徳島でみんな生きている9
徳島県、セルはモンスターを倒した。
「たおしたぞ」
「じゃあ、夕飯にしようかね」
おババとゴブ平がやって来て、おババはモンスターを焼いたが、セルの表情は無表情だ。
「…………」
「どうしたの?」
「ゴブ平、さぬきってどんなところだ?」
「えっ⁉」
「さぬきはどんなものがあるんだ?」
「あ、ああ、教えるのはいいけど……急に何で?」
「それはな——」
「さあ、出来たよ!」
おババがモンスターの丸焼きを完成させたので、二人は夕食にした。
夕食後、ゴブ平はセルにさっきの話の続きをした。
「セル、どうしてサヌキの事を……?」
「それはな、しりたいのだ。ゴブ平にあうまえに、さぬきからきたしろいおとこがさぬきのはなしをしたのだ」
「サヌキから来た白い男?」
「ああ、あいつか」
セルとゴブ平の話に耳を傾けていたおババも話に混ざった。
「あいつ、人が見つけたモンスターを燃やしたのじゃ!」
「?」
ゴブ平が来る数日前、セルがモンスターと戦っていると、
「焦熱」
「⁉」
セルの目の前でモンスターは燃え尽きたので、見ると二丁拳銃を構えた白い服の男が立っている。
「はあ……」
白い男が去って行こうとするので、セルとおババが抱き着いて捕まえた。
「⁉」
「めし!」
「何てことをするのじゃ‼」
「な、何ですか⁉」
おババとセルが捕まえていると、白い男の目が見えた。
「おババー、くろいぞ」
「ああ、悪魔の子だよ。それよりも——」
「めしかえせ!」
「さもないと、お前を——」
おババが口を開けて睨んでいると、白い男は、
「食事なら、あげます!」
白い男は袋から缶詰やパックを取り出すと、セルは缶詰を手に取り噛んだ。
「おババ、かたいぞ」
「セル、これはそうやって食べるんじゃないよ。これは、こうやって……」
おババは缶切りを取り出し、缶詰を開けると、中にはたくあんが入っていたので、セルは一つ食べた。
「これはくいものだな。うまいぞ」
セルがたくあんを二つ三つと食べながら、白い男を見ている。
「? どうしました?」
「……おまえ、なんでしろいふくきているんだ?」
「これは、白衣と言う着物で、私は四国八十八か所を回っているのです」
「四国八十八か所、聞いた事はあるねぇ。だが、それは危険じゃないのかい?」
「危険ですが、私には、しなくてはいけない理由があるのです」
「なんだ?」
白い男はため息をついて、
「一年前に行方が分からなくなった祖父を探しているのです」
「そふ?」
「おじいさんの事だよ」
「そいつは、たいせつなやつか?」
「……実は、人に頼まれて探しているのです」
「なるほど、人に頼まれてか」
「はい。いない方が平和なのですが、探さないと殺されるのです」
「まほうがつかえるのに?」
「魔法が使える程度で倒せるのなら、倒していますよ」
「そうかー。つよいのか」
「私より強い者は沢山いますよ。事実、あなたは私を捕まえたでしょう」
「それもそうだ」
白い男が呆れていると、おババは白い男に対して、
「お前、気になっていたのじゃが、出身は徳島か?」
「よく言われますが、出身は香川県ですよ」
「ほう」
おババは驚いていると、セルは不思議に思い、
「なんできくんだ? おババ」
「セルがメローのハーフであるように、この徳島は人間とモンスターの間に生まれた子供が多いから、こいつも徳島かと思ったんじゃが、この男は香川県なんだね。何で香川で?」
「二十一年前、まだモンスター対策が出来ていない時に、香川県にある祖父の家に住んでいた私の母の部屋に悪魔が侵入して、無理矢理、妊娠させられ出産したのが、私です」
「……」
「おババー、むりや——」
「しっ」
おババがセルの口を押えると、白い男は話を続けた。
「その悪魔は祖父が殺害したのですが、母は私を産んだ直後に死亡してしまったのです」
「…………」
「その後、私は祖父によって育てられたのですが、今でこそ、珍しくないのですが、当時はそういった知識は無く、近所の住民や子供たちには、いじめを受けたのです」
「……そうか」
「そこで祖父は、孫である私に武芸を徹底的に教え、厳しく育てられたのです」
淡々と話しているが、白い男の手は震えている。
「ですが、私は辛くありませんでした。私には、支えてくれる友がいたからです」
「ともだちかー」
「はい。それによって、今まで生きていけたのです。それに、今でも支えてくれますし」
「いいことだ。ところで、そふみつけたら、どうするきだ」
「見つけたら、一回、連れて帰ろうと思います。生存している事を証明しておかないと」
「さぬきに、つれてかえるのか?」
「本人を見せないと信じませんから……」
白い男はまたしても、ため息をついた。
「げんきないぞ、やる」
セルは余っていたたくあんを一個渡した。
「……ありがとうございます」
「ところで、さぬきってどんなところだ?」
「香川県ですか、見事な庭園や、美味しいうどんやお菓子や果物がありますよ」
「おいしいもの⁉ たくさん⁉」
セルはキラキラした目で、白い男に抱き着いた。
「ええ、徳島よりも建物があり、たくさん店があります」
「みせがたくさん⁉」
「自然も美しく、人とモンスターが仲良く遊んでいますよ」
「ここみたいだな!」
「遊びも様々な遊びがあります」
「あそびとは⁉」
「遊びは——」
セルはひたすら白い男に香川県について聞いた。そして朝、
「それでは、私はここで——」
「おう、またあおう」
「よければ、これをお受け取り下さい」
白い男は緑色の納札を渡した。
「かみ?」
「これは、納札と言い、納札箱に納める物ですが、お接待を受けた時にもお礼に渡す物です」
「ふーん」
「どうせ紙なら、現金——」
「うれしいぞ! おれいか‼」
セルは満面の笑みで納札を持った。
「——セルが喜んでいるから、いいか」
「では……」
白い男は歩き出した。そして、セルは見えなくなるまで、手を振った。
「こんなことがあったのだ」
セルの話にゴブ平は耳を傾けていたが、
「そっか……そんな事が……」
ゴブ平が落ち込んでいると、セルは納札を見せた。
「これが、そのふだだ」
「これが……」
納札をよく見ると、住所と名前が書いている。
「住所は香川県善通寺市——」
「さぬきか」
「名前は——」
「なまえはなんだ⁉ おババはおしえてくれないのだ」
(水城真言か)
「ゴブ平ー‼ なまえはー⁉」
セルはワクワクしているが、ゴブ平は首を横に振り、
「セル、ごめん。読めない」
「ゴブ平でも、よめないのか⁉」
セルは目を見開いて驚いているが、ゴブ平は冷静に、
「うん」
「……そうか。よめないのか。では——」
セルは納札をしまって、どこかに走り出した。
「セル、どこに行くんじゃ⁉」
「ちゃんりなに、きいてくるー‼」
「ええっ⁉ ちょ——」
バー・ルージュに着いたセルは、
「ちゃんりなー! これ、なんてよむ?」
「これ……水城真言よ」
「みずきまことって、いうのか! あいつ‼」
「……セル。真言と知り合い?」
ちゃんりなは怪訝そうな目で見つめている。
「まえ、たべものをもらっただけだ」
「そう……そのぐらいなら、いいわ」
「? ちゃんりなも、しりあいか?」
ちゃんりなは髪をかき上げながら、
「……あいつ、徳島に来て遊んでいたし、ここらで真言の顔と名前知らない人はいないわ」
「ほう」
「私の事もナンパしてきたけど、仕事は完璧で、冒険者としては優秀な男よ」
「そうなのか」
「まあ、確かにいい性格しているけど、悪い奴じゃないわ」
「やはり、いいやつか。ちゃんりな!」
「な——」「「セル!」」
セルを追いかけて来たゴブ平とおババが来た。
「で、セル。なぁに?」
「かがわには、どうやっていくんだ?」
「「はあっ⁉」」「香川に? それなら——」
ちゃんりなはセルに耳打ちして教えている。
「よし、じゃあ。おババ、ゴブ平! いくぞ‼」
セルが外に出ようとすると、おババとゴブ平はセルの腕を掴んだ。
「セル! ワシらはダメじゃ!」
「そうだよ。ダメなんだって!」
「? なんで?」
セルが不思議そうに見ていると、おババとゴブ平は焦っていた。
「ワシらは罪人じゃ‼ 徳島から出られん‼」
「そうだよ。セルも行けないんだ!」
「? セルも?」
「そうじゃ、徳島で生まれた者は徳島から出られん! 出るのは脱走と同じ扱いじゃ!」
「だっそう?」
「徳島から出てはいけないって、事だよ」
「……でも、さぬきにいきたい」
「セル、気持ちはわかるのじゃ。徳島で生まれ育った者は皆、サヌキに憧れる。でも、出たら犯罪者とみなされ殺されるから、憧れのままじゃ」
「……ちゃんりな、そうなのか」
「そうよ。香川に行く方法はそれだけど、無事、香川に着いたって人、聞いた事ないもの」
「…………」
「セル、行っちゃダメだよ」
「セル……」
おババとゴブ平は泣きそうな目で見ている。セルは椅子に座って、
「…………わかった」
「セル。もし、真言が来たら私から言うわ。セルが会いたいって、危険を冒してまで会うような男じゃないわよ」
ちゃんりなはセルの頭を撫でながら、優しく言った。
「じゃあ、きたらいってくれ…………またな」
セルたちはバー・ルージュを出た。
これが徳島県の日常だ。




