ。

 墓井さんの抗議をスルーする庵道さん。

「そっちの手結くんは、男子に見られたくて、こんな格好をしている」

 妹の情操教育上よろしくないかなあ。

 本人は気にせずピースしているし。

「そして、彼は蝋沼くん。動物が好きすぎるんだ。前から鈴木くんとは友達だったようだけど、会ったことはないかい?」

「いえ」

 まだ家に呼んだことはないなあそういえば。

 きっかけがなかった。

「最後に僕は、人前で歩けない。ここで会ったのも、何かの縁だ。今後ともよろしくお願いするよ」

「どうも……。人前で歩けないって、じゃあ普段どうしてるんですか?」

「ふふん、時期にわかるさ」

 なぜ焦らした。

 にやつく庵道さんをじっとみる妹。

「あの、私達、前に会ったことあります?」

「それは同じ学校だからね。目にしたことくらいあるさ」

「うーん。そうじゃなくて」

 妹は考えこんでしまった。

 庵道さんは噂にもなるくらいだし、断片でも記憶にのこっているのだろう。

 あれ、でもさっきの口ぶりだと、妹は庵道さんの噂を知らないのかな。

「あーだめだ。でてこない」

 諦めたようで、ドーナツを食べ始めた。

 手結さんが、なんだかじーっと見ている。

「兄妹ってやっぱり似てるねー」

「本当ですか?」

 なんだか、妹はそう言われて嬉しそうだった。

 普通、こういう時嫌がるか平坦な反応をするもんじゃないのかな。

 よくわからないけど。

「うん。特に垂れ気味の目元がそっくり」

「ほほう。確かに。やっぱり遺伝子の力は偉大です」

 墓井さんも同意してきた。

 うーん。言われたことはあるけど、どうなんだろう。

「ねえ、蘭子はよく来るの? ここ」

「今日はスーパーに寄るついでになんとなくね。たまにしかこないよ」

「ああ、だから一人なんだ」

 先程、そういう話しがあったが、スーパーに行く予定だったならしょうがない。

 たぶん友達の誘いを断ってきたのだろう。

「そっ、そうよ。あ、そろそろ行かなくちゃ。またねあにちゃん」

 そう言って、せわしなく妹は去っていった。

「もうすこしゆっくりしていけばいいのに」

「かわいい妹くんじゃないか。確かお弁当は彼女が作っているのだよね。夕ごはんもなのかい?」

「ええ、両親があんまり家にいないから」

「素晴らしい」

 庵道さんは含みのある笑みで言う。

 なんだろう。でも、確かに素晴らしい妹だ。

 そのあとしばらく食べたり話したりして、

「ほんと、素晴らしい妹ちゃんだったわ」

「たぶん、紅百合さんの見てる部分は皆さんと違うところです」

「そうだねー」

「え? そうかしら」

「鈴木くん。フレンチクルーラーとやら、一口試したい」

「あ、食べる? はい」

「ほら、口に放り込んでいいぞ。あーん」

「そんなことしないよっ」

「あ、あたしのも食べないかしら? 庵道ちゃん」

「それより、そろそろピーちゃんの事が気になるんだが」 

 適当に僕たちも、店をでた。

 蝋沼くんは遠距離恋愛のカップルが再会でもしたかのように、外で待っていたピーちゃんに接していた。


 妹と二人きりの夕食タイム。

 といっても、ほとんどいつもこうなのだが。

 炊き込みご飯と、からあげと、サラダ。

 からあげはよくでてくる。僕は好きな方だけど、妹も好きなのかな。

 今日は二人共ドーナツを食べたからか、いつもよりは量が少なめ。

 本当に気がきく妹である。

「あにちゃん。夕方会った人たち、皆可愛かったね」

「そうかな」

 邪推が怖いので、そう返す。

 確かにダントツの庵道さんを除いても、部活の皆は、可愛い部類だと思うけども。

「あにちゃんは、どうしてあの部活入ったの? 普通代表って言ってたけど」

「それは、まあ、誘われたからだよ」

 本当のことはいえない。

「それだけ?」

「うん」

 見ている。こちらを見ている。

「なんだ、てっきり好きな人がいるからなのかと思った」

 うぐ。

 恐るべし家族の勘。

 まずい、動きを止めるな。

 図星をつかれた人間はその瞬間が一番危ないんだ。

 そこを乗り切れば誤魔化しきれるはずだ。

 スムーズにいつも通りに、箸を動かすんだ。

「ははは、なんのことかな」

 ……あれ。

 身体の動きばかり注意していたら、トークのほうが疎かになってしまった。

「ふううん」

 何かを納得したような顔。

 デコピンしたい気持ちが少しだけわいた。

「でも、私はあにちゃんにはもっと普通の人と付き合ってほしいな」

「そんな、付き合うだなんてそんな」

「友達としてっていう意味なんだけど」

「はい」

 焦る僕に冷静に返す妹。

「あにちゃんが影響されて、あんな格好したらどうしよう」

「するわけないだろっ」

 手結さんには悪いが断言しておこう。

「それに僕が誰と友達になろうが、蘭子には関係ないじゃないか」

 ちょっとハッキリ言い過ぎたかな。

 それでも恋人、とはいえなかったけど。

「そうだよね。うん」

 しょげたように妹はそう言う。

 なんだか暗くなってしまった。

 話題を変えよう。

「そういえば、今日ドーナツ食べたんだよな。知ってるか? あそこのキャラクター、ポンデライオン以外にもキリンとかいるんだってさ」

「うん。それくらい常識だよー。ほかにもリスとかゾウとか」

 いろいろいるんだな。名前はなんていうんだろう。

「なるほどなあ。でも、たまに食べるドーナツもいいけど、やっぱり毎日食べるならこっちのほうがいいな」

 そういって、お茶碗を少し掲げる。

「ほんと?」

「ああ。蘭子がいなかったらいまも僕は、寂しくカップラーメンだよ」

「大丈夫だよ。これからもずっと作ってあげるからね」

 そう言う妹の眼は、ほんのり据わっていた。

 気のせいだよね。

 うちの妹が、そんな眼をするわけない。

 それよりも、妹は元気になってくれたようで、なによりだ。


 授業が終わり、日直のノートを書いていたら、妹が教室にやってきた。

「あ、あにちゃん。よかった。まだいた」

 一年生が二年生の教室の方に来るのは、多少勇気がいるだろうに。

 妹が言うには、部活、変更部を見てみたいそうだ。

「部活といっても、前のドーナツ屋の時と、そんなに変わらないよ。ただお喋りしたり遊んだりしてるだけで」

「うん。それでもいいから」

 強固な意志のようだった。まあここまで来てるくらいだし。

 しかたなく、一緒に部室のほうへいく。

 庵道さんと蝋沼くんは、既に部室だろう。

 いや、蝋沼くんは動物愛護部かも。

 てふてふと、廊下を歩く。窓をみると、雨が降っていた。

 朝は晴れていたんだけど。

「蘭子の言ったとおりだ。傘もってきてよかった」

 窓を指しながら妹に言った。

「えへへ。私じゃなくて、天気予報のおかげだけどね」

 照れたようにそう返した。こういうのをはにかんだ笑顔というのかな。

 

 部室に入ると、蝋沼くん以外は揃っていた。

「皆はやいね」

「ああ、鈴木くん。おや、そちらは妹の、確か蘭子くん」

「こんにちは」

 妹はやや控えめにそう挨拶した。

「なんか、活動を見てみたいらしくて」

「そうなのかい。それは是非、隅々まで見て、楽しんでいってくれ。僕達の活動も、手結くんのおへそも、見学料はただだ」

「なんでそこで私のおへそ?」

「それにしても、急にどうしたのかね。鈴木くんのことが心配になったのかな?」

「ち、ちがいますっ。ただ純粋に興味がわいて」

 前にいってたように、僕が変人に影響されるのを、心配してくれてるのかな。

 服装の心配をしているのなら、いらぬお世話だけど。

「ふふん、なんならこの部に入ってくれても構わないのだよ。その素質はあるとおもっている」

 この部に入れる素質。

 僕の妹が変人扱いを受けている。

 でも、妹にそんな変なところ、あったかなあ。

「ここって、変人をなんとかする部ですよね。私は普通ですっ」

「どうかな。君はお兄ちゃんのために動きすぎて、あまりお友達がいないんじゃないのかい?」 

 庵道さんにお兄ちゃんって呼ばれるのもいいな……。

 じゃなくて、

「え? そうなの?」

 推理された犯人のように固まっている妹に、声をかけた。

「ち、ちがうよ。あにちゃん。ちゃんと友達いるから」

 オーバーな動きで否定している。

 僕のためだけに、そこまで迷惑をかけているのなら、止めたほうがいいのかな。

「えーと。たまには、僕も自分でごは」

「だめっ」

 一喝されてしまった。

「あにちゃんのご飯は私が作るのっ」

「でも、それで人付き合いが減っちゃうのなら」

「大丈夫だよ。ちゃんとクラスにも馴染んでるよ。両立できてるよ」

 なんかもう見ているだけで、妹がいっぱいいっぱいなのがわかった。

 兄としてはどうしよう。

 考えていたら、妹はばっと庵道さんの方に向き直った。

 対する庵道さんはいつものにやにや、にや道さんだ。

「わかりました。入ります。私が変人じゃないってことみせてあげます。あと、あにちゃんが変な影響を受けないように、見守ります」

 やっぱりそのつもりだったのね。

 高校生になって、多少離れたとおもったけど、昔のように妹は僕の側にいることになるのか。

 大丈夫かなあ。

 妹の将来が若干不安だ。

「ようこそ。変更部へ」

「わーい。新入部員だ」

「歓迎の意味をこめて、抱きついてもいいかしら」

「うちと同じ学年ですね。よろしくです」

 皆、変人であり変人と付き合ってきただけあり、今の変なやりとりをみても、寛大に歓迎してくれたのだった。

 今度、7つめの椅子もってこなくちゃ。

「ふふん、後二人いたら、野球ができるね」

「それはツッコミ待ちなの?」

「大丈夫さ。僕だってキャッチャーくらいならできる」

「バッターの時は?」

「指名打者にまかせようじゃないか」

「キャッチャーが指名打者に変わってもらうなんて、聞いたことないよっ。それ9人オーバーしてるし」

 まったくもう庵道さんは。

「今日は人生ゲームでもしようか。墓井くん、そこの棚だ」

 言われて、墓井さんは棚から一式を持ってきた。

 いつのまにそんなもの用意していたんだろう。

 そこそこに準備をして、ルーレットが回り出す。

「どうして僕は1か2しかでないんだろうね」

 庵道さんと足並みを揃えたいけど、どんどん離れてしまう。

「あにちゃん、け、け、結婚」

「おちついて、ね? ゲームなんだから」

 妹をみて、一瞬紅百合さんを思い出すなんて、僕はどうかしている。

 当の紅百合さんは、

「墓井ちゃん、手結ちゃん、庵道ちゃん、誰と結婚しようかしら。ふふ、ふへ」

 頭の中のイメージ以上だった。

「女同士の結婚は認められていないですよ」

 窘める墓井さん。今思うと、男1女5ってバランス悪いな。

「色んなお仕事があるんだねー。あ、アイドルだって」

 手結さんには向いていそうだ。

 生放送には出られないかもしれないけど。

 僕は無難にサラリーマン。

「鈴木くんは普通だね。だからこそ、ここでは真価を発揮するのだが」

「夫を悪く言わないでください」

「あれ? 呼称が変わってるよ蘭子」

 なんだか最近妹が暴走気味なような。

 部活で帰りが遅くなったから、寂しかったんだろうか。

 なんだかんだで、まだまだ子供だなあ。

「あにちゃん、もうひとつピンのせて」

 いつのまにか、子供を示すピンが、車にのりきらないくらい乗っていた。

 このゲームって、こんなになるんだっけ。

 楽しかったゲームも終わり、帰る談になった。

「またねー」

「ああ、手結ちゃん置いてかないでほしいわ」

「あにちゃんと一緒に帰るの、久しぶり」

「そうだなー」

 学年が違うからね。

 それでも、昔はよく妹が授業終わった後、教室に来たものだ。

 庵道さんと墓井さんが、最後に部室に残って何か話していたのが気になった。

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