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四国でみんな生きている  作者: 山田忍
四国でみんな生きている3
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高知でみんな生きている3

 高知県。

(まずいな……)

 お遍路さんをしている水城真言は危険な状況にいた。

「……」

 真言の周りを四匹の赤い色のスライムに囲まれていた。

「うおっ!」

 スライムの一匹が真言に向かってきた。真言は間一髪、スライムから避けることに成功した。

「くっ……」

 高知県のスライムは香川県のスライムとは違って凶暴で素早く消化液も強力で大きい。

「ったくよぉ……」

 真言は囲まれて身動きが取れない。

(くっそ~! これがぷよなら勝手に消えるのに‼)

「⁉」

 スライムが一斉に飛びかかった。と、同時に真言は走って逃げた。

「今だ‼」

 真言はスライムから逃げることに成功したが、スライムは速いスピードで追いかけて来る。

「来るなああああ‼」

 それから、スライムに逃げ切った真言は座り込んで、水を飲もうと、ペットボトルを見ると……空だ。袋を出すと、食糧も……無い。

「…………」

(やばいな。確実に死ぬな)

 お遍路さんの白装束は清浄な着衣や仏の前では皆、平等なので白装束を着るとも言われているが、それ以上に有名なのは、いつ死んでもいいように死に装束を着ているとも言われている。

 そして、金剛杖もお大師様の化身とも言われているが、自分が死んだ時は卒塔婆になる。

「最御崎寺に行けば、食事や補給が出来るのだが……」

 高知県で札所と言うのは、冒険者にとっても、重要な場所で避難場所でもあり、食事つきの無償の宿だけではなく、武器や食料の補給所も兼ねているので冒険者やお遍路さんにとっては欠かせない場所なのだ。

「最御崎寺まで……まだまだだな」

 実際は、真言のいる所から最御崎寺までもう数キロなのだが、人間以外全てモンスターの高知県では数キロが厄介なのだ。

「……」

(走るか。上手く逃げることが出来れば、最御崎寺に行くことは可能だ。最御崎寺に行けば、結界が張っているから、中に入ればこっちのものだ。だが失敗すれば、俺は間違いなく死ぬな。……あり得ない話だが、どこかに人間がいてお接待をしてくれれば、余裕を持って最御崎寺に行くことが出来る)

「……よし」

 真言は無言で走り出した。

「……」

 真言はひたすら走った。

「……」

 走った。

「……」

 真言が後ろを見ると、

「⁉」

 後ろから、モンスターの集団が追いかけていた。

「やっぱり大群‼」

 真言は絶叫して逃げ出した。が、モンスターは更に増えた。

「倒したら、もっと簡単なのに‼ くそぉ‼」

 走ってモンスターから逃げだしていると、目の前には人間の集団がいた。

「おい! 逃げろ‼」

 モンスターに追いかけられている真言に人間たちは気付いた。

「⁉ えっ‼ あっ、ああっ‼」

「いったん、離れろぉ‼」

 人間たちは物凄い速さで真言と一緒に逃げ出した。

「「「「わああああああ」」」」

「逃げろ‼」

 真言と人間たちは同じ場所に隠れた。

「はあ……はあ……なんで?」

(人間がここにいるんだ⁉ グールじゃないよね⁉)

「えっと……人間で——」

 真言が話を聞く前に、人間たちは真言に向かって、

「困るなー‼ キミぃ‼ 撮影中なのに‼」

「さ、撮影中⁉」

 人間たちを見ると、テレビやマンガで見た業界人の服装の人物たちがいる。

(撮影、か……)

 真言は昔、祖父とお遍路をしていた時、高知県で不法侵入をして企画ものDVDの撮影をしていた連中を救出したことを思い出した。

「今、撮影しているんだよ! 番組名は——」

 それは真言でも聞いたことがある有名な番組だ。事実、テレビで見た女性タレントがマネージャーらしき男と一緒にいる。

「そ、それはすみません……。邪魔をするつもりはなかったのですが……」

 ADらしき若者は真言に向かって怒っていると、プロデューサーらしき人物が、

「まあ、待て。こんな高知県に人間がいるんだ。インタビューをしてみてはどうだ?」

「えっ?」

「さあ。撮影するぞ」

「えっ、ええっ⁉ そんな⁉」

(やべぇぞ……最御崎寺まで行きたいのに……)

 真言の考えは無視してスタッフたちがインタビューの準備をしていると、プロデューサーは小声で、

「後で、お礼もあげるよ」

「やります!」

「じゃあ、キミ! そこから歩いて来てね」

「はい!」

 真言はプロデューサーの指さした所から歩いていくと、タレントはワザとらしく、

「あれは……人でしょうか? ちょっと、近づいてみます! すみませ~ん」

 真言も気付いたふりをして、インタビューを受ける。

「なんでしょうか?」

「あのー? 人間でしょうか?」

「そうです」

「では、なぜ高知県を一人で歩いているのですか?」

「お遍路をしているのです」

「お遍路って、あの四国八十八か所回る?」

「はい」

「一人で……ですか? こんな異世界を?」

「いいえ。同行二人と言い、お大師様と一緒にいる思いで巡礼しているのです」

「はあ……では、修行のため、ですか?」

「そう、です、ね」

(本当はじーちゃん探しているんだけど、じーちゃんについて聞かれたら面倒くさい事になるから、言わない方がいいだろう)

 タレントはカメラを見て、

「異世界となった高知県にも、修行をする者がいるんですね」

(修行……なんだか四国が誤解されそうだ)

「ここ、高知県は——」

「⁉」

 真言には、音が聞こえたが、スタッフたちは気付いていない。)

(なんだ? 足音……?)

 真言だけ聞こえる足音が更に近づいてくる。

「おい‼ 離れろ‼」

「離れろって、いったい……」

 モンスターが三体出て来た。

「モンスター⁉」

 だが、スタッフたちは逃げるどころか、

「撮影しろ‼ これはいいチャンスだ‼」

「逃げないと、危ないですよ! さっきは逃げたじゃないですか‼」

「さっきは、十体以上いたからだ! 三体程度なら撮影できる‼」

(マジか⁉)

 モンスターは、三体ともガルムで輝く赤い四つの目で彼らを睨みつけている。

「くっ……」

 ガルムは撮影しているスタッフの首に向かって噛みつこうとしている。

「うわっ‼」

 プロデューサーも襲われそうになったが、間一髪で逃げた。

「た、助けて……」

 タレントは真言に抱き着いたと同時に、ガルムが噛みつこうと近づいたが、タレントを連れ真言は避けてガルムから離れた。

(それにしても……)

 モンスターにこれだけ襲われていることに、真言はある疑問を持った。

「おい! 護衛の冒険者は⁉」

 普通、戦闘が出来ない者が徳島や高知に行くには、冒険者が護衛について行くのだが、テレビ局のスタッフだと言うのに誰もいない。

 すると、プロデューサーはとんでもないことを言った。

「それが、香川県や愛媛県の撮影許可は下りたけど、高知県の撮影の許可が下りなくて、無許可で撮影をして、後から許可を取って放送する気でいたから」

「な、なんだと‼」

(つまり、冒険者は無しか‼)

「くっ」

 一体のガルムは真言を狙っている。

「俺かよ……」

 タレントは震えて、

「その杖で叩けば……」

「それは出来ません‼ この金剛杖はお大師様の化身なのです。金剛杖で叩くなんて、もってのほかです‼」

「じゃあ、どうするの⁉」

「⁉ ……そ、それは」

 一体のガルムは真言を狙い、後の二体は暴れまわっている。

「仕方ありません……」

 真言は左手に銃を持った。

「これは、お大師様も許してくださるでしょう」

「えっ⁉」

「左手には炎を」

 真言の左手には炎が纏わりついた。

「炎」

 三体のガルムに一発ずつ銃を撃つとガルムの全身は炭になり燃え尽きた。

「…………」

 全員、ただ真言を見ている。少しすると、タレントが真言に話しかけた。

「……あ、あの⁉ なぜ、こんなに強いのなら、戦わないのですか⁉」

「……それは、十善戒の一つ、不殺生(ふせっしょう)ですよ」

「不殺生?」

「故意に生き物を殺してはいけないのです。それゆえ、簡単にモンスターとは言え、命を奪ってはいけないのです」

「そ、そうですか……」

(本当は倒したいよ。本当は!)

「すごいですね……」

 タレントはキラキラした目で真言を見つめている。

(おおっ! ラッ——)

 真言が抱きしめようとすると、

「はいはい。ダメです!」

「ダメだ‼」

 マネージャーやADに止められた。

「そ、そんな……」

 真言が落ち込んでいると、プロデューサーは聞いてきた。

「あの炎はなんだね⁉ あれは魔法か⁉」

「うっ……」

(見られたか……)

 だが、真言は冷静に、

「あれは、炎が出る弾丸ですよ。イヨの国の一部で売っています」

「イヨの国でか⁉ 行った時、無かったぞ‼ もう一度調べなおすんだ!」

「はい!」

 プロデューサーは真言の手を握り、

「キミのお陰で良い絵が撮れたよ! これはお礼だ‼」

「お礼⁉」

 真言はプロデューサーから、お礼を受け取ったが、

「えっと……お礼?」

 貰ったお礼は一万円札だ。

「あのー……これ?」

(食糧とか、水は?)

 真言の気持ちはつゆ知らず、プロデューサーは笑って、

「要り様だろう! じゃ‼」

 スタッフたちは大急ぎで撤退した。そして残されたのは真言一人だ。

「…………」

(お接待は……現金? 嬉しいけど、ここは高知だぞ。食糧や水は?)

 近くにはモンスターの集団がいるのが見える真言は、

「最御崎寺までフルダッシュだー‼」

 真言はモンスターを連れて逃げた。

 これが高知県の日常だ。

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