第一話 突然の終わり
私、日向茜。この春高校に入学した、16歳です。家は和風の屋敷で、一応お嬢様のような感じです。武士系の子孫らしくて、この辺りを統治していたそうです。部活は弓道部で春休みから始めたばかりです。
今日もいつものように帰る。同じく弓道部の絵里と一緒に。
この時、少しでも時間がずれていたら。
いつもと同じ通学路を通らなければ。
何処かに寄り道をしていれば。
あんなことにはならなかったのかもしれない。
でも、私はいつものように過ごした。
いつもと同じ放課後。
いつもと同じ通学路。
いつもと同じ街の賑わい。
いつもと同じように楽しい会話。
何もかもがいつもと同じだった。
たった一つを除いて。
非日常はある日、ある時、突然やってくる。
「きゃあああああ」
突然、通行人から悲鳴が上がる。何事かと思い、振り返った瞬間、世界がフリーズする。まるでスローモーションを見ているかのような世界が広がる。その世界は人もモノも自分も全てがゆっくりとしか動かない。
先ほど悲鳴を上げたと思われる女性も。
こちらを見て驚いている通行人も。
助けようとしている絵里も。
心が凍りつきそうな笑みを浮かべた男も。
その男は鋭いナイフを持っていた。ナイフは真っ直ぐ私に向かってくる。頭が真っ白になった。
私は、あ、これ刺さるな、とだけ思った。
自分でもびっくりするぐらい冷静に。
ずっといい子でいようとした人生は面白くなかったのかもしれない。
私がそう思っている間にも少しずつ少しずつ世界の時間は進む。
予想通り、ナイフは振り返った私の左胸に刺さる。激痛が身体中を駆け巡る。ズブリ、と嫌な音とともに体の中に金属が入っていく感覚がした。気持ち悪い。
体の自由が効かなくなり、固い道路に叩きつけられる。熱い。痛いという感覚はなく、熱いのだ。刺されたところから熱が広がっていく。それも一瞬のことで、すぐに寒くなっていく。刺されたところだけが熱く、それ以外が寒い。血が流れすぎたせいか、だんだん視界がぼやけ、頭もぼんやりしてくる。
絵里が私に向かって、叫んでくる。
「茜!まだ死んだらだめだよ!絶対に。私と成人式で同じ振袖着るって約束したじゃん!高校卒業するってぇ。ねえ。ねえってばぁ。返事してよ…茜ぇ。」
私は最期の力を振り絞って言う。
「ご...めん.......ね。はあ.......い..ま...まで...あり....が... と.....う」
「いや。いやああああ。」
絵里が泣き叫んでいるのが聞こえる。誰が呼んだのか、救急車の音も聞こえるが、もう既に私には呼吸をする力も残っていなかった。
せめて、成人くらいはしたかったな…振袖着たかったな…ずっと両親に見てもらいたかったのに、結局最後まで見てもらえなかった。死に際なのに親の顔が思い出せない。私の人生って何だったんだろう。ずっと自分のために生きてきた。もしも来世があるのならば誰かの役に立てたらいいなあ。
ごめんなさい、絵里。今までありがとう。
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