香川でみんな生きている3
香川県高松市。
高松の町は今日も平和にのろのろとスライムがうろついている。
「あっ、スライムだー」
学校帰りの制服を着た子供たちがスライムをつついている。
そして、その近くの看板には『野良犬、野良猫、スライムに餌をあげないでください』と書いている。
所変わり、高松市郊外の人気のうどん屋、行列もなくなり、店主が無言で翌日の仕込みをしている。
「ん?」
うどん屋の店主は、なにかの気配に気づき外を見ると、スライムがいた。
「……ほれ」
うどん屋の店主はスライムに廃棄予定のうどんを投げるとスライムはうどんを溶かして食べている。
そんな香川県では、最近問題がある。
とあるエルフの女の子が商店街を歩いていると、
「あら?」
スマホでエルフの写真を撮る東京の秋葉原で見かけるような若者たちがいる。
「うわあ! 本物のエルフだ‼」
「えっ⁉ えっ⁉」
エルフは若者たちに囲まれた。
「すごい! エルフだよ!」
「普通の服、着ている」
若者たちの一人が露出度の高い鎧を身に着けたエルフが表紙のライトノベルを見せながら、
「エルフって、こんなの着てるんだろ! 今、着てよ‼」
「そ、そんな……」
エルフの女の子が戸惑っていると、
「やめなさい! 嫌がっているでしょ‼」
助けに入ったのは男の娘魔法使いカレンだ。
「ま、魔法使い⁉ 本当にいるんだ‼」
若者たちがスマホで写真を撮っていると、一人が何かに気付いた。
「あれ? でも、この——」
「ん? あれ⁉ さっきのエルフと魔法使いは⁉」
「いない⁉ どこだ⁉」
カレンはエルフと商店街の外に一緒に移動した。
「もう大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。助けてくださって」
「いいえ。困っている人を助けるのは当然ですよ」
エルフが去って行くと、カレンはため息をついて、
「はあ……。よそ者か……。行くよ」
カレンが箒に乗り、空を飛んでいると、
「わあーん!」
見ると、ホブゴブリンが武器を持った人間に追いかけられている。
「あっ」
カレンは人間とホブゴブリンの間に入った。
「やめなさい!」
「あっ! 何だよ⁉」
人間たちは驚いたが、すぐに構えて、
「何だ⁉ お前は⁉」
「なんで、こんなことをしているのですか?」
「決まっているだろ⁉ モンスター退治だ。四国では当たり前のことだろ?」
カレンは後ろにいるホブゴブリンに聞いた。
「なにか悪いことをした?」
「ううん。していない」
「そう」
カレンが杖を使って見ると、ホブゴブリンは町を歩いていて、人間たちが追いかけていただけだ。
「あなたたち、弱い者いじめじゃないですか!」
人間たちは怯んだが、
「モンスター退治して何が悪い! モンスター退治する俺達は正しいんだ‼」
「全てを退治する訳ではありません! 行こう」
「あれ⁉ 消えた⁉」
カレンは移動魔法でホブゴブリンと共に消え、商店街の外に出た。
「さあ、もう大丈夫ですよ」
「はあ……助かりました」
「それでは、よそ者に見つからないように」
カレンは箒で空を飛んで去って行った。
「あーあ……。帰ろう……」
カレンは黄色いうさぎに帰って行った。
「ただいまー」
「帰って来たか」
「おかえり! カレンちゃん!」
カレンは椅子に座り、
「もう……よそ者は……」
「また何かしたのか?」
「よそ者は相変わらずよねー」
よそ者とは、ここ一年前からやって来ている四国四県以外の所から来た人間たちの事だ。
四国は閉鎖したが、一年前、香川県の危険性が減って来たので、パスポートを使えば船で香川県のみなら行く事が可能になったのだ。
よそ者たちは香川県で買い物や観光を楽しみ、武器屋の趣味で作ったライオンボードで作った武器や防具をお土産で買っているのだ。
だが、彼らはスライムの写真を撮り、子供達に呆れられるだけならまだしも、モンスター料理を食わせろとか、さっきのような盗撮や嫌がらせが横行しているのだ。
そのため、香川県民たちが彼らの事をよそ者と呼んで冷たい目で見ているのだ。
「困っている人たちを助けるのはいいけど……モンスターより、よそ者の方が多いよ……」
「確かに多いな」
「平和でいいじゃない」
「平和ではないでしょう。ラブ様」
「そう?」
ラブはクスクス笑っていると、カレンの祖母はラブに寸胴を投げ、カレンに命令する。
「ラブより、カレン‼ 買い物をしてこい!」
「はい。おばあさま」
変身を解いたカレンこと宮田憐は、近所のスーパーに買い物に出かけた。
「買い物か……。お菓子の材料も買おうかな?」
スーパーに行く途中、一番人通りが多く、近代的な商店街の通りを歩くと、
「ねえ、君。ここら辺、案内してよ」
声をかけたのは若く垢抜けた男だ。
「今は用事があるので、ちょっと……」
垢抜けた男は憐の肩を抱きながら、スマホを見せた。
「これ知ってる? スマートフォンって言うんだけど……どんな物だと思う?」
「……電話やテレビなどでしょ」
(出たよ。スマホナンパ)
スマホナンパとは、単純にスマホを見せ、ナンパをする事だ。これの派生系にお菓子ナンパやゲーム機ナンパなどがある。
ネットでは、四国には文明が無く、モンスターを食べて生活していると書いていて、それを鵜呑みにしてナンパをする輩が存在するのだ。
実際、四国には生活用品、電化製品、嗜好品、全国展開のチェーン店等入って来て文明は東京や大阪と何ら変わらないのだ。
「知ってるの⁉ 四国には機械が無いって聞いたけど⁉」
「ありますよ。ネットの噂を鵜呑みにしないでください。では」
「ああ、君……」
憐は腕をすり抜けてスーパーに行った。
香川県のスーパーには北海道産や長野県産の野菜の中に甘露キャベツなどの明らかに異質なイヨの国産の野菜や果物が置かれている。
「さてと……」
憐が買い物しようとした……その時。
『モンスターです。モンスターです』
「モンスター緊急速報メール⁉」
憐がスーパーの外に出ると、メールが鳴っていない人がいる。その人たちはよそ者だ。
香川県民は冷静に避難場所に逃げているが、冒険者たちは率先して、モンスターのいる方向に向かう。
「あれ?」
憐が見かけたのは、どう見ても冒険者ではない武器も防具を持っていない民間人だ。その民間人たちも冒険者の後を追いかけている。
「あのー。避難所はあっちですよ」
憐が民間人に話しかけると、民間人はとんでもないことを言った。
「モンスターなんて写したら、フォロワーが増えるんだぞ!」
香川県民はモンスターに近づく危険を分かっているので、写しに行くような愚か者はいないのだ。
「そんな⁉ 死にたいのですか⁉」
「うるさい! どけ‼ 小娘‼」
「きゃ!」
民間人は憐を突き飛ばして、モンスターがいる場所に向かった。
「んもう……危ないのに……それに小娘じゃなくて小僧だー!」
憐もモンスターがいる場所に走った。
「モンスターは……ペルーダみたいだけど……」
蛇に似た頭を持つペルーダは尻尾を使って冒険者たちを攻撃している。
「あれ?」
「おい! ジャマだ‼ 避難しろ‼」
冒険者が怒っているのは、スマホを持ったよそ者の集団だ。
「それより、モンスター倒すなよ! まだ写していないんだ‼」
「はあ⁉」
「……」
憐は呆れている。
(命よりSNSの方が大事なの……)
「危ないだべ!」
「えっ……きゃっ!」
憐が声に気付く前に、シャンティが飛びついて憐を突き飛ばしたと同時にペルーダは口から炎を吐き出した。
「いたた……シャンティ……」
「カレン、遅いから来ただべ」
「ああ、ごめん。これ、どうする?」
憐はペルーダを指さして、その様子を見ると、ペルーダと苦戦しながらも戦っているが、冒険者の一部はよそ者と揉めていて、ペルーダとの戦いに参加出来ない状態だ。
「ふーむ……ペルーダなら尻尾が弱点だけど、なかなか斬れないみたいだべ」
「なら、こっそり動きを止める?」
「それがいいだべ」
「それじゃ、変身!」
憐は男の娘魔法使いカレンに変身すると、呪文を唱えた。
「⁉」
空から大きな光の輪が出て来て、輪はペルーダを締め付けた。
「あっ⁉」
「カレンか?」
「でも、チャンスだ」
ペルーダは締め付けられ動かなくなっている。
「行く——」
「待て‼」
冒険者の一人が尻尾を斬ろうとすると、よそ者たちは冒険者を止め、近づいて背中に触れようとした。
「おい! なにするんだ⁉ やめろ‼」
「この背中のトゲを取って見せびらかすんだ」
「これは、本物のモンスターの一部だ。自慢できるぞ」
「おい! バカか‼ それは——」
よそ者たちがトゲに触れると顔色が悪くなり、急に倒れて苦しみだした。
「そのトゲは毒なのに‼ おい! 救急車‼」
「回復魔法使いますよ」
「あっ、カレン。すまない」
カレンが回復魔法を唱えると、よそ者たちの顔色は良くなり、眠っている。
「ふう……」
「悪いな。後は救急車を待つだけだが……」
「カレン、意識を取り戻す前に帰った方がいいぞ。魔法が使える人間なんて見たら、どうなるか、わからないぞ」
「……そうだね。帰った方がいいかも」
「帰るだべ。カレン」
「じゃあ、また」
カレンはシャンティを肩に乗せ、箒に乗って飛んで行った。
カレンが空を飛んでいると、
「あっ、買い物していない」
カレンはスーパーに向かっていった。
これが香川県の日常だ。