2-7.イメージ
「とりあえず、とりあえずだ。これは魔法なのか?」
「うん、魔法だよ」
俺は壁に空いた穴を覗き込む。
どうやら貫通はしていないようで、穴の奥は何も見えない。
「俺にはエウにしか撃てない銃で壁を撃った、にしか見えないんだけど」
「そうだね。悠が銃を持って、その壁を撃ったら同じ様になるはずだからね」
「たぶんな」
「私はそのイメージを持って壁を撃っただけ」
「全く意味わからん」
「その銃さえもイメージが具現化したモノに過ぎないよ。
私は壁を撃ちぬくイメージを持って引き金を弾いた。でも結果は途中で止まっちゃったみたいね」
「……ってことは壁そのものを壊すイメージで撃てば壊れるかもしれないってことか?」
「その思いが強ければ強いほど、壁が受けるイメージは強くなる」
「壁が?」
「うーん……例えばだけど、この国って八百万の神が居るって、聞いたことない?」
「ああ。なんにでも神様がいるんだっけ」
「私が思った事を壁にいる神様が勘違いして穴を空けた。
でも神様は壁を突き抜けるイメージは持たなかった。こーゆーのはどう?」
「よくわかんねぇ」
「もう、しょうがないわね」
エウはなにやら部屋を物色し始める。
物色されていい気はしないが、俺の為にしてくれるのだと思うと何も言えなかった。
「あ、いい物があるじゃない」
エウが手に持っているのはライター。友達が置き忘れていった物だろう。
ライターで火を点けようとしているのか、
しかし最近のライターはチャイルドロックってものが付いている。
いくらノックしても点くはずがない。そのことにイライラしたのか、エウがライターを手渡してくる。
「点けてみてよ」
「はぁ? なんで?」
「いいから」
俺は渋々ロックを外し、火を点けた。
ライターからはオレンジと青の光が出ている。至極当たり前の事だ。
「使えたじゃん」
「当たり前だ、大人を舐めるなよ」
「それは魔法で作られたものなのに?」
「え……」
俺はもう一度ロックを外し、火を点けようとする。
先ほどまでは簡単に点いたはずの火が、まるでガス欠でも起こしたかの様に微動だにしなかった。
「それがイメージするってこと」
「で、でもよ……」
ただタイミングよくガス欠になっただけだろう、そうに違いない。
俺の不満そうな顔がよほど気に入らなかったのか、エウは俺の目の前に立ち、顔を近づける。
「もー! こんなに解り易く言ってるのに!」
「全くわからんぞ。俺は理系だし……」
「ふ~ん。理系だから科学で証明できないことは信じられない?」
「全部がそうじゃないけど、大抵はな」
「なら一足す一は?」
「二だろ」
「なんで?」
「なんでって……。一に一を足したんだから二に決まってるじゃないか」
「そう、それなの」
エウは満足したかのように俺から離れ、布団へと座った。
対する俺は床に座り込んだまま、何もわからず首を傾げるだけだ。