徳島でみんな生きている6
徳島県。セルは海で魚を探している間、ゴブ平とおババは二人でいた。
「おババ」
「何じゃ? ゴブ平」
「セルの親って、どんな人でしょうか? 片一方はメローですよね?」
「…………さあな」
おババは、しばらく無言になった。
「…………」
ゴブ平も無言で返した。
「ゴブ平ー‼ おババー‼」
セルが魚を取ってくると、おババがセルの体にタオルをかけてやった。
「セル。乾かさないと風邪ひくからねぇ。さあ、拭くんじゃ」
「わかった」
おババがセルの体を拭いていると、ゴブ平が口を開いた。
「セル。セルの両親って……」
「りょうしんってなんだー?」
「こりゃ!」
「いて!」
ゴブ平はおババに叩かれた。
「まったく! 今日は刺身とあら汁じゃが、ゴブ平は無しじゃ」
「そんなー!」
ゴブ平が落ち込んでいると、おババは魚をさばき始めた。魚をさばいていると、セルは無邪気におババの側に来た。
「おババー‼ りょうしんってなんだー?」
「……セルの親じゃ」
「おや?」
「……家族の事じゃ」
「かぞくかー! かぞくなら、おババとゴブ平がいるぞー!」
おババは包丁を落とし、ゴブ平は涙目になり、二人はセルに抱き着いた。
「セ……セル……」
「セル~~~」
「どうした? ふたりとも、なにかいったのか?」
「セル。今から、ご馳走を作るからね。セル、待っているんじゃ」
「わかった!」
「セル……」
ゴブ平が泣いていると、セルが頭を撫でて、
「ゴブ平、なくな。ごぶりんだろ」
「うん……」
二人は、泣きながら刺身とあら汁を作っている。
そして、豪華な刺身とあら汁が完成すると、
「セル。さあ、全部食べるのじゃ」
「全部食べていいよ」
刺身とあら汁を見たセルは笑って、
「ゴブ平もおババもいっしょにたべるのだー」
「セル……」
「良い子だ……」
二人は涙を流しながら、刺身とあら汁を食べた。
夜になると、
「おババー。ねるぞ」
「おやすみ。セル」
セルは眠ってしまい、起きているのは、おババとゴブ平だ。
「おババ」
「何じゃ?」
「おババは、なぜ徳島に来たのですか?」
「…………」
「以前、事故起こして、徳島に来たって言いましたけど、おババはなぜ、徳島に来たのですか?」
「…………徳島に来た理由か」
「あっ! 言えないのなら、言えないのでいいんですよ。もう聞きませんから」
おババは、しばらく空を見つめていると、
「…………昔、仲良くしていたニンフの娘がいたのじゃ」
「えっ⁉ おババ」
「じゃが、そ奴は殺された。ケンタウロスによってな」
「……」
「ワシは……その報復にケンタウロスを殺したのじゃ」
「…………」
「その結果、ワシは徳島に送られたのじゃ」
「…………おババ」
おババは体に毛布を掛けた。
「それだけじゃ」
「…………」
ゴブ平も毛布を掛けて眠った。
朝、ゴブ平は何かに殴られた。
「いで!」
「ゴブ平、朝じゃ‼ 起きろ‼」
おババの叫び声と頭の痛みで目の覚めたゴブ平は頭をさすりながら立ち上がった。
「おババ……。殴らないで起こす事出来ないのですか?」
「叩いた方が良く目が覚めていいじゃろう!」
ゴブ平がふと見ると、セルが遠くに行っていた。
「ゴブ平、いかないかー?」
「えっ⁉ セル、どこに?」
「るーじゅにだ」
「ああ、バー・ルージュ? セルが行くなら行こうか」
「じゃあ、いくぞー!」
セルたちは、バー・ルージュに向かった。
バー・ルージュの扉を開けると、ちゃんりながグラスを拭いていた。
「いらっしゃい。セル。お仕事あるけど」
「しごと? なんだー?」
ちゃんりなはリンゴジュースを出した。
「おおっ!」
セルは椅子に座ってリンゴジュースを飲んでいるのを見たちゃんりなは笑って、
「飲みながら聞いて、入って来たばかりの仕事でね。モンスター征伐の仕事なの」
「もんすたーか」
「ええ、これを見て」
セルたちの前に鋭い牙を持つ傷だらけのモンスターの写真が出された。
「ああ、これか」
「コロコッタですね」
「そう、厄介でしょ。それが藤井寺の近くで三匹、暴れているの」
「藤井寺……遠いのう。しかも、三匹か……」
「でも、困っているのよ」
写真を持ったセルは笑って、
「ちゃんりな、たおしてくるぞー」
「ふふっ、ありがと」
セルとゴブ平がバー・ルージュを出ると、おババはちゃんりなに尋ねた。
「お前、いくらもらっているのかのう?」
「さあ?」
ちゃんりなが笑うと、おババも出た。
三人はしばらく歩いていると、ゴブ平は座った。
「おババー。疲れましたよー」
「このくらいは歩けるじゃろう」
「車が無いと無理ですよー! 疲れましたー‼」
「疲れたとは、セルを見ろ! 元気に歩いているではないか!」
セルは二人に気付かずに、先に進んでいると、途中で戻って来た。
「おババー! ゴブ平ー! どうした?」
「何でもないよ。さあ、歩くのじゃ!」
おババが杵で殴る前にゴブ平は立ち上がった。
「わかりました! 行きます‼」
ゴブ平は走り出した。
それから、三人が歩いていくと藤井寺周辺に来た。
「ついたな」
「ここみたいだけど、コロコッタはどこにいるんだろう?」
「探すのじゃ」
三人でコロコッタを探していると、巨大な雄鶏の姿にドラゴンの翼に蛇の尾を持つモンスターが出て来た。
「モンスター⁉」
「じゃが、これじゃないぞ!」
「ええ、コカトリスです!」
「とりあえず、ぱーんち‼」
セルが殴ると、コカトリスは気絶した。
「倒したか……」
「危なかった……。セルが先手取ってないと、死んでいましたね」
「さがすぞー」
再び、三人はコロコッタを探し始めた。
「コロコッタはどこだ?」
「見つからないね」
「嘘じゃないはずだが……」
「そうだ。ちゃんりなは、うそはつかない」
それからも探したが、見つからないので、
「もーう! 見つからないじゃん!」
「あっ⁉」
頭にきたゴブ平が石を投げると草むらの何か当たった。
出て来たのは、傷だらけのコロコッタで、一匹出ると残りの二匹も出て来た。
「出たああああああ! これだあああああ‼」
ゴブ平が逃げようとすると、おババに捕まった。
「逃げるな! 食われろ! 自業自得じゃ‼」
「無茶言わないでください! 死にますよ!」
「お前に夢中になってる隙にセルが倒してくれる!」
「セルー! おババから助けてー!」
ゴブ平は叫んだが、セルは真剣な目で三匹のコロコッタを見ている。
「いくぞ」
セルが一匹を殴ると、もう一匹が噛みつこうとすると、セルが蹴った。
「こいつら、やるなー」
コロコッタ三匹をセル一人で相手にしており、苦戦している。
「セ、セル……」
「厄介じゃ」
「…………」
覚悟を決めた表情のゴブ平におババが気付くと、
「どうした?」
「セル! 離れて‼」
ゴブ平がおババを振り切ると、ゴブ平は傷だらけのコロコッタの口にしがみついた。
「ゴブ平⁉」
二匹のコロコッタがゴブ平に襲い掛かってきたが、噛みつかれる直前にゴブ平は飛び降りた。
「⁉」
ゴブ平がしがみついていた傷だらけのコロコッタは残りの二匹の頑丈な歯に噛みつかれ、血を噴きながら絶命した。
「はあ……やった……」
「ゴブ平! ぶじか⁉」
セルがゴブ平の元に駆け寄った。
「ああ……」
「ゴブ平、あとはセルにまかせろ」
セルは残りの二匹に向かった。
「セル! ワシも行くよ!」
おババもセルに加勢して、二対二の戦いになった。
「たあー!」
「それ」
セルは殴る蹴るで戦うが、おババは空を飛んだ。
「?」
コロコッタが空を見ていると、
「そら!」
おババは急降下で落ち、コロコッタはおババが乗っている臼に潰された。
「きーっく!」
セルに蹴り飛ばされたコロコッタは木にぶつかり気絶した。
「やっ、やった……」
「やったのじゃ!」
「やったぞー!」
セルは飛び上がって喜んだ。
「それにしても、おババもやりますね」
「ふん。このくらいは出来る!」
「おババとゴブ平がいたからかったのだ‼ ありがとー!」
セルは微笑んだら、二人は涙目になり、
「セ、セル……」
「そんなに、大した事はしていないのに……」
「じゃあ、かえるぞー」
「そうじゃな。帰ろう」
三人はコロコッタを運んで帰った。
少し歩いた所でゴブ平は疲れて倒れた。
「何じゃ、情けない。ゴブリンじゃろう」
「おババ……無理ですよ…………」
ゴブ平の後ろには、三匹のコロコッタがいる。
「コロコッタ……三匹運ぶの…………無理ですよ……」
「じゃあ、セルがはこぶぞ」
セルは片手でコロコッタ三匹を持った。
「……」
ゴブ平が呆然としていると、
「ゴブ平ー! いかないのかー?」
「あっ、行く行く!」
それから時間をかけて、バー・ルージュに向かった。
「ちゃんりなー! たおしたぞー!」
セルはちゃんりなの前にコロコッタ三匹を置いた。その内の一匹、傷だらけのコロコッタを見たちゃんりなは嬉しそうに、
「あら、これよ。ありがとう、セル」
「そうかー。やったー!」
「お礼にセル。チョコレートをあげるわ」
板チョコを貰ったセルは紙ごとチョコを食べた。
「あまいのとへんなものがあるな」
「セル! 紙は食べちゃダメ! ほら、紙は外して——」
ゴブ平は板チョコの紙を外してから、セルにあげると、嬉しそうに食べた。
「あまいなー」
「よかった……」
これが徳島県の日常だ。




