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四国でみんな生きている  作者: 山田忍
四国でみんな生きている5
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高知でみんな生きている5

 高知県。

「今日は調子いいな」

 最御崎寺を出てから、モンスターは出て来ていない。

「行けるうちに行っておかないと」

 お遍路さんをしている真言は高知に来てからは、モンスターに追われる日々だったが、本日はモンスターに一匹も出会っていない。

「……平和だ」

 真言は休憩することなく次の札所である津照寺に向かった。

「本当に出てこないな」

 歩いて行くと津照寺が見えた。

「着いた!」

 津照寺に着いた真言は巡拝すると、次の札所の金剛頂寺(こんごうちょうじ)に向かった。

「運がいいな」

 こうして、金剛頂寺に向かっていく真言の足取りは軽い。

「ずっと、高知県にモンスターが出なかったらいいのに」

 真言は上機嫌で歩いていくと、何もない草原に着いた。

「さて、休憩するか」

 真言は草原で座って、荷物から赤飯の缶詰を取り出した。

「いただきます」

 真言が食事をしていると、足元に落ちていた物に気付いた。

「何だよ。ゴミじゃないか」

 真言の足元には、缶詰やらパックやペットボトルと言ったゴミが落ちていた。

「拾っておかないと」

 広く見渡しのいい場所は冒険者の休憩スペースの代わりになるため、マナーの悪い冒険者が休憩後にゴミが荷物になるとの事で缶詰などをゴミとして捨てていくのだ。

「……持って帰れよな」

 真言はゴミを拾っていると、

「ん?」

 ウサギがいたが、額を見ると黒いらせん状の一本角が生えている。

(アルミラージか。見た目は可愛いウサギなんだが、獰猛で人間を襲って食っちまうからな。どうしようか?)

 真言が近づくと、アルミラージは鋭い角を向け、真言に向かってきたが、真言は逃げも隠れもせず、呪文を唱えると、アルミラージは殺意が無くなり大人しくなり、真言の腕の中にいる。

「魔法が使えるのなら、手なずけることも可能だし、事実、イヨの国ではペットにしている奴らもいるからな」

 真言が地面に降ろすと、アルミラージは見つめている。

「あっ、そうだ。缶詰食べるか? ウインナーの缶詰があるんだが」

 真言が缶詰を取り出すと、アルミラージは缶詰のにおいを嗅いでいる。

「ウインナー、全部やるよ」

 缶詰を開けて、小さなウインナーを一本近づけると、嬉しそうに一口で食べた。

「ははっ」

 幸せそうなアルミラージを見て、真言も嬉しくなった。

「さて、行くか」

 真言が先に行くと、アルミラージもついて来た。

「ついて来るのか?」

 屈んでアルミラージを見つめたら、アルミラージも見つめている。

「お前の名前はユキだ。白くないけど」

 ユキと名付けられたアルミラージはコクコクと頷いた。

「行こうぜ」

 真言が行くと後ろにユキがついて来る。

 金剛頂寺までの道のり、真言とユキは静かに歩いていると、真言が口を開いた。

「そういや、香川に黄色いうさぎって店があるんだ。香川まで行けたら、その店に行こうな。お前も黄色いうさぎだからな」

 ユキは嬉しそうに跳ねた。

「ちなみにユキって名前は、じーちゃんに次ぐ、最強のばーさんから付けた名前なんだ。……そのばーさんは、じーちゃんみたいに喝で倒せないけど、武芸の腕前は半端なく強いんだぜ」

 ユキは角を向けて、突進するような動きをしている。

「ああ、戦ってみたいのか? 香川県に着いたら戦ってみるか?」

 ユキは闘志に燃えながら頷いている。

「俺も応援してやるよ。……じーちゃんもだけど、ばーさんにもいい思い出が無いんだよな」

 真言とユキが歩いていると、気配がした。

「隠れろ」

 真言はユキを抱きかかえ、隠れると、草むらからモンスターが出て来た。

(なんだ?)

 モンスターを見ると、ライオンかと思いきや蟻の体が見えて来た。

 草陰に隠れているが、ユキは暴れている。

「落ち着け! ミルメコレオだ」

 戦う気でいるユキを押さえつけているが、

「うわっ‼」

 ユキは真言を払いのけ、草むらから出て来て、ミルメコレオに襲い掛かった。

「?」

 ユキが角で刺す前に、ミルメコレオは倒れて動かなくなった。

「倒れたか……」

 ミルメコレオに近づいたユキは不思議そうに角でつついていると、真言がユキの体を撫でながら、

「…………ミルメコレオってのはな、肉を食っても消化できず、穀物も食えないから、すぐに餓死するんだ。襲ってこない限り、こっちからは倒さねぇんだ」

 ユキはミルメコレオを見つめている。

「ちょっと行くのは待ってくれ」

 真言はミルメコレオを供養した。

「さあ、行くぞ。ユキ」

 真言とユキは歩き出した。

 それからしばらくすると、金剛頂寺に着いた。

「着いたぞ! ユキ!」

 真言が言うとユキも嬉しそうに飛んだ。

 仁王門の前で真言が一礼をすると、ユキは不思議そうな目で見た。

「ユキ、仁王門や山門の前では一礼をするんだ」

 真言が先に行くと、ユキは一礼をしてから仁王門を通った。

 水屋に向かい、真言の手や口を清めると、ユキの前足を清め、口を清めようとすると、ユキは水を飲みだした。

「飲むんじゃねぇ。(すす)いで出すんだ」

 ユキは少し真言を見てから水を出した。

 その後、巡拝をすると、次の札所に向かった。

「次は神峯寺(こうのみねじ)だ」

 真言と一緒に向かっている。

「少し時間はかかるが、歩いて行こうぜ」

 ユキは嬉しそうに頷いた。

 真言とユキが歩いていると、真言とユキは気配を感じた。

「何がいる?」

 真言が身構えると空には、ライオンの頭に鷲の体のズーが低いところにいた。

「ユキ」

 真言がユキを見ると、落ち着いて見つめている。

 ズーが真言たちが離れていくと、安心して座り込むと、

「⁉ ユキ⁉」

 ユキは飛び出して何処かに行った。

 真言がユキを追いかけて行くと、

「うわあああああ!」

「た、助けてくれえ‼」

 ズーが冒険者たちを襲っていた。

「ユキ!」

 ユキはズーに向かって突進した。

「⁉」

 ズーに攻撃したユキは、ズーに噛みつかれた。

「ユキ!」

 怪我をしたユキを抱えると、真言はズーを睨みつけた。

「ユキ、少し待っていてくれ」

 真言は隠し持っていた銃を取り出した。

「これは、お大師様も許してくださるでしょう」

 真言は両手に銃を構えた。

「右手には雷」

 真言の右手には雷が纏われた。

「左手にも雷」

 左手にも雷が纏われた。

「雷撃」

 真言が放った弾丸がズーに命中すると、ズーの全身に雷撃が走ると、ズーは黒焦げになって落ちた。

「……」

 ユキを見ると、まだ少し息がある。

「あ、あの、助かりました」

 冒険者がお礼を言いに真言の元に向かってきた。

「よろしければお礼に……」

 冒険者が現金を出そうとすると、真言は、

「回復薬とか持っていませんか? 仲間が怪我しているのです!」

「回復薬ですか? ありますよ」

 冒険者は回復薬を取り出すと、真言は回復薬を取って、ユキに使った。

「!」

 回復薬を使ったユキは元気になって飛び跳ねて、真言に擦り寄った。

「ユキ! よかった!」

 真言が抱き上げると、ユキは更に嬉しそうになった。

「ありがとうございます」

 冒険者は深々と頭を下げた。

「いえ、当然の事をしただけです」

 冒険者たちと真言は別れ、真言とユキだけになると、

「さあ、行こうぜ」

「!」

 真言とユキは歩き出した。

 歩き続けると、真言はユキに言った。

「ユキ、無茶はするなよ。アルミラージは多いが、ユキは一匹しかいないから」

「……」

 ユキは静かに歩いている。

 ゆっくり歩いていると、

「さあ、モンスターは運よく少ない。疲れたら俺に言え。行くぞ」

 真言は早歩きで歩くと、ユキも速く飛び跳ねた。

 そうして歩いて行くと、神峯寺が見えた。

「見えたぞ!」

 真言がユキを見ると、ユキはへとへとになっている。

「ユキ、頑張ったな。今日はここで泊まろう」

 真言はユキに水を飲ませて、休憩してから、仁王門で一礼をすると、ユキも一礼をした。

「すっかり覚えたな。ユキ」

 それから、巡拝をしてから、宿坊に泊まった。

 合掌を終えた後、ユキと一緒に畳の上で転がった。

「やっぱり、畳はいいなぁ。安全地帯だ」

「~!」

 転がっていると、幽霊の女の子がやって来て、

「お風呂が沸きました。お入りください」

「風呂に入るぞ。ユキ!」

「!」

 広めの風呂に行くと、ユキが風呂に飛び込もうとしたので、

「ユキ。体を洗ってからだ」

 風呂に飛び込もうとするユキの体を洗っていると、

「~!」

「幸せそうだな。ユキ」

 こうしてお風呂を満喫すると、夕食の準備が出来た。

「夕食だ」

「!!!!!」

 真言用の夕食である炊き込みご飯やお吸い物だけじゃなく、ユキ用に生姜焼きも用意している。

「ユキも夕食があるからな。一緒に用意してくれたんだ」

 真言が座るよりも速く、ユキは生姜焼きを食べた。

「ユキ。今日は構わないが、次からは手を合わせて『いただきます』って言うんだ」

 食べながらユキは頷いた。

 真言がお吸い物を飲んでいると、幽霊の女の子がやって来て、

「あの……失礼ですが、あのアルミラージ、可愛いですね」

「ああ、今日、仲間になったばかりです」

「ええっ⁉」

 幽霊の女の子は驚いているが、真言は気にせずに、

「……もしかして、触ってみたいとか、ですか?」

 幽霊の女の子はもじもじして、

「…………はい。……その、触ってみたいです」

 真言はユキを抱いて、

「はい」

「ありがとうございます!」

 幽霊の女の子はユキに触れて、笑った。

「ふわふわ」

「ははっ」

 そして、夜。ユキは真言の布団の中で眠った。

「明日も頑張ろうな。ユキ」

 これが高知県の日常だ。

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