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四国でみんな生きている  作者: 山田忍
四国でみんな生きている5
17/40

香川でみんな生きている5

 香川県高松市、黄色いうさぎにて。

「ラブ様」

 店内でお菓子を食べているラブに、憐は『三人の勇者』と書かれた絵本を持って来た。

「なぁに? カレンちゃん?」

「ラブ様って、かつて魔王を倒したのですよね」

「そうよ。倒したわよ」

 ラブはあっけらかんと話したら、憐は目を輝かせ、

「ラブ様! よろしければ、魔王を倒した話を教えてください!」

「昔、カレンちゃんには話したでしょ。幼稚園ぐらいの——」

 憐の足元には幼稚園児や低学年の小学生の子供たちがいた。

「僕じゃなくて、この子供たちにですよ。ちょっと頼まれて預かることになって……」

 ラブを見た子供たちは、疑問の目で見つめている。

「これが三人の勇者の一人?」

「大魔法使いラブ? どうみても、おれたちぐらいじゃないか」

「カレンのお姉ちゃん。カレンのお姉ちゃんのほうが勇者に見えるよ」

「お姉……ちゃん」

 憐は落ち込んだが、ラブの目は怖い。

「前、キレて店壊したら、ものすご~く怒られたから、軽めの魔法にしてあ・げ・る」

 ラブが魔法を使うと子供たちの身長が伸び、成人になった。

「う、わあ……」

「すごい……」

 子供たちが、手や足に触れ驚いていると、子供たちは元に戻った。

「「「…………」」」

「わかった。ラブが大魔法使いだって、ことを」

 子供たちは恐れて、

「わ、わかりました……」

「……わかったわ」

「え、え~と、欲しい飲み物ある?」

 憐は子供たちを元気づけるために、優しく言った。

「! オレンジジュース!」

「メロンソーダ‼」

 憐が呼びかけると、呆然とした子供たちは元気さを取り戻した。

「持ってくるから、待っててね」

 憐がジュースを持ってくる頃には、子供たちは大人しく椅子に座っていた。

「はい」

「ありがとう! カレンお姉ちゃん‼」

「……どういたしまして」

 憐は無表情になったが、ラブは嬉しそうに話した。

「さあ、お聞きなさい。ラブちゃんが魔王トナンを倒した話を」

 子供たちはドキドキと今か今かと待っている。

「このラブちゃんと魔法剣士イヨちゃんと、そして……あなたたちで言うユーサマが、五十年前に暴れまわっていた魔王トナンを倒したのよね」

「「「おおっ~!」」」

 子供たちは感心していると、ラブはドヤ顔をして、

「魔王トナンって怖いわよ~」

「そ、そんな、怖い相手を倒したのですか?」

「ええ、ラブちゃんたち三人がいれば、倒せるのよ」

「すごいなー」

「三人とも強かったから、倒せただけよ。魔王トナンって、この大魔法使いラブちゃんだけでは、簡単に倒せなかったのよ」

「えっ⁉ そうなのですか⁉」

 憐が驚いているが、子供たちは目を輝かせて、

「すっご~い! ラブ様って、すごい人なんだ‼」

「そうよ。イヨちゃんとあなたたちで言うユーサマも、この世界の人間でありながら、日本刀一本で強かったわね」

「異世界の人間じゃないのに強いの⁉」

「ええ、強いわよ~。モンスターは一撃よ」

「えっ⁉ 一撃⁉」

「冒険者であるウチの父ちゃんでも、数回やってモンスター倒せるのに⁉」

「ユーサマって強いんだな」

「でも、異世界の人間じゃないのに、なんで異世界に来たの?」

 子供の疑問にラブは答えた。

「それは、ラブちゃんが呼んだの。魔王トナンが暴れていた時、ラブちゃんとイヨちゃんだけだった時に、強い仲間が欲しくて呼び寄せたら、あなたたちで言うユーサマだった、ってワケ!」

「そ、そうですか……」

 憐までも感心していると、ラブは更に喋る。

「いい。魔王トナンに関しては、丸一日かかったけど」

「ラブ様も一日かかったのですか⁉」

 ラブは堂々と、

「そうなのよ。恥ずかしいことに、一日かかったのよ」

「どんな魔法や攻撃を使ったのですか?」

「そうね。魔王トナンにとっては普通の魔法よ。ただし、ラブちゃんたちには強力な魔法だけど」

「ラブ様でも?」

「そうよ。一回の魔法に当たると死にかけたもの」

「そ、そんなあ……」

「ラブ様でも、死にかけただなんて……」

「ふん。下らん」

 ラブの武勇伝を聞いていると、憐の祖母が現れた。

「あら、どうしたの?」

「お前が下らん話をしているからだ」

 憐の祖母が下らん話をしていると聞いたラブは呆れて、

「下らん話じゃないわよ。面白い話よ」

「私から見れば下らん話だ」

「下らんって、ラブちゃんから見れば、面白い話よ」

「お前からだろ」

「そんな——」

「ふざけるな——」

 ラブと祖母で言い合いになっていると、

『モンスターです。モンスターです』

 全員のスマホにモンスター緊急速報メールがきた。

「モンスター⁉」

「ボナコンだって‼」

「カレンのお姉ちゃん! 助けて‼」

「もちろん! 助けに——」

 憐が男の娘魔法使いカレンに変身すると、

「ラブ様! 僕が——」

「カレンちゃん。いいのよ」

「えっ⁉ ですが、ラブ様?」

 ラブがカレンの肩を抱いて、

「ラブちゃんが、モンスターを倒すから」

「ラ、ラブ様がですか⁉」

 ラブは自信満々に、

「そうよ。おこちゃまにラブちゃんの実力を教えなきゃ!」

 ラブは宙を浮かんで、

「場所は塩江(しおのえ)の方でしょ」

「そうです!」

 ラブは宙に浮きながら、子供たちを見て、

「カレンちゃん。子供たちを連れて行って」

「そ、そんな! 危ないですよ! ラブ様⁉」

「カレンちゃん。連れて行きなさい。子供たちはラブちゃんが助けてあげるから」

 ラブは楽しそうに言っているが、カレンは信用せずに、

「……ラブ様。本当に助けるのですか?」

「助けるわよ。カレンちゃんは助けないけど」

「ラブ様‼ ……まあ、いいですけど」

「じゃあ、行くわよ!」

 ラブは空を飛んで行った。

「あっ! ラブ様! 行くよ!」

「「「わあっ!」」」

 カレンは子供たちを連れて空を飛んだ。

「みいつけた!」

 ラブが塩江に行くと、野牛に似たボナコンがいた。

 ボナコンがまき散らした灼熱の糞は広範囲に飛び散り、糞が落ちた場所は燃えていった。

「くっ……」

 冒険者たちが銃を撃って攻撃しているが、ボナコンの糞が邪魔で銃が役に立たない。

「ボナコンめ……」

「あの糞が、厄介だな」

「あっ! 家が……⁉」

 ボナコンは糞をまき散らし、塩江の町に危機が訪れて冒険者が激怒していると、

「あら、これは迷惑ね」

「ラブ様‼」

 ラブは急降下をした。

「ちょっと、迷惑かけないで!」

 ラブが落ちていると、ボナコンは糞をラブに飛ばしてきた。

「ラブちゃんの前で糞をまき散らすって、いい度胸よね!」

 軽やかにラブは糞を避けていると、カレンは魔法で糞を消して、

「ラブ様‼ 消さないと‼」

 カレンが魔法で糞を消していると、ラブはボナコンに近づき、

「近づいたわね」

「⁉」

 ラブがボナコンに触れると、ボナコンは光の粒になって、消えて行った。

「…………ラ、ラブ様、ボナコンは……?」

「消したわよ。簡単にね」

「そ、そんな…………すごい…………」

 カレンは驚いているが、ラブは気にせずに、

「それより、糞を片付けないと」

「ラブ様、糞の片付けなら、僕が——」

「いいわよ。カレンちゃん。ラブちゃんが片付けてあげるわ」

 ラブが呪文を唱えると、糞は無くなり、建物や畑は元の姿を取り戻した。

「ありがとうございます!」

「これは、ラブ様のお陰です‼」

「ラブ様……!」

 塩江町の建物を修復して、直したラブ様に、冒険者全員は礼を言った。

「いいわよ~。じゃあね」

「あっ!」

 ラブはカレンより先に空を飛んで去って行った。

「ラブ様ぁ~⁉」

 カレンが遠くに行ったラブに向かって言っていると、

「あの~?」

 塩江町の住民や冒険者たちは何か言いたそうな目で見つめている。

「どうしました?」

「これは…………お礼ですが…………」

「いえ、そんな、困ります! 行くよ!」

「ああっ!」

 男の娘魔法使いカレンも子供たちと一緒に空を飛んで去って行った。

 そして、黄色いうさぎにて、

「全員、帰って来たか」

 祖母が甘酒を持ってきて、全員に渡した。

「おばあ様、ありがとうございます」

「悪いわね」

「わーい!」

「あったか~い」

 全員、甘酒を飲んでいると、子供たちの一人が、

「それにしても、ラブ様って、すごいな。ぼくたちも魔法使えるの?」

「そうよね。わたしも魔法使いたい!」

 子供たちが魔法に興味を持っていると、ラブは冷静に、

「……残念ながら、魔法は使えないの。イヨのモンスターや精霊・亜人、妖精たちは出来るけど、このサヌキの人間では出来ないの」

 子供たちはラブに抱き着き、

「えー、なんで⁉」

「教えて。ラブ様⁉」

 ラブは咳払いをして、

「ラブちゃんが住んでいた異世界の人間は全員を使えるけど、このサヌキの人間は誰一人魔法を使える人間がいないのよ」

「でも、カレンのお姉ちゃんは魔法を使えるじゃん」

「カレンちゃんは特別なの。他にも、特別な子たちもいるけど」

「他にもいるの⁉」

「ねえねえ‼ どんな魔法を使うの⁉」

 ラブは少し考えてから、

「…………そうね。炎や氷の弾丸を使う子もいたわ」

「はは……」

 憐は笑っているが、子供たちは目を輝かせて、

「炎や氷の弾丸⁉ どんなの⁉」

「なんだかカッコイイなあ。ラブ様! 教えて!」

 子供たちは興味津々だが、ラブは素知らぬ顔で、

「さあ、どんなのかしら?」

「ラブ様! 教えて‼」

「ねえ、教えてよ‼」

 子供たちはラブにくっついたまま離れない。

 これが香川県の日常だ。

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