愛媛でみんな生きている4
イヨの国マツヤマの中央にあるイヨ高等学校にて、
「お昼、お昼~」
イヨ高等学校の学生食堂は全校生徒が集まっていて、建物が石造りで学生や教師は精霊や妖精・亜人にモンスターだが、人間がいる学校と変わらない、にぎやかな雰囲気だ。
「今日はこれ! 日替わりランチ‼」
フィリーは音をたてたアツアツのチキンカツ定食を持って上機嫌だ。
「と言っても、チキンカツ定食だけど」
冷静に言うアイリスは薬膳定食だ。
「日替わりランチにはデザートが付くんだよ! 今日はプリンだよ‼」
「デザートは重要な事なのか?」
濃厚鳥白湯ラーメンセットを食べているユーリナが言う。
「ショートケーキやアイスクリームとか種類は豊富だけど、デザートは自腹だよ。じ・ば・ら! 日替わりランチならタダでデザート付くんだよ!」
「デザート食べないからな」
「もったいない! プリン一口あげるから食べてみ! 甘さとほろ苦さのバランスが絶妙でマジ美味いから!」
「いいよ。欲しくない」
ユーリナがラーメンのスープを飲もうとすると、
「ユーリナぁ‼ スープくれぇぇええ‼」
叫びながら学ランのワーウルフの学生がやって来た。
「ジョ、ジョン⁉ どうした⁉」
「ユーリナ‼ スープくれ‼ ご飯にかけるから‼」
「め、飯にか……」
「見てくれ! これを‼」
ジョンが見せたのはご飯と味噌汁とお新香があり、メインに魚肉ソーセージ一本の定食だ。
「これは、あの……」
「そうだ。イヨ高等学校最安値定食、魚肉ソーセージ定食だぁ‼」
魚肉ソーセージ定食200円だ。ただし、ご飯と味噌汁お代わり自由。
「昨日、サヌキで買い物しすぎて金欠なんだ! ユーリナ、スープくれ!」
ユーリナは呆れながら、ジョンのご飯にスープを入れている。
「……スープは構わないが、初回限定特典目当てで金欠なんだろう」
「そうだ! 買いあさって金が無い‼」
ジョンは堂々と言い切ると、横にブレザーの制服を着たドラゴニュートが座った。
「おおー! 魚肉ソーセージ定食か。食うヤツいるのか?」
「エディ! ——テメェ‼ 1ポンドステーキセットじゃないか⁉ 2000円! 俺のと一桁違う‼」
スープとライス、サラダ付きの1ポンドステーキだ。焼き方はローからヴェリー・ヴェルダンまで選べる。
エディと呼ばれたドラゴニュートはレアステーキを食べながら、
「昨日、冒険者のバイトをして一山当てたからな。金入ったと同時にサヌキに行って予約しにいったからな。こいつは計画的に使わないからな」
「うるさい‼ ステーキ食えなくても、限定版は逃さん‼」
「ふん」
二人が揉めていると、
「ん?」
ユーリナたちは、何か走る人影らしきものが見えた。
「なんだあれは?」
ユーリナたちが疑問に思っていると、食堂に校内放送のチャイムが鳴った。
『ただいま、園芸部の育てている巨大マンドラゴラが脱走しました』
「園芸部か……」
「また?」
イヨ高等学校の園芸部は人間の学校みたいに、お花や野菜を育てるような部ではなく、新種の植物と言う名のモンスターを栽培するイヨ高等学校でも上位の危険すぎる部だ。
『なお、無事に捕獲出来たら、園芸部から食堂のタダ券一枚贈呈するとの事です』
「なに⁉」
ジョンは大急ぎで食べ終わると、食堂の外に出た。
「待ってろ! 1ポンドステーキ‼」
「行ったか」
「無視して食うか」
そして放課後、教室にて、
「マンドラゴラぁ~……先生に捕獲された……」
「そんなもんだ」
落ち込んでいるジョンをエディが慰めていると、アイリスが来て、
「ジョン。落ち込むのは、まだ早いわよ。あなた昨日、ゴーレム制作実習、さぼったでしょ」
「う……」
更に落ち込むジョンを見て、エディは嬉しそうに、
「さぼったもんな~」
「エディもでしょ。二人でさぼって、バイトに出かけたのでしょ」
「……」
アイリスに言われたエディは固まった。
「二人とも。放課後、ゴーレム制作しないと単位貰えないわよ」
「「…………」」
「私は委員会活動あるから見られないけど、二人とも作っておきなさいよ」
アイリスが教室を出ると、ジョンとエディは顔を見合わせ、
「どうする?」
「適当に作っておこ——」
「言っておくけど、適当に作ったら怒られるわよ」
「「…………はい」」
その後、二人は外で土を取っている。
「でも、ゴーレムってワンパターンな形だし……」
「だから、作る気ねえんだよ」
「どうする?」
「普通のゴーレム作ってもなあ……あっ! そうだ!」
ジョンは土を集めだした。
「あのさぁ……」
ジョンは、ゴーレム制作の計画を言った。
「そうか! なら、俺も……」
エディもゴーレムを制作した。
「「出来た!」」
二人はゴーレムを完成させた。
「これは傑作だな……」
「ああ! これはすごいぞ‼」
「ユーリナたちに見せようぜ」
「俺、呼んでくる」
エディはユーリナとフィリーを呼んだ。
「なんだ? 強力なゴーレムを作ったのか?」
「つまらないのなら、蹴とばすぞ」
「見ろ! 新しいゴーレム‼」
「これって……」
エディが作ったゴーレムは天空の城で有名なロボット兵だ。
「「バルス!」」
「見て早々、滅びの呪文言うなよ! せっかく作ったのに‼」
「俺たちも言わせろ!」
「それにしても……」
エディのゴーレムは歩いているだけだ。
「つまらねえ」
「ああ、なにも起こらないな」
ユーリナはemethの最初の文字eの部分を切った。切られたゴーレムは土に還った。
「だああああぁぁぁ‼ 作ったのに‼」
「エディ! 嘆くな‼ 俺のゴーレムがある! 見ろ‼」
ジョンの作ったゴーレムは巨大な——
「オメ——」
「やめろ」
フィリーが放った矢はゴーレムのeの文字に命中し、ゴーレムは土に還った。。
「うわぁぁぁぁぁ‼ 苦労したのに‼」
「フィリー、そっちは文字狙わなくても……」
ユーリナは刀を納刀した。
「ユーリナ……あんた……倒す気だったの?」
土の塊を呆然と見ていたジョンとエディは我に返り、
「待て! 俺たちの作品だぞ‼」
「そうだそうだ! せっかく作ったのに‼」
二人が激怒しているが、ユーリナたちは無視して、
「すぐ倒せるゴーレムを作るな」
「あ~あ。またヒマになった。行こ。ユーリナ」
ユーリナとフィリーは去った。
それからしばらくして二人は、
「ユーリナとフィリーめ……」
「俺たちのゴーレムを……」
ジョンは土を拾いだした。
「よし! 見てろ! よし合作だ‼」
「合作か⁉ 任せろ!」
「すごいゴーレム作ってやる……見てろよ」
「でも、なに作るんだ?」
「あっ……そうだな…………」
ジョンが新しいゴーレムのモチーフを言うと、
「なに⁉ だが……いいかもしれないな」
「そうだろう。よし! 作るぞ‼」
「ああ!」
二人の新しいゴーレム制作は朝まで続いた。
朝、
「これを……持たせて……」
「ああ! よし!」
「「完成だ‼」」
ジョンとエディは手を取り合って泣いている。
「だが、感動しているヒマは無い!」
「ああ、ユーリナたちを呼ぶぞ!」
ジョンが電話して、一時間してから、ユーリナたちがやって来た。
「ユーリナ来たか」
「来たぞ。今度は何を作った?」
「朝イチで呼んだんだ。つまらなかったら刺すよ」
「そこまでゴーレム制作って時間かかるものかしら?」
「かかるさ。見ろ!」
ジョンとエディが見せたゴーレムは——
「ユーリナ?」
「……ユーリナよね?」
「私か?」
三人の目の前にあるのは等身大ユーリナのゴーレムだ。
「私のゴーレムを作ってどうする気だ?」
「お前らが苦心して作ったゴーレムを土に還すからだ! その報復だ‼」
アイリスはメガネを掛けなおしながら、
「ユーリナとフィリーから聞きました。あのゴーレムでは不合格です」
「不合格って傑作なのに‼」
「普通のゴーレム作って何になる‼」
「普通のって……」
ジョンとエディとアイリスで言い合いになっていると、等身大ユーリナのゴーレムは動き出し、
「⁉」
抜刀して全員に斬りかかった。
「うおっ! ——すげぇ!」
「斬りかかってきたぁ! ジョン成功だな‼」
「ああ! 成功だ!」
「なにバカ言ってんだよ! どうする——」
ユーリナも抜刀して、ユーリナゴーレムに向かってきた。
「はっ!」
ユーリナとゴーレムは鍔迫り合いになった。
「ふ……。よくぞ精巧に作ったな。この太刀筋は私じゃないか」
「ユーリナ。感心するな! それよりemethの文字はどこだ⁉」
ユーリナのゴーレムには、ぱっと見ではemethの文字は見えない。
「それか? うなじにある」
ゴーレムのうなじのところにemethがある。
「そこ⁉ じゃあ——」
フィリーとアイリスが首を狙おうとすると、
「やめろ! このゴーレムは私が倒す!」
「マジ⁉」
「そんな、危険よ‼」
ユーリナは戦いながら、
「では、すぐに終わらせる!」
「はあっ⁉」
ユーリナは目に見えない速さでゴーレムの首を斬った。
「ああっ‼」
等身大ユーリナゴーレムは土に還った。
「じ、じ、自信作が……」
「簡単に負けるなんて…………」
ユーリナは刀を鞘に納めると、呆然としているジョンとエディに近づき、
「お前達、いいもの作るな! 早速ユーサマを作ってくれ!」
「へっ? ユーサマを?」
「ユーサマって、どんな姿しているんだ?」
「作れ! ユーサマを作るのだ‼」
ユーリナは刀を抜いて脅した。
「そ、そんな!」
「逃げるぞ!」
ジョンとエディはユーリナから逃げたが、ユーリナは追いかけた。
「それより、ゴーレムは?」
これがイヨの国の日常だ。