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四国でみんな生きている  作者: 山田忍
四国でみんな生きている5
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徳島でみんな生きている5

 徳島県。

「おババー! あしたはあのひだなー!」

「ああ、あの日だね」

「あの日?」

 おババとセルは楽しみにしているが、ゴブ平だけはわからない。

「あしたはたのしみなひだ! ゴブ平もたのしいぞー!」

 セルは飛び回ってはしゃいでいる。

「楽しみな日?」

 翌日、

「ゴブ平! みろ‼」

 セルが指さした先には、大量の屋台や移動屋台が並んでいる。

「わあっ!」

「市場じゃ。徳島で一番賑やかじゃろう」

 徳島に不定期でやって来る行商人も月一回だけ、すべてやって来て市場になっている。

「ほれ」

 おババは二人に一万円を渡した。

「こ、これって……⁉」

「一万円じゃ、これ——」

「おババー! なくなった」

 セルの手には食べ物を刺していたであろう多くの串を持っている。

「早い!」

「セル! もう使ったのか⁉」

「うまかったぞ」

「セル……。食べたのか……」

 おババは嘆いた。

「おババー。つぎは?」

「セル……ごめんよ……もう無いんだよ」

「そうか。わかった」

 セルは笑っておババを見ている。

「じゃあ、おババ。買いに行ってきます」

 ゴブ平は二人から離れて、一人で買い物に出かけた。

 周りを見ると野菜や果物だけじゃなく、美味しそうな匂いの屋台や珍しい玩具が売っている。

「おいしそうだな。セルが欲しがるのもわかる」

「コーヒーはいかがでしょうか? ワッフルも売っていますよ!」

 移動屋台には、コーヒーの匂いと店主の上品な声が聞こえてきた。

「コーヒーとワッフルを一つ。コーヒーはお任せで」

「わかりました」

 焼きたてのワッフルと淹れたてのコーヒーがゴブ平の手に来た。

「あったか~い」

 久しぶりのコーヒーとワッフルの味に満足していると、本を売っている店があった。

「本……」

 コーヒーとワッフルを食べ終わると、ゴブ平は本を売っている店に向かった。

「……いらっしゃい」

 やる気のなさそうな店主が経営しているが、本の種類は豊富だ。

「う~ん……」

 人気のマンガの最新刊やビジネス書にエッセイと言った本が売っている中でゴブ平は一冊の本に興味を持った。

「これ……」

 可愛らしい三人の女性の絵には『三人の勇者』と言うタイトルの絵本が売られていた。

(懐かしいな。昔、図書館で読んだな)

「これ、いくらですか?」

「……百円だよ」

「買います」

 ゴブ平が絵本を買うと、他の店を探すとスマホを売っている店もあったが、値段が高いのでやめてしまった。

(残念だな)

 そして夕方になり、市場は閉まってしまった。

「さて、たくさん買ったぞ」

 おババの両手には米だけではなく様々な肉、野菜や果物、調味料に香辛料と言った物を買っていた。

「めしがうまくなるな!」

「そうじゃ。美味しいご飯を作ってやるぞ。……ゴブ平! お前は手伝え‼」

「はい!」

 夕食は久しぶりの白米と新鮮なサラダに肉の大きなビーフシチューだ。

「にく!」

「牛肉、だ……」

 二人が感動していると、おババは杵を持って、

「さあ、食え!」

「「いただきまーす! もぐもぐ……おいし~い‼」」

「そうかいそうかい。作ったかいあるねえ」

「おババ! おかわり!」

「いいとも」

 おババはセルにビーフシチューを注いでいる。

「あっ! こっちも——」

 ゴブ平が器を差し出すと、恐ろしい目でおババは睨んだ。

「——お代わりはいりません」

 夕食を食べ終わると、ゴブ平はおババとセルに絵本を見せた。

「ほう」

「くいものか?」

「違うよ。これは絵本って言って読むんだ。セル、読んであげるよ」

「どんなのだ?」

 セルはゴブ平の横に座って絵本を見ている。

(近いなぁ……)

「ワシは保存食でも作ろうかのう」

 おババは離れて、保存食用に肉を味噌に漬け込んでいる。

「よめ! ゴブ平!」

 セルはワクワクしてゴブ平を見つめている。

「じゃあ、読むよ……。昔々あるところに邪悪な魔王トナンが村々に迷惑を掛けていました」

「まおうってこれか?」

 セルが気の弱い子供が見たら泣きそうな絵で描かれた魔王トナンを指さした。

「そうだよ。続けるよ……。そんな迷惑な魔王トナンをやっつける為、可愛い大魔法使いラブと魔法剣士イヨと言う冒険者が魔王トナンをやっつける為、魔王トナンに戦いを挑みましたが、(かな)いませんでした」

「どっちがどっちだ?」

「右のフリフリの服を着た女の子がラブ様で、左の立派な甲冑を身に着けているのがイヨ様」

「わかった」

「続けて……。旅に出たある日、洞窟を探索すると、魔法陣が見つかりました。その魔法陣を使えば、勇者が召喚されると分かったラブ様は勇者を呼び寄せました。その勇者はユーサマと名乗り仲間になりました」

「かわったかっこうだな」

「セーラー服だよ。学校って言う勉強する所に着る服だよ」

「で……。仲間になったユーサマは見た事の無い剣術で魔王トナンの家来をやっつけました」

「すごいなー」

 セルは興味津々になってきた。

「三人でもう一度、魔王トナンに戦いを挑みました。戦いの結果、見事、魔王トナンをやっつけました。そして世界は平和になりました。めでたしめでたし」

「おおー‼」

 セルは手をパチパチと叩いた。

「すごいなー! ゆうしゃって‼」

「勇者は強くて優しくて、かっこいいんだよ。セルも優しい子になるんだよ」

「もちろんだ!」

 保存食を作り終えたおババが二人の元にやって来た。

「おババ! セルもゆうしゃになる!」

「そうかい。セルならなれるじゃろう」

 おババがセルの頭を撫でている。

「今日はもう遅いから、歯を磨いて寝るのじゃ」

「わかった!」

 セルは眠っているが、ゴブ平が起きていると、おババがやって来て、

「……」

「どうした。()よ寝んか」

「おババ、セルには言っていませんが、あの後、イヨ様は魔王になって、現在はイヨの国を治めていますよね」

「そうじゃ」

「そして、ラブ様はサヌキで能天気に暮らしている」

「昔、サヌキで見かけた時はお気楽生活じゃった」

 おババは、ため息をついている。

「では、ユーサマは?」

「さあな。ほんの五十年前のことだが、ユーサマはこの世界の人間じゃ。生きているかもしれないし、死んでいるかもしれないし、それは分からん」

「もし、生きているのなら、どこにいるのでしょうか?」

「日本の外か。日本のどこかか…………もしかしたら、サヌキかもしれん」

「サヌキなら近いですね」

「じゃが、ワシらには近くて遠いところじゃ」

「ここは…………流刑地ですからね」

「それより、寝るのじゃ。もう遅い」

「はい」

 ゴブ平も眠りについた。

 翌朝、

「ゴブ平ー! おババー!」

 朝から元気なセルは二人を起こした。

「セル。朝から元気だねぇ」

「おはよう」

 セルの頭には壊れた鍋を被っており、手には落ちていた木の棒を持って素振りの真似事をしている。

「セルもゆうしゃになる! ゴブ平!」

「なに? セル」

「ゆうしゃって、わるいやつたおせばいいんだろー! どこにいる?」

 ゴブ平とおババは顔を見合わせてから、遠くでヒソヒソ話をした。

「どうする?」

「しょうがないのう。……ごにょごにょ——」

「ええっ⁉ ——わかりました」

 ゴブ平は二人から離れて、何かを集め出した。

 それから、しばらくすると、

「はははははっ!」

「ん?」

「あ、あれは……」

 おババが指さした先には、布を被ったゴブ平がバケツの上で高笑いをしている。

「わたしの名はゴブリンキング! 悪い奴だぞー!」

「わるいやつ?」

 木の棒を持ったままセルは身構えた。

「そうだ! 勇者セルなんか、やっつけてやる!」

 ゴブ平ならぬゴブリンキングがバケツから飛び降りて、セルに向かっていった。

「わるいやつはゆうしゃセルがやっつけてやるー!」

 セルも向かっていった。

「くらえー‼ ゆうしゃぱーんち‼」

 持っていた木の棒を捨て、セルはゴブリンキングの顔面を殴った。

「うわあああああああ!」

 殴り飛ばされたゴブリンキングは、ガレキにぶつかり、ガレキの中に埋もれた。

「セル! やったねぇ!」

 おババはセルに駆け寄り、抱き着いた。

「きょうからセルもゆうしゃだぞ!」

「そうだよ。勇者じゃ」

「おーい! セル、ゆうしゃになったぞー! あれ?」

 セルが周りを見ると、ゴブ平はいない。

「おババ。ゴブ平は?」

「ああ、あれは、一番に逃げたのじゃろう」

「にげなくてもセルがまもるのに」

 その頃、ガレキに埋もれたゴブ平は、

(いてて……おババ、『お前が悪者になれ。報酬に牛肉一枚やるから』って言ってたけど、これ、本来なら牛肉一枚のレベルじゃないぞ。……いたた)

 ガレキを片づけて、布を捨てたゴブ平は、セルたちの元に戻った。

「ゴブ平! みつけた! ⁉」

 セルはゴブ平に駆け寄ると、頭を撫でて、

「ゴブ平! けがしてる! だれにやられた? ゆうしゃセルがやっつけてやる!」

「えっと……その……」

 怪我の理由を言えずに困っていると、おババがゴブ平の頭を叩いて、

「いて‼」

「その辺でコケて気絶していただけじゃ」

「そうか。ならばいいや。それより、ゴブ平! ゆうしゃセルのものがたりききたくないか?」

「あー……その——」

 おババを見ると、ゴブ平を睨んでいる。

「……教えてください」

「いいぞ! セルはゴブリンキングってわるいやつを——」

 セルはさっきの出来事を語った。

 これが徳島県の日常だ。

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