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四国でみんな生きている  作者: 山田忍
四国でみんな生きている2
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香川でみんな生きている2

 香川県の盛り場にある居酒屋『黄色いうさぎ』にて、

「いらっしゃいませー」

 黄色いうさぎは、温かい黄色を基調とした居酒屋で、カウンターだけでなく、個室もある居酒屋だが、その壁にはメニューやポスターではなく、冒険者への依頼が張られた紙に覆われた居酒屋だ。

 その居酒屋は、一般人より冒険者と言う職業の者で賑わっている。

 冒険者と言うのは、もともと異世界の者がしていた職業で現在、香川県では、人間は十五歳でなれ、筆記と実技のテストに合格すればなれる。

 冒険者には、スマホのアプリ『冒険者ナビ』で賞金首のモンスターやお尋ね者の顔や行方不明者の顔に情報や、モンスターの生息場所、モンスターのデータなどだけでなく、SNSやチャットで仲間集めや情報交換、武器屋のセールを教えるのだ。

 黄色いうさぎは、パソコンやスマホの苦手な人たちの仕事の斡旋やチャットなどで知り合った冒険者の待ち合わせ場所に利用されている。

 ちなみに香川県で冒険者になっている者の大半は元徳島県民か高知県民である。

 今、黄色いうさぎにいる冒険者たちはスマホをいじりながら酒を飲み、与太話をしている。

「それでさー」

「そうか」

 冒険者たちが与太話にふけっている間は、男の娘魔法使いカレンこと宮田憐は酔っ払い冒険者の接客をしている。

「憐ちゃん。実は——」

「そうですか。そんな事があったのですか」

「そうそう」

 カレンは酔っ払い冒険者たちの話を聞いている。

「カレンちゃん、そんな話聞くの?」

 カレンの後ろから魔法使いラブが現れた。

「ラブ様‼ 僕は冒険談って、ついつい、聞いてしまいます」

「冒険談よりお菓子やお洋服の話でしょう」

 カレンはため息をついて、

「……お菓子やお洋服も好きですけど」

「じゃあ、女の子らしく可愛くなきゃ! ね。カレンちゃん!」

 ラブに空の寸胴が飛んできた。投げたのは激怒している老婆だ。

「憐は男だ‼ 勝手に娘にするな‼」

「えー。いいじゃなーい」

「やかましいわ!」

「おばあさま。すいません……」

「そんな態度だから、娘になるのじゃ‼ それよりヴィータ! これを持って行ってくれ!」

「はい」

 メイド服を着たヴィータはラブの作ったホムンクルスだが、このメイド服はラブの趣味である。

「ほれ、憐も! 枝豆持って行きな‼」

「あ、はい」

 カレンが枝豆を持って行くと、枝豆を注文した顔の赤い中年の冒険者は寂しげに、

「あ~あ、憐ちゃん。聞いてくれないか?」

「何をです?」

「俺が冒険者になった理由だ。今、四国は閉鎖され、徳島は流刑地になり、高知は危険地帯になっただろう。……俺の生まれは高知県だ。……危険地帯になっても、俺の生まれ育った場所だ。……高知の地に少しでも帰りたい。たとえ、家も町も無くてもな」

「…………」

 顔の赤みが消えた冒険者は穏やかになり、

「……悪かった。手間取らせて、グチを聞いてくれてありがとうな」

「徳島の人も同じことを言っていました。故郷は大切に思う気持ちは皆同じですよ」

「……そうか」

 冒険者と言うのは、ここでは一攫千金よりも少しでも生まれ故郷の土地を踏みたい者たちが冒険者をしているのだ。

 翌日、学校帰りの帰り道、二人の男子中学生が歩いている。

「憐、寄らないか? いつもの」

「ああ。あそこ? いいけど」

 一人は男子の制服を着たカレンと、もう一人はカレンの友人の小林隼人だ。

 彼らがいつものと言った場所は商店街の中にある武器屋だ。

「いらっしゃい」

 武器屋の中は、銃と日本刀だけでなく、ロングソードやチャクラムなどの武器が所狭しと置かれている。その奥では、髭面の初老過ぎの男性が座って銃の手入れをしている。

「やっぱり武器屋はいいなあ」

「本当に多いね」

 香川県に武器屋があるのは、もともと猟銃を扱うガンショップが、冒険者と言う職業が出来たと同時にイヨの国や外国から武器を輸入してガンショップは武器屋になったのだ。

 その後、冒険者人口が増えるとそれに比例して武器屋も増えていき、今では一つの町に一か所、武器屋があるのだ。

「武器かあ……。おれも十五歳になったら冒険者になってモンスターとか倒してみたいなー」

「モンスター、ねえ」

「憐、モンスターとか倒しているじゃないか。おれも来年の今頃、お前より先に倒しているからな」

「お前より先により、隼人と一緒に冒険出来る方が嬉しいな」

 隼人は呆れて、

「……何か調子狂うぞ。負けないぞにしてくれ!」

「じゃあ、負けないぞ!」

 カレンが勢いよく言ったことで隼人は調子を取り戻して、

「そうだ! その意気だ!」

 隼人はショートソードを持ち、一振りしてから、

「こんな風に悪いモンスター、ぶった切ってやるんだ」

「隼人なら出来る——」

『モンスターです。モンスターです』

 店の中にいた全員のモンスター緊急速報メールがきた。

「モンスター⁉ ——チュパカブラだ! どうするんだ?」

「場所は田町だ。近いよ」

「チュパカブラなら簡単に倒せるよな⁉」

「戦闘力は弱いから倒せるとは思うけど、念のため見に行こう」

「わかった!」

 二人は現場に向かった。

 田町では子供や戦えない者たちは警察の指示に従って逃げている。

 逃げている中でテレビ局のクルーがやって来て準備をしている。

「おりゃあ」

「それ!」

 アーマーを装着している人物や軍人らしき人物などがショートソードや銃を使って、一体のチュパカブラを攻撃している。

 今、攻撃している人物は見た目は違えど全て冒険者と言う者たちだ。

「あれ? これ……」

 隠れている隼人は、あることが気になりスマホを調べている。

「やっぱりだ。憐、チュパカブラよく見ろよ」

「んー?」

 カレンがチュパカブラをよく見ると、その目の色は青い。

「チュパカブラって、目は赤いんじゃなかったの?」

「そうだ。この青い目のチュパカブラ、賞金首のモンスターだ。倒すと十万円だぞ」

「十万円か。十万ぐらいなら倒せそうだね」

「これは、冒険者に任せておくか」

「うん。なんでもかんでも僕が倒すとその人たちの仕事を奪ってしまうから」

 二人は黄色いうさぎに帰った。

「こんにちは。おばあさん」

「ただいま」

 別に心配した様子ではない祖母がいた。

「帰って来たか」

「おばあさま、このモンスターなら冒険者で倒せそうなので帰ってきました」

「うむ。そうじゃな」

 祖母がテレビをつけると、さっきのチュパカブラが暴れていて、アナウンサーが報道している。

『大変です! チュパカブラが増え、冒険者を襲っています‼』

 冒険者たちはチュパカブラに返り討ちになっていて、血を吸われている。

「ああ! チュパカブラが三十体以上に増えている‼」

「じゃあ、憐行くのか⁉」

「行くよ! ——シャンティ!」

「はいだべ!」

 シャンティが杖を持ってきてカレンが受け取ると、魔法を使って男の娘魔法使いカレンに変身した。

「おばあさま、ラブ様。行って来ます!」

「行って来な」

「気を付けろよ」

「カレンちゃんのピンチ、テレビで見ているわ」

「ラブ様‼ もう‼ 行きますよ‼」

 怒りながらカレンはシャンティを肩に乗せ、箒に乗って、空を飛んだ。

 田町に行くと冒険者がチュパカブラに襲われて不利な状況になっている。

「うわあ!」

「くっ……」

 チュパカブラは更に増えておおよそ五十体以上に増えている。

「襲われている。行くよ」

 カレンが呪文を唱えると杖から光の矢が飛び出て、全てチュパカブラに命中し倒れた。

「はあはあ……」

 冒険者たちは首や腕などの箇所を怪我している。

「怪我している。治してあげる」

 カレンが杖を振ると冒険者たちの傷は消えていた。

「おお……」

「ありがとう!」

 冒険者たちは手を振りながら感謝している。

「ふう……やったけど……」

「いや! まだだべ‼」

 一匹だけ起き上がった。起き上がったのは例の青い目のチュパカブラだ。

「まだ一匹……⁉」

 青い目のチュパカブラは、その他の倒れたチュパカブラの血を吸っている。

「な、なに⁉」

 血を吸ったチュパカブラは少し大きくなり、高く飛び上がった。

「あっ⁉」

「カレン、来るだべ!」

 チュパカブラはカレンの近くまで来て、殴った。

「きゃあ!」

 落ちたカレンは地面に叩きつけられる前に、空中で止まった。

「危ない……ん? きゃあ‼」

 空から降りて来たチュパカブラはカレンに覆いかぶさった。

「しまった!」

「カレン!」

 チュパカブラがカレンの血を吸おうとすると、

「危ない!」

 冒険者の一人が銃を撃ち、チュパカブラの体に命中した。

「カレン。大丈夫だべか?」

「うん……。ごめん」

 カレンは立ち上がり、ほこりを払った。

 チュパカブラは冒険者の方向に飛び跳ねながら来た。冒険者たちは向かってきたチュパカブラを攻撃している。

「カレン! 後は任せろ!」

「後で十万円で飲みにいくからなー!」

「…………わかった! 手当ては任せて‼」

 チュパカブラを冒険者全員で攻撃した結果、青い目のチュパカブラは倒れた。

「やった!」

「もしかしたら、十万円より多くもらえるかも」

「市役所で賞金受け取ったら、黄色いうさぎに行くぞー!」

「憐、接客頼むぞ」

「……わかりました。では」

 冒険者は市役所にカレンは黄色いうさぎに帰って行った。

 これが香川県の日常だ。

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