高知でみんな生きている2
高知県。
「うわああああああ‼」
お遍路さんとしている水城真言は毒の鱗粉を振りまく巨大な蛾に追いかけられている。
「高知にまともな生物はいないのかああああ‼」
高知県、そこは異世界よりも異世界の国。
「はあ……はあ……」
真言はだだっ広い場所に座り込んで休憩している。
(こういう場所だ。全体を見渡せる広い方が安全だ)
真言がペットボトルの水を飲もうとすると、一口しか残っていない。
その一口を飲み干すと、次の札所のことを考えた。
(第二十四番札所最御崎寺まで行くのにどのくらいかかっているんだ? 二十三番札所から車で行けば、約二時間で着くのに……。早く札所に着いて、食糧や水の補給をしないと……。食糧も欲しいが温かい飯も食べたい、風呂に入りたいし、それより、畳の上で寝たい……)
「はあ……」
真言がため息をつき、まだ考え込む、
(そもそも、じーちゃんだよ。じーちゃんが見つかれば、帰って全て手に入るのに……)
「じーちゃん。どこだ……」
短い休憩が終わると、真言は立ち上がり歩き出した。
「ふう……」
早速、出会った……ワームに。
「ふっ……」
真言は逃げ出した。ワームは追いかけて来る。
しばらく逃げたが、まだワームは真言を追いかけて来る。
「「っぎゃああああああああ‼」」
真言がワームから逃げていると、
「「ん?」」
真言の横に走っているプレートアーマーを装備した十八、九歳くらいの男がいた。
プレートアーマーは鉄板だけではなく現代の素材を使っているため、数キロぐらいの重さと鉄以上の防御力があり武器屋で十万円から買えるのだが、一部の武器屋が趣味で作った三万から五万円で買えるライオンボードで精巧に作られた防具も売られていて、説明を聞かずに値段だけで買い、酷い目に遭う冒険者も存在するのだ。
「誰ですか?」
「いや、何、ワーム連れて走っているんだ⁉」
「いえ、連れて来る気は無かったのですが……」
「ワームなんてモン連れて来んな‼」
「では逃げましょう」
真言は早く走って先に逃げだした。
「あっ⁉ コラァ!」
ワームは男の方を追いかけている。
なんとか逃げ切った真言は、
「これも日ごろの行いの良さだな」
真言が休憩していると、
「見つけたぞ!」
さっき、ワームから一緒に逃げた男が怒りに狂った表情で現れた。
「あ」
「なぜ、ワームを連れて来たんだ⁉」
「それは……見つかっただけで…………逃げろ‼」
真言は走って逃げだした。
「あっ! 待て‼」
男は追いかけて来るがワームよりは楽に逃げることに成功した。
「あー。人間は楽だ」
真言は先に進んで行くと、荷物を持った軽鎧の十五、六の少年に出会った。
「……人…………ですか?」
「あ…………そう……です……」
少年は震えた手で短剣を持って身構えている。
「もしかして、冒険者ですか?」
「はい。なりたて、ですけど」
「そうですか。なりたてでは高知なんて危険なのでは?」
「実は、部活の先輩と一緒に初めて高知に来たのですが……その先輩とはぐれてしまって」
「つまり、迷子と言うことですか」
「恥ずかしい話、そうです」
若い冒険者は顔を赤らめてうつむいた。
「では、連れを探しますか?」
「えっ、でも、いいんですか⁉」
「構いませんよ」
若い冒険者は満面の笑みで、
「ありがとうございます! このお礼は——」
「お礼を受け取るようなことではありません」
真言は恭しく言ったが、本心は、
(ったく、ひよっこ冒険者を置いていくなよ!)
「では、行きましょうか?」
「あっ、はい。その前に……」
若い冒険者は、荷物からコンビニのおにぎりとスポーツドリンクを取り出した。
「これ、食べてくれませんか⁉ 一緒に探すのなら腹ごしらえをしましょう‼」
「マジで⁉ ——い、いえ、よろしいのですか?」
「? はい。どうぞ」
真言はスポーツドリンクを飲みながらおにぎりを食べた。食事をしている真言の服装をしげしげと見て、
「もしかして、お遍路さん? ですか?」
「そうですけど」
「すごい‼ お遍路さんって初めて見ました! している人、初めて見ました‼」
「私も人探しの為、お遍路をしているのです」
「人探しですか? 今の僕も人探しの最中なんですよね」
真言と若い冒険者は食事を終わらせ、二人で歩き出した。その間も話は続けた。
「お遍路さんは誰を探しているのですか?」
「ああ、祖父です。祖父もお遍路をしており、その最中に行方が分からなくなったのです」
「スマートフォンとかは持っていないのですか? 連絡とかは無いのですか?」
「……祖父は持つような人ではありません」
(持っていてほしいよ)
「行方不明者なら冒険者ナビや警察には言っていないのですか?」
「……ある人が言ったのです。『行方不明になった程度では死なん。あり得ないと思うが遺体を見つけたら持って帰ってこい』と」
「そ、そうなのですか……」
「そう言われた私は祖父同様、歩いて探しているのです」
「あ、歩きで⁉ 四国を歩くなんて無茶ですよ‼」
「これまで危険な目に遭いましたが、これも修行です」
(これまで、何回死にかけたか……)
「あっ! でも……お遍路さん」
「どうかしました?」
「もしかして……冒険者ですか?」
「そうです」
若い冒険者は笑顔になり、スマホを取り出し、
「やっぱり! 冒険者でも四国を歩く人なんていませんよ! お遍路さん、かなりの実力者でしょう⁉ 連絡先教えてください!」
「そんな、実力なんて持っていませんよ。それより、あなたの探し人の先輩は?」
「あっ! 先輩は——」
若い冒険者はスマホを見せながら、
「この人です」
「この人ですか」
若い冒険者が見せたのは、あの時、ワームから一緒に逃げた冒険者の顔だ。
(こいつが先輩かよ! 面倒だなぁ! おい‼)
「あの……見かけましたか?」
「……はい」
若い冒険者は真言に近寄り、
「どこですか⁉ 教えてください‼」
「えー。そこに行きましょう」
二人は、最後に冒険者と会った場所に戻って来た。
「ここですか? せんぱーい‼」
若い冒険者は大声で叫ぶが何も反応が無い。
「あまり大きな声で叫ばない方がいいですよ。モンスターが襲いにくる可能性があります。その為、若輩者とかはスマホまたはイヤホン等で会話をするのです」
「そ、そうなんですか⁉」
(常識だろ。講習会では一番最初に説明するところだぞ)
「次からはそうします。ですが……先輩……どこに」
二人で探していると叫び声と引きずる音が聞こえてきた。
「た、助けてくれ‼」
「せ、先輩⁉」
真言が見ると、ワームから一緒に逃げた冒険者がワームに追いかけられている。
「せ、先輩‼ 今、助けに——」
若い冒険者が短剣を持って助けにいくが、
「うわあ!」
ワームに弾き飛ばされた。
「なにやってんだよ⁉ 助けろ‼」
「わ、わかってます……」
ふらふらになりながら若い冒険者は立ち上がる。
「…………」
(あいつのプレートアーマーよく見ると欠けて白いところが見えているな。ライオンボードで出来ているな。これも講習会で最初の方に言っているやつだぞ。『武器や防具はちゃんと説明を聞いてから買え』って、この二人、二人ともひよっこ冒険者かよ)
真言が見守っていると、冒険者は逃げながら真言を睨みつけ、
「こうなったのは、お前のせいだぞ‼ お前がワームなんか連れて来るから‼」
「…………」
「おい! 聞いてんのか⁉」
(高知まで行く冒険者なら、ワームを簡単に倒せないと先に進めないぞ)
真言が呆れていると、若い冒険者はワームに向かおうとしている。
「先輩……待っていて……くださ——」
「やめろ‼」
真言が叫ぶと、二人はビクッとして止まった。
「こっちに来い! ワーム‼」
ワームは真言の方向に向かってきた。
「これは、お大師様も許してくださるでしょう」
真言は二丁の銃を取り出し、
「右手には炎」
右手は炎に包まれた。
「左手にも炎」
左手も炎に包まれた。
真言が銃を構えると、
「焦熱」
真言が銃を撃ち、ワームに命中すると、ワームは燃え、塵も残さず消えた。
「「……」」
二人の冒険者は、ただぼんやりと真言を見つめている。
「はい」
真言は若い冒険者に近寄り、瓶を渡し、
「薬です。お飲みなさい」
「あ……はい……」
若い冒険者が薬を飲むと元気になり、真言の銃を見ながら話しかけた。
「ありがとうございます! それは魔法銃ですよね?」
「そうですよ」
「あの……魔法銃は魔法が使えないと、使えない銃。……もしかして魔法が使えるのですか?」
「はい」
若い冒険者は気まずそうに、
「あの…………出身は徳島ですか?」
「いいえ、善通寺市ですよ」
「あっ、そうなんですか」
逃げ回った冒険者は震えながら、
「お、おい! 逃げるぞ‼」
「その方がいいでしょう。あなた達には高知は早すぎです」
逃げ回った冒険者はすぐに逃げたが、若い冒険者は頭を下げ、
「助けて下さって、ありがとうございます! 魔法は使えませんが、僕もお遍路さんみたいに強くなります‼」
礼を言うと、若い冒険者は去って行った。
「助けられたのは俺の方だ。これは飯の礼だ」
真言は歩き出した。
これが高知県の日常だ。