香川でみんな生きている9
高松市、黄色いうさぎにて、
「さて、今日は、ラブ様もいないし、おばあ様と梢お姉様が愛媛県に出かけているから、僕が切り盛りしないと、頑張ろうね。シャンティ、ヴィータ!」
「はいだべ!」「はい」
「じゃあ、個室の掃除と下ごしらえ、よろしくね。僕は外の掃除をしているから」
「任せるだべ」「はい」
シャンティとヴィータが掃除と下ごしらえをしている間に、憐は外に出て、掃除をしている。
「ふんふん~」
憐が上機嫌に掃除をしていると、
『モンスターです。モンスターです』
「モンスター緊急速報メール⁉ 場所はさぬき市だ!」
「カレン!」
シャンティが大慌てで出て来た。
「わかってる」
憐は男の娘魔法使いカレンに変身して、箒に乗ってさぬき市に向かった。
「モンスターはワイバーンだって……久しぶりだね」
さぬき市に着いたカレンが見たのは、空中で暴れているワイバーンの姿だ。
「ワイバーンか——えいっ!」
カレンが魔法を唱えて攻撃すると、ワイバーンは一撃で倒れた。
「ふう。終わった」
「すごいべ、カレン!」
「帰ろう」
「カレン疲れてないだべか?」
「疲れていないよ。どうしたの?」
「成長したなぁ、って思っただけだべ」
「そう?」
カレンが黄色いうさぎに帰ると、人間の姿のジョンとエディの二人がいた。
「どうしたの? 二人とも」
「買い物の帰りに遊びに来たんだけど、今日はカレンちゃんとヴィータちゃんだけ?」
「シャンティも入れろだべ!」
シャンティは文句を言っているが、ジョンとエディは気にせず、黄色いうさぎの中に入った。
ジョンとエディが席に着くと、憐がコーヒーを持ってきた。
「悪いな、そういえば……」
ジョンがスマホを取り出すと、そこに映っていたの男の娘魔法使いカレンがモンスターと戦っているアニメだ。
「カレンちゃんが大活躍するアニメの新作が出来たんだけど、カレンちゃんは見た?」
「見てないよ。何で、僕が活躍するアニメを僕が見なきゃいけないの?」
「いいじゃん! 面白いんだし、サヌキどころか全国で話題のアニメだよ!」
ネットの世界では、カレンのアニメやマンガや小説などが発表されており、その人気は全国区レベルになっているが、四国以外の人間はカレンが実在する事を知っている者は少ない。
「本当なら、それ恥ずかしいんだよ‼」
「えー、でもなぁ」
「と・に・か・く、恥ずかしいの‼」
カレンは顔を赤らめて厨房に隠れた。
「ああ!」
「とおっ!」
「いで!」「ぎゃっ!」
シャンティがジョンとエディに体当たりして攻撃した。
「何すんだよ! シャンティ‼」
「何で、俺まで……」
「カレンは気にしているんだべ! アイドル扱いはやめてほしいって、言ってるだべ!」
それを聞いたジョンは反省して、
「そっか……気にしているんだな」
「でも、このシャンティもカレンになってSNSとか、しているだべ!」
「説得力ないぞ! エロウサギ‼」
「いいじゃないかだべ!」
ジョンとシャンティは追いかけっこをする事になった。
「はあ……」
それを見たエディが厨房に近づくと、憐に呼びかけた。
「まあ、カレンちゃん。アイドル扱いもされているけど、それより、サヌキの人間は皆、カレンちゃんの事、大好きなんだぜ」
「…………」
憐は申し訳なさそうに厨房から出て来た。
「…………ごめん。さっきは怒って」
「いや、気にしていないよ」
「じゃあ、何か作るよ」
「ラブちゃんに、マカロン作って!」
どこからか、ラブが現れた。
「ラブ様! 戻って来たのですか⁉」
喧嘩していたジョンとシャンティはやめて、ラブを見た。
「ラブ様、マカロンを作るのは構わないのですが…………何ですか? それ、綺麗ですね」
ラブは、美しい花を持っていたが、その花を見たエディは青ざめて、
「あ、あの、失礼ですが、ラブ様……その花は——」
「これ? いいでしょ! イヨちゃんがくれたの」
ラブが花を見せると、花は口を開き、鋭い牙を見せ、憐を噛みつこうとした。
「きゃっ!」
「カレンちゃん!」
ジョンが憐の前に出て、花を引きちぎって踏みつけた。
「あらー? ひどーい! 綺麗な花なのにー!」
「ラブ様、この花はサヌキに持ち出し禁止の人喰い花ですよ‼」
イヨの国の花屋には、珍しい花が売られているが、その中に人喰い花も売られており、見た目は美しい花なので人気はあり、購入者も多いのだが、人喰い花はモンスターや精霊などは襲わないが、人間は襲うので、サヌキへの持ち出しは禁止しているのだ。
「ちょっと、そこのワーウルフ、イヨちゃんのプレゼントよ」
「う……イヨ様の…………だけど……」
ジョンの目は泳いでいるが、憐がジョンの前に出た。
「ラブ様、贈り物でも香川県で違法の人喰い花を持って帰らないでください!」
「いいじゃない! 人喰い花ぐらい、持って帰っても!」
「ぐらいって、ダメです!」
憐が怒ると、ラブは不機嫌そうに、
「もう、ちょっとした事ぐらい! マカロンはいいわ! 出かけて来る!」
ラブは、どこかに消えてしまった。
「……ラブ様」
憐が落ち込むと、シャンティが肩を叩き、
「気にしなくてもいいべ、カレン」
「シャンティ……」
「カレンちゃん。今日は帰るよ」
「また、落ち着いたらくるよ」
ジョンとエディは、コーヒーの代金を置いて出て行った。
そして、夜。
「ただいまー」
派手なワンピースを着た純ママが帰って来た。
「お帰りなさい。純ママ」
「憐、ごめんねー。一人にさせて」
「構いませんよ。純ママ」
「ただいま!」
シンプルなブラウスとロングスカートを着た緑色の髪の三十歳ぐらいの女性が入って来た。
「レイアお母様! お帰りなさい!」
「憐、お買い物してきたわ」
レイアは大量の食品を持って来た。
「わあ、こんなに……」
「憐、こっちも服買ってきたわ!」
純ママはスカートやワンピースを買ってきている。
「純ママ! こんなに、女物の服を買わないでくださいよ」
「いいじゃない。憐のお洋服よ」
「純ママ。僕、男の子ですよ。何で女の子の格好をしないといけないのですか?」
「それは、憐が可愛いからよ。私と違って、憐は可愛いから女の子に育てたいのよ」
「純ママ! 迷惑ですよ! 本当はお父様なのに‼」
「お父様って、それはタブーよ。憐」
「そうよ。タブーよ」
「「ラブ様‼」」
いつの間にか、ラブが帰っていた。
「純ちゃんは、このラブちゃんが女の子に変えてあげたのよ。カレンちゃんも女の子に変える事も可能なのよ」
「そうよ。憐も女の子に——」
純ママが憐に近づくと、憐は逃げ出した。
「嫌ですよ‼ ラブ様‼ 純ママ‼」
憐はまたしても、隠れようとすると、純ママに捕まり、
「憐も女の子に——」
「やめんか‼」
何者かが、純ママとラブに鉄拳制裁をした。
「お、おばあ様!」
憐の祖母が二人に対して激怒している。
「憐‼ 男だろう! お前が女々しいから、女扱いされるのじゃ‼ なら、女になってしまえ!」
「お、おばあ様……」
「お母さん……」
「キコちゃん。そんなに怒らなくても、いいじゃない」
「怒るわ! しまいにゃ、殺すぞ!」
憐の祖母の目は怒りに燃えている。
「そんなー、怒らないでよ。キコちゃん」
「怒るわ‼」
憐の祖母は部屋に戻った。
「でも、カレンちゃんを女の子にしていいのよね!」
「そうよ! お母さんのお墨付きをもらったんだし!」
「二人とも!」
憐も逃げるように、自分の部屋に隠れた。
「もう~。二人とも、何で僕を女の子にするの~?」
憐がベッドで横になっていると、スマホから音が鳴った。
「あれ? 何かな?」
スマホを見ると、
『じーちゃん、見つかった。香川に帰る』
「……!」
憐の表情が明るくなり、全員の所に来た。
「おばあ様、梓お姉様、梢お姉様も!」
憐の祖母だけでなく、梓や梢も手伝っていた。
「どうしたの?」
「嬉しそうね」
「何じゃ?」
憐はスマホを見せて、
「見て下さい! まこっさん! 帰って来るんですって!」
梓と梢は驚くが、憐の祖母は冷静な目で見ている。
「えー! そうなの⁉」
「帰って来るの⁉」
「ふん、あのクソガキ帰って来るのか」
「帰って来るんですよ! まこっさん!」
梓と梢は嬉しそうに憐を見つめている。
「真言、帰って来るのね」
「帰ってきたら、何しようかしら……」
憐の祖母は日本刀を持って、
「修行じゃ! 修行‼」
「おばあ様……」
その夜、レイアはラブと二人にお茶を飲んでいた。
「レイアちゃん。この世界に慣れた?」
「もう二十一年も、この世界で暮らしていますからねぇ……」
「初めはテレビで驚いていたもんね!」
レイアは顔を赤らめてラブを叩いた。
「それはラブ様もでしょう!」
「あらー? そうだっけ?」
「もう! とぼけないでください!」
「まさか、純ちゃんと結婚するなんてね。バツイチの子持ちなのに」
「でも、好きになっちゃったもの」
「そう、ならいいわ」
さっきまで笑顔だったレイアは深刻な表情になり、ラブの手を握った。
「……どうしたの? レイアちゃん」
「ラブ様……憐の魔力を無くせないでしょうか?」
「?」
「魔法が使えなければ、あんな危険な目に遭わなくて済むと思って……」
「カレンちゃんが魔法を使えるのは、レイアちゃんが異世界の人間だからよ。あの世界はみんな使えるもの、それにカレンちゃんは魔法で人助け出来るから、魔法を使える方がいいの」
「でも…………わかったわ。憐の気持ちを尊重するわ。ただ、ラブ様‼ 約束して、憐を傷つけないって‼」
「本当に危なくなったら、助けるわ。そうしないとカレンちゃんの為にならないもの」
「ラブ様……」
レイアは泣き出した。
これが香川県の日常だ。




