香川でみんな生きている6
高松市、黄色いうさぎ。
鼻歌を歌いながら、個室の机を拭いている憐とシャンティがいる。
「カレンちゃん。どうしたの? 上機嫌で」
「きゃっ! ラブ様! やめてください‼」
ラブは後ろから憐の胸を掴んだ。
「男の胸、触って嬉しいのですか⁉」
「嬉しいわよ。ラブちゃん、これで上機嫌! で、なんでカレンちゃん。嬉しそうなの?」
憐はスマホを取り出して、ラブに見せた。
「あら? アルミラージじゃないの」
スマホには、可愛いアルミラージが映っている。
「かわいいうさぎが高知県にいるんですって! 香川に来たら、抱っこさせてくれるって言っていました‼」
スマホを見たシャンティは激怒して、
「このシャンティの方が百万倍、かわいいだべ!」
「あら、そう。あんたやアルミラージよりカレンちゃんのバニーガールの方がかわいいわよ」
「……ラブ様」
憐が冷たい目で見ると、掃除道具を持った祖母が、個室に入って来た。
「ん? アルミラージか?」
「あっ! おばあ様! かわいいでしょう。黄色いうさぎですよ!」
「ウサギなぞ食い物じゃ! モンスターはまずいが」
「おばあ様……」
「キコちゃん。カレンちゃんのバニーガールの方がかわいいよね?」
祖母は、ラブをモップで殴った。
「アホか‼」
怒りながら祖母は個室を出た。
「ラブ様……怒られるような事、言わないでください」
「いいじゃないの~」
「…………はあ」
カレンがため息をついていると、花柄のワンピースを着たロングヘアの女性が個室に入って来た。
「ただいまー! 憐! 掃除終わったら、仕込み手伝ってくれる?」
「純ママ……。いいけど……」
「ありがとー! じゃ!」
純ママは個室を出て厨房に向かった。
「あーあ」
「純ちゃん、活き活きしているわねー」
「……もう」
憐は手早く掃除を終わらせ、厨房に向かう途中に、お酒を持ったヴィータに出会った。
「あっ、ヴィータ。少しいい?」
「……いいですよ」
憐はスマホを取り出し、アルミラージの写真を見せた。
「かわいいでしょ」
「……可愛いですね」
写真を見ると、無表情で厨房に向かった。
「ああ……」
「カレンちゃん。ヴィータは、感情とか作っていないからねぇ」
「ラブ様、作るって……」
憐が落ち込んでいると、
「あら、アルミラージ⁉ かわいいじゃない!」
「どこにいるの?」
ショートカットのスポーティーな美人とセミロングでブレザー姿の可愛い女の子が現れた。
「梓お姉様⁉ 梢お姉様⁉」
「そのアルミラージ、どこにいるの?」
ショートカットの美人である梓が、憐の頭を撫でながら聞いた。
「完全になついているわよね?」
セミロングの可愛い子である梢は、憐の頬を撫でている。
「お姉様たち! やめてください! 後、ラブ様も‼」
「あら?」
ラブはこっそり、憐のお尻を触っていた。
「アルミラージは、高知県にいるんです! 香川県に来たら抱っこが出来ます」
「高知県……あれか」
「あれの事ね」
二人の姉は、顔を見合わせてから笑った。
「じゃあ、出かけて来るわ」
梓は部屋に戻った。
「私も行って来る」
梢も遅れて部屋に戻った。
「では、いってらっしゃい」
憐は二人を見送ると、ある事を思い出した。
「いけない‼ 純ママのお手伝い、忘れていた!」
慌てて憐は厨房に向かった。
「憐。遅かったわね。これ煮込んでくれる?」
「はい! ごめんなさい! 純ママ‼」
憐はスープを煮込んだ。
「出来ました」
「ありがとうー! 憐! じゃあ買い物に行ってくれるー?」
「わかりました」
厨房での仕込みが終わると、次は買い物に出かけた。
「さて、と、買い物」
商店街の中にあるお洒落なスーパーで買い物を終えた憐が帰宅しようとすると、
「ねえ、君」
「はい?」
憐に話しかけてきたのは、ガラの悪そうな五人組だ。
「俺達と遊ぼうよ。いいだろ」
男の一人が憐の腕を掴んで車に連れ込もうとしている。
「やめてください!」
「いいじゃねえか。行こうよ」
憐が連れ込まれそうになると、
「いで!」
憐の腕を掴んでいる男の頭が殴られた。
「な、なんだ⁉」
「⁉」
見ると、二人の若者が立っている。
「おい。放してやれ」
ケモ耳みたいな髪型の少年が、一人の男の腕を掴むと、
「ぎゃああああああ‼」
男の腕は折れそうになった。
「な、なに……」
「やるのか?」
もう一人の大男が指を鳴らして睨みつけている。
「に、逃げるぞ」
「ああ!」
ガラの悪そうな男たちは全員逃げ出した。
そして残ったのは、憐と二人組だけになった。
「ありがとう。助かりました——」
憐は二人に深々と頭を下げた。
「いやぁ、いいよ~。カレンちゃん」
「ジョン」
ケモ耳の少年はデレデレしながら憐を見つめている。
「無事でよかった」
「エディ」
大男も嬉しそうだ。
「あの、二人も黄色いうさぎに行かない? 何か奢ろうか?」
「えっ⁉ マジ⁉」
「これから、黄色いうさぎに行こうと思っていたところだ」
憐はジョンとエディの二人と一緒に黄色いうさぎに戻った。
「ただいま帰りました」
「戻って来たか。……おや? バカ二人も連れてきたのか」
「いや~。ひどいですね~。相変わらず」
「ジョンはともかく、俺まで一緒にしないでくださいよ」
「俺まで、って何だよ⁉」
「事実を言っただけだ」
ジョンとエディが言い争っていると、ピッチャーが二つ飛んできて、見事ジョンとエディに命中した。
「二人とも、奢らないよ」
奢らないと聞いたジョンは憐に擦り寄って、泣きついた。
「いやいや! 待って! 今月もピンチなんだ‼ 頼む!」
「お前な……」
憐はエプロンを着けながら、厨房に入った。
「……じゃあ、ちょっと待ってね。僕が作るから」
「おおっ‼ マジ⁉」
「ありがたいな。カレンの料理は美味しいからな」
二人が座ってスマホゲームをしていると、いい匂いがしてきた。
「いいにおい~」
ジョンは涎を垂らすと、スマホに落ちた。
「お前、スマホ」
「えっ? ああっ⁉」
ジョンがパニックになっていると、憐が出て来て、チャーハンを持って来た。
「お待たせ。食べてね」
「チャーハンだ! いただきます‼」
「チャーハンか」
二人がチャーハンを食べていると、ジャンプスーツを纏った梓がやって来た。
「お帰りなさい! 梓お姉様‼」
「憐、チャーハン作ったの?」
「はい。作りました。梓お姉様も食べます?」
「少し食べるわ。お腹すいたもの」
梓は早歩きで厨房に向かっていくと、祖母が二人の近くに来た。
「……で、仕事が欲しいのか?」
「はい! 仕事もらわないと、困っているんですよ」
「やりがいはイヨの方で、金払いはサヌキの方だ。…………だが、金は良くても徳島の仕事は引き受けたくない」
「……ああ、人殺しはしたくない」
「そうか。なら、補給の仕事、一人につき二十万」
チャーハンを食べているエディは手を止め、
「……高知か?」
「そうじゃ、場所は最御崎寺」
「わかった。——けど、チャーハンを食べてからでいい?」
「では、引き受ける。と」
祖母が書類を書いていると、
『モンスターです。モンスターです』
モンスター緊急速報メールが鳴った。
「スライムだが、強力な奴じゃ」
「モンスターか⁉ 行くぞ! エディ!」
「わかっている!」
ジョンとエディの二人は黄色いうさぎを出た。
「私も行くわよ!」
梓も厨房から出て来ると、
「僕は——」
「憐は留守番していて、スライム程度なら倒せるから」
憐に言いつけると、梓は外に出た。
中央公園には、赤い大きなスライムが暴れまわっている。昼間と言うだけあって親子連れや老人と言った人々が逃げ回っている。
その中央公園に来たジョンとエディは、大声で吠えるとジョンはワーウルフにエディはドラゴニュートの姿になった。
「行くぞ」
「おお!」
ジョンが宙に飛び、スライムを切り裂いたが、スライムを切り裂いた跡は元に戻っていった。
「くっ」
「どけっ! 俺に任せろ‼」
ジョンが離れるとエディは口から火を噴き、スライムを焼いた。
「やったか?」
二人がスライムを見ると、三分の二は焼けたが、すぐに再生して元の姿に戻った。
「まだか⁉」
「スライムは倒されていないのね」
「「梓さん⁉」」
「二人とも! 離れて‼」
梓が火炎放射器を使うとスライムは焼けたが、またしても再生した。
「ダメね」
梓が再度、火炎放射器を使おうとすると、エディが話しかけてきた。
「梓さん。俺と一緒に炎を使いましょう。そうすれば、威力は強力になります」
「……そうね。試してみるわ」
梓とエディは構えて、準備をした。
「行きますよ。3・2・1——今だ‼」
梓は火炎放射器を、エディは炎を同時に放つと、スライムは焼け焦げ、塵すら燃え尽きた。
「やったぜ!」
「やったわ!」
スライムを倒した三人は黄色いうさぎに帰って来ると、憐が迎えてくれた。
「倒したのですね!」
梓は憐の頭を撫でながら、
「エディと二人で倒したの」
「そうですか! ——ですが、あの人なら一人で倒せたのでしょうね」
梓は顔を曇らせて、
「憐、いない人の事は言わないの」
「ああ……」
憐が物思いにふけっていると、ジョンが陽気な声で、
「カレンちゃん。腹減った」
「じゃあ、今から何か作ってあげる。少し待っててね」
「やった! 待ちます!」
「楽しみだ」
憐は厨房に向かった。
これが香川県の日常だ。




