現異世界‐スペースファンタジー
青々しい草の芳しい匂い。
異世界の空だ。
憧れのシチュエーションを胸の奥まで堪能して、溜息をつく。
率直に現世が恋しい。
麗らかな春の、風景がセピアに見えるくらい心が渇望している。
鳥達の歌う世界に、少女の歌が反響する。
類稀に美しい容貌、天使と形容して余りある、形容矛盾に悪魔とも、見方によっては見える。
そんな少女の、空に見開かれた蒼。
澄み渡って向こう側が見えてしまいそうな。
果てなく綺麗で澄み渡りすぎて歪な、非人間的な二次元の抽象画のような人。
その瞳の向こう側にある、己の姿を確認して、頭上、澄みわたった紺碧の空。
「・・・きれいだな」
瞳に別世界を内包していると言われて、信じざるを得ない。
不可思議なファンタジー設定は、幾らでも許容する、ここは異世界だ。
「らしくもなく、褒めるのですね」
歌うのやめてしまい、こちらに歩いてくる。
一言目にそう呟いたのは、読唇で聞こえた。
なにかもう、この重くて重くて、無気力少しも働かない頭は使えない。
俺は何も考えずに、しばらく眠っていたかった。
いったい、何が起きたというのだろうか?
気付いたら夜だった。
昼は涼しく、夜は寒々。
秋なのだ、昼ぽかぽかとした春陽気だったのがすっかり変わっていた。
この柔らかい草原天然ベッドよりも、少女の部屋のベッドの方がいい、俺は立ち上がった。
視界の端、獣道傍らに咲く菫草などなど、歪なほど自然に花々が群生している。
これも、何一つ俺の知らない異世界の常識光景だ。
「まあ、これは所詮、どうせ夢だろ。
ふぁああ、眠い眠い、まだ寝たり無いぜ、俺を夢から起こさないでくれよぉ」
木々が遮る月光。
昼は太陽光を遮ってくれていたソレは、今は帰り道を遮る。
夜の森でも、動物達は眠っていないようだ。
涼しげな木の枝で、小動物。
鼠やリスやその他、ちょこちょこした身軽なのが跳ね回っている。
何匹の蝶が舞っていて、一羽、俺の肩に舞い降りてきた。
「なんだ?」
俺の鼻先に止まろうとしたので、軽く払いながら、その虹色の半身を凝視する。
「ったく、俺が眠れやしねぇ。
ま、実のところ、そんなに眠くねぇんだけどさ。
はぁ、俺の妄想力もここまで来れば、商売できるぜ。
こりゃ帰ったら、異世界ファンタジック小説で出版だな。
まあとりま帰れれば、だな。
俺は一度ぐらい、尾瀬に行ってみろって、神のお告げってことなんかね」
「独り言ばかりしていて、むなしくない?」
蝶があの少女の声で、独特なオリジナリティ言語を発する。
好みじゃないな、ファンタジー設定の説明も無く適当だな。
「馬鹿だな、お前に話してたんだよ、気づかなかったのか?」
「嘘ですね、声質等で分かります、私に嘘は通用しません」
「そうかい、まあどっちでもいいだろ」
そうだ、夢の中であるのだから、ありとあらゆる何でもよいだろう。
「適当でいいんだよ、適当で」
蝶がひらひら付いてくる。
森林木陰からまろびでて、月の光を身に浴び、三十割増し程度の星空を見上げる。
ながら、天然自然の芝生絨毯の上を歩いて、みるみる内に眼前の建築物へ。
「ああ、んか足裏が痛いと思ったら、俺が裸足かよ、夢なのに気がきかねーなオイ。
・・・あれ?」
俺は少女の部屋に入った、が少女がいない。
「わたしは、此処ですよ」
蝶々は俺の肩のままだ。
気付けば、コイツ、途中から何も話さなくなっていたっけ。
「そうか、変化だったか」
瞬間的に、俺の肩に寝巻きの少女現われるである。
夢の中のはずなのに、妙にリアルだ。
なにもかも、いやになるね、もっとご都合主義で行けよ。
「ふあぁ」
寝る前に着ていたものと、寸分違わない、まったく埃だらけで薄汚れた同じなのである。
「ふうん。
ま、連続、そんなこともあろうわな。
まだ夢から醒めれないとはな」
「おはようございます」
「ああおはよう。
寝てる間に、怪我も治ってればいいなぁ」
まだ妙にふわふわ、頭が回らない。
と、雲の上に乗った無重力な気分。
少女が朝から歌っている、俺のことは気にしない。
天丘を下りながら、下界に落とされるような、リアルな感覚を蘇らせてくれる。
俺はその唄を最後まで聞いて、いつしか一緒に口ずさむ。




