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四国でみんな生きている  作者: 山田忍
四国でみんな生きている
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高知でみんな生きている

 高知県。

 緑色の雲に覆われ朝も昼も夜も無い空と、異様な色をした山は瘴気に覆われ、人間や亜人や妖精や精霊どころかモンスターがモンスターを襲い合う、異世界そのものより危険な危険地域だ。

 完全に人間は住んでいないが生き物はいる。異世界の影響で凶暴かつ巨大化した生き物たちと邪悪なモンスターたちだ。

 この異世界こそ高知県と言う県である。

 高知県……いや異世界となった県を歩く一人の男がいる。

 同行二人と書かれている菅笠を被っている男の服は背中に南無大師遍照金剛と書かれた白衣(びゃくえ)に金剛杖を持ち、手甲、脚絆、草鞋の伝統的な姿のお遍路さんが歩いている。

 菅笠で隠れた男の顔を見ると、ぼさぼさの長い黒髪で目を隠している。

「……」

 異世界だと言うのに、お遍路さんと言うのは奇妙なものだ。

 だが寺はある。人ではなく、亜人や妖精、精霊、善良なモンスターたちが代わりにしている。

 四国が閉鎖されてから、お遍路さんをする者はほぼ皆無である。

 危険地帯を何の代価も無く行く物好きなぞいないのだ。

「……」

 巨大なゴキブリに似た虫が喧嘩をしている。相手にしなければ自分には何も及ばない。

「……」

(ゴキブリ同士の喧嘩は無視するに限る)

 ゴキブリは喧嘩しているままだが、お遍路さんは何事もないように無視して歩いて行く。

 少し歩いてから周りを見渡し、

「…………いないな」

 お遍路さんである水城真言(みずきまこと)が、お遍路さんをしているのは、一人の男を探すために、お遍路さんをしているのだ。

「どこに居ても、おかしくないからな」

 ゴキブリから離れた真言は高知の道をただ一人歩く、かつて道路であった道はひび割れ崩れている。

 建物は無くなり、見たことがない植物が生えている。

「香川と見比べると相変わらず異世界だ」

 真言は、ただ高知の道を歩いて行く。

 いきなり空は暗くなり、上を見上げると、巨大な鳥の集団が飛んでいる。

「あれ、人を喰うんだよな」

 真言の後ろに気配がして後ろを見ると、巨大な鳥が一匹、口を開け、低空飛行で真言の方向に向かってくる。

「くそっ!」

 真言は横に避けた。

「何だよ‼ おい‼」

 真言が大声で叫んで逃げ隠れると、巨大な鳥が戻って来て真言を襲ってきた鳥を食べた。

「ふう……」

 少ししてから歩くと海辺に出て来た。

「昔はもっと綺麗な海だったと聞いているが……」

 海辺を歩いているが海は紫色で泳いでいる魚はモンスターだけだ。

 カツオなど食べられる魚は一匹も泳いでいない。

 確かに地平線は見えるが高知県の美しい海の面影はない。

「ん?」

 海を見ると、何やら飛び跳ねて向かっている生き物がいる。

「あん?」

 巨大な魚が宙に浮かび目の前に来た。口を開け、牙を見せて真言を見つめている。

「……走るか」

 真言は走り逃げ出した。魚は空を泳ぎながら、真言を噛みつこうとするが、間一髪で逃げ出した。

「…………はあ」

 魚から逃げ出した真言の目の前には数人の男がいる。

 四国には、お接待と言うお遍路さんに対して食事などを提供することがあり、お接待することで功徳を積むのだが、香川県や愛媛県ならともかく人間のいない高知県ではある存在の可能性を疑わなくてはいけないのだ。

 真言が近づき顔を見ると全員、顔の色が黒く明らかにおかしい。

 当然、真言はある存在に気付いている。

(俺はお接待される立場なのに、俺がお接待するのか…………グールを)

「逃げろっ‼」

 真言はものすごい速さで逃げるが、気付いたグールの集団も速く追いかけている。

「だー! 高知は相変わらずだな‼」

 叫んで逃げてもグールの集団は追いかけて来る。

「速いな! おい!」

 グールは真言に向かって走って来る。

 それから何とか振り切ると、

「はあ……はあ……」

 逃げた先には木が数本あった。

 疲れた真言は木の下で座り休憩した。

「…………ふう」

 真言はペットボトルの水を飲み、今までのことを考えた。

「水も大切に飲まないとな」

 近くに川が流れているが、それも紫色で飲めるような色ではない。

「水や食糧は自前で用意するか、札所に着かないと手に入らないからな」

 真言は一瞬、探すことが嫌になった。

 そもそも、真言がお遍路さんをしているのは、祖父である水城白業(みずきびゃくごう)を探すためである。

 公認先達(こうにんせんだつ)をしている祖父は一年前、お遍路の最中で行方不明になり、現在も見つかっていないので、孫である真言が探しているのだ。

 ちなみに、この四国で先達になるには、最低限、四回以上の結願(四国八十八か所を回り終えた事)と住職の推薦や霊場会の承認と武芸などの実力がなければなれないのだが、真言の祖父はその中の最高位である特任大先達をしている。

 それゆえ四国には、お遍路さんを狙う強盗などは存在しないのだ。

「……じーちゃん。どこだ」

 真言は祖父に関しては、いい思い出は無い。だが、骨になったのなら一応、祖父の骨を拾ってこないといけないので、お遍路さんになれば、運が悪ければ無事、祖父が見つかるかもしれないので、お遍路さんとして行動しているのだ。

「……ん?」

 さっきまで何の変哲もない数本の木には目と口が出来、根が抜けて怪物めいた姿になっている。

 真言は無表情で立ち上がり、

「……休憩は終わりだ」

 また真言は速く逃げ出した。すると木も追いかけて来た。

「高知には、まともな生物はいないのか⁉」

 幸いは木は遅く早く逃げることに成功した。

「はー……」

 そして何もないボロボロの道路だけの所になると、

「……高知で平和な場所は無いな」

 真言は歩き出し先に進んだ。次の札所に行くためだ。

 だが、その道のりはまだ長い。

 モンスターがいない道を歩きながら、ふと祖父のことを考えた。

「じーちゃん。早く見つかってくれよ……骨でいいからさ……いや、骨の方がいい」

 少し道を外れ、祖父らしき骨はないかと探していると、骨を見つけた。

「骨だ。……だが、これは人の骨じゃないな。だが、供養するか」

 真言は供養すると、少しため息をついて、また骨を探すと、

「あれ⁉」

 女性が目の前を走っている。女性は真言に見向きもせずに過ぎ去っていった。

「ありゃ」

 音がするので見ると、目の前にはライオン、ヤギ、ヘビの頭を持つモンスター、キマイラが走って来た。

「キ、キマイラぁ⁉」

 真言が叫んだため、キマイラは真言に火を噴いたが、

「うおっ⁉」

 真言は逃げたため無傷で終わった。

「やべっ!」

 真言はその辺に隠れてやり過ごした。

 キマイラは単身、火を噴くだけ噴き、女性の方向に行った。

「……去ったか」

 真言は一安心したが……。

「…………」

 自分は無事だが、女性がどうなるのか不安になった。

(放っておく訳にはいかないよな……)

「…………」

 その女性の顔を思い出した。

(……それに一瞬、顔を見たが、あの女性は美人だったな)

「くくく……」

 真言は笑うと、満面の笑みで、

「助けに行くか‼」

 真言は走ってキマイラの方向に向かった。

「見つけた!」

 真言が思ったより早くキマイラは見つかった。

 そのキマイラが三つの頭を駆使して女性を探している。

「……」

 茂みに女性は震えて隠れている。それを見つけた真言は、

(やっぱり美人じゃないか!)

「…………!」

 キマイラは女性を見つけ襲い掛かった。

「……‼」

「おらあ!」

 真言はキマイラを蹴り飛ばした。そのことで女性は助かった。

「これは、お大師様も許して下さるでしょう」

「……」

 起き上がったキマイラは怒りだし、真言に向かってきた。

 真言は両手に隠していた銃を二丁取り出すと、

「右手には氷」

 右手に氷が纏わりついた。

「左手にも氷」

 左手にも氷が纏わりついた。

 真言は銃を構えて、

「氷刃!」

 両手の銃を撃ち、弾丸が出て命中したキマイラの中から氷の刃が出て、キマイラの全身は凍り付いた。

「……はあ」

 真言は二丁の銃をしまい、女性の元に駆け寄った。

「あの……怪我は……?」

「……」

 真言が女性の顔を覗き込むと、

(おおっ‼ 美人どころか、かなりの美人!)

 真言が喜んでいると、女性は微笑み、

「…………」

「えっ?」

 女性は目を(つむ)って、唇を近づけた。

「…………」

「こ、これって……⁉」

 明らかに口づけをしてほしいと言う雰囲気だ。

「…………」

「だ、だが……」

 十善戒と言う戒律があるのだが、その中の一つに不邪淫と言う(よこしま)で淫らな関係とかを持たないようにと言われているのだが、お遍路さんにとっては守るべき大切なことなのだが、この真言と言う男はそれを守れないのだ。

「…………」

 女性は目を瞑っているままだ。

「してほしいのに、するなと言うのはおかしい‼」

 真言は女性を抱きしめ、目を瞑り、口づけしようとしたが、

「ん?」

 違和感があったので目を開けると、美しい女性の口はあり得ないほど大きく開いている。

「んなあ⁉」

 食われそうになった真言は女性から離れ逃げ出した。

「…………!」

 美しい女性は真言に食らいつこうとして追いかけている。

「って、あれグーラーだったのかよ!」

 真言は逃げているが、グーラーも追いかけている。

 これが高知県の日常だ。

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