香川でみんな生きている
香川県高松市。
うどん県、うどんの国と言われている香川県。
そのうどん県の町中にある、毎日繁盛しているセルフうどん屋は、今日は日曜日なだけあって、家族連れも来て行列になっている。
そのセルフうどん屋の中は、美味しそうなおでんやアツアツの天ぷらがたくさんある。
行列では、おばちゃんに注文している人々がいる。
「かけの中」
学生らしき若者が注文している。
「ぶっかけの大」
作業員らしき男性が注文している。
「肉うどんの大」
コボルトが注文している。
「釜玉の小」
ホブゴブリンが注文している。
「時間かかるけど、ええ?」
受け答えするおばちゃんは、ホブゴブリンに番号札を渡しながら言った。
「はい」
番号札を受け取ったホブゴブリンはカボチャの天ぷらを取っている。
カウンターに座っている学生らしき若者の隣にコボルトが座って肉うどんを食べている。
これが香川県のうどん屋の日常だ。
場所は変わり、とあるアニメショップの中だ。
アニメショップの中はキャラソンやアニメが流れており、人が沢山いてにぎやかだ。
「ねえこれ」
「わあ!」
人間の女の子とエルフの女の子が嬉しそうに買い物をしている。
町中で歩いている小学生たちにスライムが近づいてきている。
「あっ、スライムだ」
「ああ。スライムや」
小学生たちはスライムを無視して歩いている。
日曜日の華やかな商店街は人間と亜人や妖精や精霊、モンスターなどで賑わっている。
そして郊外の畑が多い家では、母親が子供に叱っている。
「駄目じゃないの‼ マンドラゴラを抜いちゃ!」
「えー。なんで?」
「マンドラゴラを抜くと叫び声をあげるの、その叫び声を聞くと死んじゃうの‼ マンドラゴラを抜く時は役所に言わなきゃいけないの! 数日してから来て周りを避難させてからマンドラゴラを抜くの」
「めんどくさい」
「そうよね。増えるかもしれないし……こういう時は」
母親はどこかに電話をしている。
一方、町中の一軒家では、
「あらやだ。強盗?」
老夫婦が住んでいる家は荒らされて、家具は倒れている。
「だけど、金は盗まれていないし、これを見ろ」
「あ!」
壁には口紅でQの文字がある。
「もしかしたらクイックシルバーが荒らしたのかもしれない。調べてもらおう」
老夫婦の夫は電話をかけている。
電話をかけている頃、香川県の空には、箒を使って空を飛んでいるフリフリの魔女っ娘ルックの魔法使いとピンク色のウサギのぬいぐるみがいる。
魔法使いは輝くような大きな青い目に艶やかな深緑色の長い髪の美しい少女だ。
スマホが鳴っているので服のポケットにあるスマホを浮かばせて耳に近づけ魔法使いは対応する。
「はい。こちらはカレンですけど……」
『ああ、マンドラゴラがいるから取ってほしいんだけど……』
「えっと……場所は?」
『場所は——』
「ああ、そこですか。では、今から向かいます」
魔法使いが箒を猛スピードで飛ばしていると、またスマホが鳴り、
「はい。カレンですけど……」
『魔法使いさん。クイックシルバーかもしれないから見てくれない? 後、荒らされているから直してくれない?』
「わかりました。少し時間がかかりますけど、よろしいですか?」
『はい』
魔法使いは最初に頼まれた母子の家に到着した。
「来ました。マンドラゴラは?」
「ああ、これです」
畑には小さめのマンドラゴラが生えている。
「わかりました」
魔法使いは呪文を唱えると、マンドラゴラに薄い膜が出来た。
「これで」
魔法使いが違う呪文を唱えるとマンドラゴラが音も無く抜かれた。
「はい。これで問題ないですよ」
「ねえねえ。どうやって抜いたの?」
「魔法でマンドラゴラが叫び声をあげても聞こえないようになる魔法をかけたの。それで抜いても聞こえなくなって安心して抜く事が出来るの」
「へえ……すごいね。ありがとう! 魔法使いのお姉ちゃん!」
「お姉……ちゃん……。じゃあ、行くね」
魔法使いは箒を使って空を飛び去って行った。
「……」
母親は遠くを見ながら、子供の頭を撫でた。
「次は……」
魔法使いは老夫婦の家に来た。
「遅くなりました」
「いいのよ。調べてちょうだい」
「では」
魔法使いの杖が光ると映像が映った。
「「おおっ!」」
映像には、誰もいないのに物が飛び回っている。そして、壁には口紅でQの文字が書かれている。
「やはり、クイックシルバーですか」
「そうですね。では、荒らされた部屋は直しましょうか」
魔法使いが呪文を唱えると、荒らされた部屋は元通りになった。
「ありがとうございます! なんとお礼を申し上げれば……」
「これは、お礼に……」
老夫婦は一万円札を持ち出すと、
「そんな! お礼は要りませんよ!」
「お、お礼は要らないのですか⁉」
「はい! お金が欲しい訳ではないので」
「では……本当にありがとうございます‼ 魔法使いさん!」
「礼を言われるほどでは、ありません‼」
魔法使いは去った。
「ふう。電話は鳴ってないね。帰ろうか」
「そうだべ」
ぬいぐるみは片手を振って喋った。
魔法使いは一軒家に飛んで行った。
一軒家の正体は居酒屋で店の名前は『黄色いうさぎ』だ。
居酒屋の中には老婆が仕込みをしており、メイド服の少女が掃除をしていて、魔法使いによく似た魔女っ娘ルックの少女が座っている。
「ただいま」
「おかえりなさい」
メイド服の少女は言った。
老婆は何事もないように、
「帰って来たか」
「うん」
魔女っ娘ルックの少女は、
「あら、魔女っ娘カレンちゃんのお帰りね」
魔法使いは寄って来て、
「ラブ様‼ 僕は男なんですよ‼ 宮田憐って名前の男の子なのに! なんで女の子なんですか⁉ 今日も子供にお姉ちゃんって言われたんですよ!」
「いいじゃない! お姉ちゃんって、それだけカワイイって事じゃない!」
「かわいくても、男ですよ‼ お兄ちゃんならまだしもお姉ちゃんって⁉ ラブ様、男の子の格好させてくださいよ!」
「女の子の方がカワイイからダメ‼」
「ラブ様~‼」
「カワイイこと武器だべ! カレン!」
たくさん説明しないといけない事があるが、まず香川県について説明しないといけない。
二十一年前、高知県桂浜に異世界のトンネルが開いた。
異世界のトンネルが開いた事で大量のモンスターが流れ込んできた。
それにより、徳島県、愛媛県、高知県は強力なモンスターが人間を襲う地獄絵図になった。
それを知った政府は、なぜか迅速に動き、単身赴任や観光客だけ出して空港を閉鎖して、瀬戸大橋と瀬戸大橋線、西瀬戸自動車道、大鳴門橋にバリケードをし、海には船が監視して四国の人間を閉じ込めた。
逃げられなくなった四国三県の人間は、比較的弱いモンスターしかいない香川県に避難した。
大パニックで逃げまどっている中、助けたのが、大魔法使いラブだ。
ラブにより、危害を加えるモンスターは倒され、死んだ者は蘇生し、壊れた物を直し、人類を助けた。
助けられた四国三県の人間は弱いモンスターしかいない香川県に住む事にした。
幸い生活用品等の輸送は、全て直島を拠点にして運び込まれている。
その人類を救った大魔法使いラブの弟子が、男の娘魔法使いカレンだ。
男の娘魔法使いカレンは、魔法を使い困っている人を助けている。
そしてピンク色のうさぎのぬいぐるみはシャンティと言い、カレンの助手だ。
「⁉」
『モンスターです。モンスターです』
スマホからけたたましく鳴っている。
「モンスター緊急速報か⁉」
「モンスター緊急速報メールが入ったみたい。場所は?」
「観音寺じゃ。ワイバーンだな」
モンスター緊急速報メールとは、香川県、愛媛県で強力なモンスターが現れた時、避難準備情報の対象地、避難所、モンスターや理由、概況、とるべき措置を教える香川県のスマホ・ガラケーには必ず入っているアプリだ。
「じゃあ、行って来る!」
「憐、行くのか⁉」
シャンティはカレンの肩に乗り、カレンは箒を持って飛び出した。
カレンは箒に乗って空を飛ぶと、十分ほどで着いた。
「あっ!」
他のドラゴンと比べると華奢で小型のドラゴンが空を飛んで暴れている。
地上を見ると、警察が一般市民を避難させ、自衛隊が攻撃をし、ダメージを受けるとワイバーンは突進してきた。
「「わあーっ!」」
自衛隊はいったん離れてから攻撃態勢に戻った。
「やめなさい!」
カレンは攻撃魔法を使うと、ワイバーンに当たった。
ダメージを受けたワイバーンはカレンを見ると、カレンに向かってきた。
「きゃっ!」
カレンは間一髪、避けた。
「こうなったら……」
カレンは呪文を唱えると、強力な攻撃魔法を出した。
攻撃魔法がワイバーンに当たるとワイバーンは落ちていき、
「危ない!」
カレンはワイバーンを魔法で空き地に移動させた。
「後は、自衛隊とかに任せよう」
「そうだべ」
カレンは空を飛んで去って行った。
そして、残された警察や自衛隊は、
「また、カレンに助けられたか……」
「我々も助けられてばかりではいけないな」
黄色いうさぎに帰って来たカレンは、
「疲れた~」
カレンは座敷の上に倒れた。
「強力な魔法を一回使って疲れたのね。まだまだ修行が足りないわね」
「……そうですね。ラブ様」
「カレン。元気になったら、修行よ」
「……はい」
カレンはよたよたと奥に向かった。
これが香川県の日常だ。