高知でみんな生きている6
高知県、神峯寺にて、
「では、真言さん。食糧とか、必要な物はありますか?」
「そうですね。思ったより、早く着いたから、食糧は一日分でいいのですが、ユキの分に肉を三日分、用意してください」
「わかりました」
幽霊の女の子は食糧を用意してきた。
「真言さん。どうぞ」
「ありがとうございます」
食糧を受け取った真言はユキを抱いたまま、次の札所に向かった。
「次は大日寺だ」
真言はユキと共に、海辺を歩いた。
「ユキ、昔は綺麗な海だったみたいだな」
現在の高知県の海は紫色だ。
「⁉」
ユキは威嚇をしている。
「近くにモンスターがいるようだな」
真言が逃げる準備をすると、出て来たのは剣を持ったスケルトンだ。
「ユキ! 落ち着け! まず、意思疎通できるか、どうかだ。——こんにちは!」
真言が挨拶すると、スケルトンは真言を斬りつけてきたが、真言は素早く避けた。
「やべぇ! こいつ敵だ! 逃げるぞ‼ ユキ‼」
真言は攻撃しようとするユキを抱えて逃げ出した。
「敵なのかよぉ‼」
スケルトンから真言は逃げているが、その数は十体二十体と増えていった。
「多いぞ‼ おい‼」
何とか逃げ切った真言は、ペットボトルの水を飲んで休憩している。
「ふう……スケルトンか……」
真言は何かを考えている表情だ。
「スケルトン……あれ、じーちゃんの骨って言ったら、ばーさんに…………殺されるな、俺」
「?」
ユキは不思議そうに真言を見つめている。
「不思議か? 俺もお遍路より冒険者として過ごしたいんだ。冒険者なら金貰って遊び放題だし、だけど、じーちゃんは、俺を煩悩の塊だと言って、じーちゃんに連れて行かれ、気が付けば、お遍路さんをしていたって、訳だ」
「……」
「俺の事を考えれば、煩悩の塊だと言われてもしょうがないけどな」
「?」
「一年前に行方不明になり、うっとおしいじーちゃんもいない平和な生活になるはず、なのになぁ……ばーさんが探せって言って、俺は単身、四国を回る羽目になったのさ」
「……」
「さあ、ユキ行く——」
真言のスマホから音が鳴った。スマホを見ると返事があった。
「おっ! ユキの写真送ったら、ユキを抱きたいってさ」
「!」
「これから、じーちゃん無視して、二人で香川に帰らないか? 抱っこさせようと思う」
真言の発言にユキは首を横に振った。
「……じーちゃん無視するな、かよ。……わかったよ。ユキ」
「!!!!!」
ユキが喜ぶと真言はユキを抱えて、森の中を歩いて行った。
「わかったわかった。じゃあ、行くぞ」
真言が歩いていると、石に当たった。
「……石か」
真言は石に当たると、ユキはまたしても不思議そうに見た。
「じーちゃんはな好き嫌いするなと言った」
幼少期、真言はどうしても食べられない物があった。
「じーちゃん、無理だよ」
「真言、食え‼」
「それは無理だよ!」
「無理ではない! 食える!」
「無理だって、石なんて‼」
幼い真言の前には、石が山積みになっている。
「石程度食える!」
「食えないよ‼」
真言は泣きわめくが、白業は無視して石を食べた。
「食える! 人間、食う気になれば食える!」
「無理だよ‼」
それが真言の幼少期だ。
「じーちゃん……。死んでればいいのに……」
「……」
ユキは呆れているが、真言は立ち上がった。
「さあ、ユキ、行くぞ」
「!」
真言とユキは歩きだしたが、周りの木がモンスターになった。
「モンスター⁉ 逃げるぞ! ユキ‼」
木のモンスターが追いかけてきたが、真言はユキを抱えて逃げた。
「だー! 久しぶりだな! おい‼」
「……」
真言が逃げ切ると、大日寺の近くに来た。
「あっ、大日寺だ」
ユキも一緒に大日寺に歩いて行くと、山門の前で真言と一礼した。
「ふふっ」
真言が巡拝を終えると、奥の院に行き、ユキに大師の御加持水を飲ませた。
「さあ、行くぞ」
真言とユキは国分寺に向かった。
「ユキ、疲れたらいつでも言えよ」
「!」
ユキは嬉しそうに走ると、真言は追いかけた。
「待てよ! ユキ」
ユキが走って行くと、またしても、スケルトンが現れ、真言を斬りつけようとした。
「……これ、じーちゃんの骨——」
ユキは首を横に振った。
「逃げるぞ! ユキ‼」
真言はユキを抱えて逃げた。そして、逃げ切ると、
「……逃げ切ったぞ。……ユキ」
「……」
「だが、ユキ行くぞ。国分寺に」
真言は再び歩き始めた。
「ここら辺は少し町みたいだな」
真言が歩いている町は、かつて南国市と呼ばれた場所だ。だが、その町は完全に廃墟となっており、人が住んでいた形跡がかろうじてあるぐらいだ。
「……だが、先へ行くぞ」
ユキは真言の後ろに歩いて行った。
それから、何とか国分寺に着いた。
「着いたな。ユキ」
「!」
真言とユキは仁王門で一礼をした。
「?」
境内を歩いていると、一人の少年が掃除をしていた。
「あなた……見慣れない顔ですね」
「あっ……」
少年は逃げ出した。
「逃げたのか……」
真言は納経所で御朱印を頂くと、ヴァンパイアにさっきの少年について聞いた。
「あの少年は何者ですか?」
「あの子は零と言い、この寺で育てている子です」
「零……」
「真言さんは知っての通り、あの少年は高知県で捨てられていた所、私が拾って育てているのです」
「…………そうか。やはり、捨てられた子か」
真言は歩いて零と言う少年に向かうと、零は震えている。
「零、と言いましたね。震える事はありません。私はあなたの味方です」
「……?」
零が真言を見つめると、国分寺は揺れた。
「何だ⁉」
「もしかして、モンスター⁉」
零が震えると真言は抱きしめた。
「恐れてはいけません。あなたの力は強いのです。心が強くなれば、あなたが恐れるような物ではありません」
「…………?」
涙目で零は見つめているが、真言は笑い、
「零、行きましょう」
真言が零と一緒に向かうと、結界に阻まれているが、仁王門の近くに巨大なカバに似たモンスターがいた。
「ベヒーモスが現れたのか」
「こ、怖いよ!」
零が真言にくっつくと、真言は優しく背中をさすって、
「零、怖いのですか?」
「怖いよ! 危険だよ‼」
「結界があるから、放っておけば、何とかなるのですが……」
「怖いよ……」
「零、ここで待っていなさい」
真言は結界を抜け、ベヒーモスの前に出た。
「これは、お大師様も許してくださるでしょう」
真言は両手に銃を構えた。
「右手には炎」
真言の右手に炎に包まれた。
「左手にも炎」
真言の左手にも炎が包まれた。
「焦熱」
真言が銃を撃つとベヒーモスに命中して、燃え尽きて塵になった。
「……すごい」
「これで、憂いは払えたでしょうか」
「…………」
零は真言を見つめている。
「……あの」
「どうしました?」
「僕も魔法は使えますか?」
零は真言を真剣な目で見つめている。その目は赤い瞳と黒い白目だ。
「使えますよ」
真言は前髪を払い、目つきの悪い両目を見せた。
「あなたも私と同じ目ですから」
その目は赤い瞳と黒い白目だ。
「……!」
「私とあなたは悪魔の血を引く子、悪魔の血を引く子なら、魔法は使う事が出来ます」
「……僕も、強く」
「強くなれます」
「……!」
零の目は危険な輝きが見えたが、真言は冷静に、
「ただし、その力に溺れてはいけません。溺れてしまえば、単なる悪魔と変わりません」
「……!」
零の目に危険な輝きは無くなり、優しい輝きになった。
「今回は、早めですが、ここに泊まります。よろしいですか?」
ヴァンパイアは真言の横に現れ、
「いいですよ。お泊り下さい」
こうして、真言とユキは宿坊に泊まった。
「ユキ、座布団を用意した。ここで休んでいいぞ」
「!!!!!」
ユキが座布団で休んでいる間、真言は零の元に向かった。
「では、教えますよ」
「はい!」
真言は零に魔法を教えていると、夜になり、ヴァンパイアが現れた。
「夕食出来ましたよ。零、食べましょう。後、真言さんもウサギさん、待っていますよ」
「あっ、はい」
「ユキを待たせてしまったか」
食堂に行くと、焼肉定食が出来ており、その近くでユキが焼き肉を食べるのを待っている。
「悪い! 待たせてしまった。ユキ‼」
真言が食べだすと、ユキも食べ始めた。
「真言さんと仲いいですね。その……ユキって言う、ウサギさんとはいつからの付き合いですか?」
「つい最近です」
「最近⁉」
「魔術の心得があるのなら、手なずける事が出来ます」
「そ、そうなんですか……」
「寝る前に教えましょう」
「えっ、本当ですか⁉ 何だか、悪いです……」
「構いませんよ、同じ目ですから」
こうして夜遅くまで、真言は零に魔法を教えた。
夜中、零はウトウトと眠っていると、
「………………はっ、すみません! 眠ってしまいました」
「いえ、構いませんよ。もう、ここまでにしましょう。もう、眠りなさい」
「はっ、はい! すみません!」
零は恥ずかしそうに部屋に戻った。
「さて、俺も」
真言も部屋に戻ってみると、布団の上でユキは待っていた。
「待っていたのか。悪いな」
真言が布団に入ると、ユキも布団に入った。
「また明日な。ユキ」
「!」
真言とユキは、あっという間に眠った。
これが高知県の日常だ。




