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四国でみんな生きている  作者: 山田忍
四国でみんな生きている4
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高知でみんな生きている4

 高知県。

「っぎゃああああああああ‼」

 真言はモンスターの集団から逃げていた。

「ぎゃああああああああ‼」

 真言が逃げていると、最御崎寺が見えたが、真言は走り去り、

「ぎゃあああああああああああっ‼ って、通り過ぎていたああああああああああ‼」

 真言は、最御崎寺を通り過ぎていた。

「やべぇ! 急いで入らないと、モンスターとぶつかる‼ けど、入らないと‼」

 真言はモンスターとぶつかる覚悟で最御崎寺に向かった。

「うおおおおおおおおおおおおおおお‼」

 真言は最御崎寺の前に向かった。

「間に合えええええええええ‼ 行ったか⁉」

 何とか真言は参道に入った。参道に入るとモンスターの集団は結界にぶつかり入れなかったモンスターの集団は真言を睨んで奇声を発している。

「はあ…………セーフ……」

 真言は緩やかな上り坂の参道を歩いた。

「ああ……」

 目の前には、仁王門がある。

「よし」

 真言は仁王門の前で一礼をした。

「久しぶりだな」

 亜熱帯植物に囲まれた境内を歩いている。

 水屋に着くと、両手を清め口を(すす)ぎ柄杓を清め、鐘を突く。

「ふう……」

 納札や写経を納め、お灯明に線香をあげてから賽銭を納める。

 そして、本堂に向かって合掌し、読経をする。

 続いて大師堂に向かい、お参りをする。

「さて……」

 納経所に行くと、

「御朱印を貰いたいのですが……」

「はい。ありがとうございます」

 納経帳に御朱印を押しているのは……外見は二十代前半の若者だが、その体は透き通っている。

「真言さん。今日はどうします?」

 真言が腕時計を見たら、十七時になっている。だが、緑色の雲に覆われた空は変わらない。

「もうこんな時間ですか。……泊まってもよろしいですか?」

「いいですよ。真言さん。準備しますね」

 若者と真言は宿坊に向かった。

「着きましたね」

「それでは……」

 宿坊に入る前に真言は金剛杖の先を丁寧に洗い優しく拭いてから、宿の中に入った。

「では……」

 テレビどころか机もない部屋の中に通された真言は金剛杖を床の間に立て、合掌をした。

 かつて、高知県には全ての寺に宿坊は無かった。もし、あったとしても要予約なのだが、現在、異世界化した高知県では、高知県内の寺のみ全てに宿坊を設け、予約なしで泊まる事が可能になっている。

 高知県では、人間が訪れたとしても、お遍路さんは少なく、冒険者ぐらいしかいないので、その冒険者の為、宿坊を開いているのだ。

「はあ……」

 菅笠を外した真言は畳の上で大の字に倒れた。

「……久しぶりの…………畳だ」

「真言さん。失礼します」

 透き通った若者はふすまを開け、お茶を持って来た。

 若者はお茶を入れてから、

「真言さん。どうぞ」

「……悪いな。茶、持ってきてくれて」

「真言さん。真言さん、一人で、お遍路を?」

 真言は茶を一口飲んでから、

「そうだ。じーちゃんを捜しに」

「捜しにって……まさか、行方不明になったとか」

「そうだ。行方不明だ」

「白業さんが⁉ そんな馬鹿な⁉」

 若者は素っ頓狂に驚いているが、真言は冷静に、

「本当に、行方不明だ」

「いや、あの白業さんが⁉ そんな、あり得ない‼ だって! 白業さんって……人類……いえ、生物最強のお人! 武勇伝数知れず! ですよ‼」

「…………だが、本当に行方知らずだ」

「……そんな」

 若者は絶句しているが、茶を飲み終わった真言は自分で茶のお代わりをしている。

「知ってたら教えてくれ」

「もちろんです!」

 真言は二杯目のお茶を飲みながら、

「そろそろ、夕飯の準備しなくていいのか? 他に客がいたら困るだろ」

「本日は真言さんだけです。……そうですね。お風呂と夕食の準備をします。あっ、後、お茶は置いときますね」

 若者はふすまを通り抜け、出て行った。

 高知県の札所の管理をしているのは、人間の僧侶ではなく、善良なモンスターや亜人・精霊に妖精だけでなく、この最御崎寺で真言の相手をしているような幽霊もいるのだ。

 ただし、御開帳の時のみ僧侶が冒険者を護衛につけて高知県に赴くのだ。

「さて」

 袋からスマホを取り出し、読んでいる。

『まこっさん。お元気ですか? 二人で無事に帰って来てくださいね』

『まこっさん。風邪を引いていませんよね。無理はしないでください』

『まこっさん。ちゃんとご飯食べてくださいね。食事は大切ですよ』

「……」

『俺は無事だ、今のところはな。今日は宿坊に泊まる』

 真言は返信をした。

「真言さん。お風呂を沸かしました。お入りください」

 部屋に若者の声が響き渡る。

「風呂か」

 風呂に入った真言は、

「はあー……帰りたいな……」

(じーちゃん。まあ、じーちゃんを知ってるヤツから見りゃ、じーちゃんが行方不明なんて、あり得ない話だよな)

 真言は祖父との思い出を思い出していた。

 七歳の頃、祖父とお遍路さんをしていた時、

「じーちゃん! モンスターだ‼」

 高知県を歩いていると、祖父と共にモンスターに囲まれてしまった。

「うろたえるな! 真言‼」

 祖父は構え、

「喝!」

 その一言で取り囲んでいたモンスターたちは倒れてしまった。

「じ、じーちゃん……」

「行くぞ。真言」

 祖父は先に進み、真言は追いかけたが、その間、モンスターはピクリとも動かなかった。

「じーちゃん……この時、じーちゃんは最強だって、初めて知った」

 風呂から出て、私服に着替えた真言が廊下を歩いていると、

「ちょうどよかったです。真言さん。出来ましたよ」

「食事か!」

 真言が食堂に行くと、食事が用意しており、温かいご飯や味噌汁が出来ている。

「人間の食べ物!」

「ぼくはお風呂の掃除に行きますね。真言さん、食事のお代わりはご自由に。では、ごゆっくり」

「ああ」

 若者は消えていなくなったが、真言は気にせず、味噌汁を飲んでいる。

(久しぶりだ。人間の食事……)

 真言は食事を何杯もお代わりして夕食を終えた。

 食後、食器を洗っている若者は真言に話しかける。

「真言さん。片付けが終わってから、テレビでも見ませんか? それともゲームします?」

 若者の声は嬉しそうに弾んでいる。

「本来なら、もう寝るだが……最近、冒険者とか来たか?」

「室戸岬の辺りには何もないので、誰も来ないので…………寂しいのです」

 若者の表情から元気が無くなっていると、真言が肩を叩いて、

「いいぜ。じーちゃんや俺、あんたに世話になってるから」

 透き通った若者の全身は輝いて、

「本当ですか⁉ では、何します⁉ テレビ見ます⁉ それともゲームをします⁉」

「好きな遊びでいい」

「では——」

 真言と若者は遊んだ。

 そして、二十一時になったことに気付いた若者は、真言を気遣い、

「これ以上、遊ぶと真言さんの負担になりますからね」

「悪いな。気を遣わせて」

 部屋に戻るとふかふかの布団が敷いている。

「布団も敷きましたので、ゆっくり休んでください」

「ああ」

 若者は消えて、一人残った真言は布団の上でスマホを見ると、

『では、おやすみなさい。まこっさん』

「ああ」

 真言は布団の中に入って、眠った。

 翌日、真言が熟睡していると、

「真言さん。朝風呂入ります?」

 若者の声が聞こえたのと同時に、真言は目を覚ましたと同時にスマホを見た。

『まこっさん。おはようございます。今日も無事でいてください』

『無事でいられるようにする』

 真言は返信してから、若者に返事をする。

「ああ、目を覚まさせてくれ」

 入浴を終えた真言が朝食を食べていると、若者が出て来て、

「真言さん。水と食料は何日分必要です?」

「水と食料か……」

 真言は少し考えてから、

「そうだな……両方とも三日は欲しいな」

 二十五番札所津照寺(しんしょうじ)までは約6キロぐらいだが、ここは異世界高知県、運が良ければ早く着くが、運が悪いと6キロの距離に何年もかかる事もあるのだ。

「三日分ですね。わかりました!」

 若者は奥の部屋から缶詰やレトルトパックと言ったレーションと水を取り出し荷造りした。

「真言さん。どうぞ」

 若者は真言に荷物を渡した。

「わるいな」

「いえいえ。札所なら当然の事ですよ」

 札所では、食事に風呂、宿泊だけでなく、無料で食糧や水と言った補給もしてくれる場所なので、冒険者にとっては重要な場所なのだ。

「それでは……まて」

「どうしました?」

「ああ、モンスターが……」

 真言が仁王門を出て、様子を見ると昨日いたモンスターは一匹もいない。

「いないな」

「真言さん! お元気で‼」

 真言は若者に見送られながら結界の外を出た。

「……」

(モンスターはいないな)

 更に歩くと、珍しく周りにモンスターはいない。

(いないな)

「少し海を見るか。じーちゃん、いるかもしれないし」

 真言は少し歩き、かつて灯台があった場所を過ぎて、室戸岬まで行くと、

「……」

(じーちゃん……)

 真言は岬の周りを見回ると、

「いないな……」

 そして紫色の海を見て、

「じーちゃん、海に…………浮かんでいないよな」

 海に浮かんでいるのは、人ではなく、泳いでいるモンスターだ。

 だが、そのモンスターも真言を襲ってこない。

「襲ってこないのは、いいことだ」

 室戸岬から離れ、真言は歩いて、次の札所に向かった。

「さて、次の札所津照寺に行くぞ」

 これが高知県の日常だ。

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